第21話 我を失う
「やっぱり来てたみたいね。ジュリーことだから、一人で動き出したんじゃない?」
面白半分にアリシアが訊いてきた。
二人は性格が似ているせいか、物凄く気が合うようだ。
「ああ、そのようだ」
とても不安そうにパルマンは返した。
「そんなに心配することないわよ! 彼女、やるときはしっかりとやる子だから!」
そんなことは言われるまでもなかった。だからと言って、心配が拭い去られるわけではない。
「ジュリーは頭も良いし、どこまでが危険かどうかの線を見極める術もしっかりと身に付けている女性だ。彼女に限って無茶な行動はしないと思うがな」
パルマンとジュリアナが巡り合ったときの事件にミハエルも関わっていた。自分と同い年でありながら、彼女の調査員としての類まれなる資質を高く評価していたのを覚えている。
(それはそうだが――)
心から愛しているだけにそこまで楽観視はできない。余計に気が気ではなかったし、不安が募る一方だ。
「目的地まであと何分ぐらいだ?」
パルマンは気持ちを紛らわそうと誰にでもなく訊いた。
「だいたい後二十分ってところね」
アリシアが女の子らしい腕時計を見ながら答えた。
「まだかかるな」
「着いたら、嫌でも忙しくなる。この貴重な移動時間に体を休めておくんだな」
今はミハエルの言葉におとなしく従うことにした。これまで以上に一秒でも早くこの事件を解決したかった。
☆
フレデリクスはそれなりに高級な二階建ての一軒家に住んでいたようだ。
夕暮れに差しかかる頃、二台の
パルマン、ミハエル、アリシアの三人は正面から、ロマーディオとヴァネッサは裏手口から潜入を試みた。
あいにく鍵は持っていない。やむを得ずドアの鍵穴を銃で撃ち抜いて、侵入することにした。
先ほどのアリシアの言葉どおり、どうやら待ち伏せはされていないようだ。残る問題は罠が仕掛けられていないかどうかだ。
パルマンは玄関のドアから少し離れた位置で大口径のプラズマ銃を撃とうとしたが、寸前でそれは起こった。おそらく、こちらより先にロマーディオかヴァネッサのどちらかが裏手口の施錠を破壊したのだと想像できた。
フレデリクスの家から激しい爆発音が響き渡り、たちまち凄まじい業火に包まれる。やはり入念な罠が仕掛けてあったのだ。
「チッ、またしてやられた!」
これでは何一つ証拠らしき物は入手できないだろう。無論、それよりも今はやるべきことがあった。
「二人のところに行くぞ!」
パルマンは大口径のプラズマ銃をホルスターに戻してから、全力で家の裏手を向かって駆け出した。近所の住人がやっているかもしれないが、救急隊への連絡も忘れない。
燃え盛る紅蓮の炎と
「おい、ロマーディオ、目を開けろ!」
パルマンは気絶したロマーディオを抱きかかえると、頬を軽く数回叩いた。ヴァネッサにはアリシアとミハエルが救助を行っている。そのとき、付近に複数の人の気配を感じ取った。
パルマンたちの周囲には待ち構えていたように既に
フレデリクスが死んでから、まだそれほど時間も経っていない。完璧な準備を整えるだけの猶予がなかったと推察できた。
ロマーディオとヴァネッサは依然として意識を失ったままだ。この場は三人で戦わなければならない。
(またか! また後手に回ったのか!)
パルマンたちは沸々を湧き上がる憤激に支配されようとしていた。
「ここは俺たちだけで戦うぞ!」
それだけ言うと、
いきなり一対三になったが、
強靭化した手下たちも
「俺に同じ手が通用すると思うなよ!」
雄叫びを上げるパルマンはまるで戦神のようだった。ただ、普段の冷静な戦い方とは大きく異なっていた。
(俺のせいだ! 俺がもっと慎重に動いていたら――)
不意に手下の一人がパルマンの背後を捉えた。そこへ、瞬間転移したミハエルが雷天の力を宿した
「パルマン、いったいどうしたんだ? お前らしくない軽率なミスだぞ!」
だが、聞く耳を持たなかった。次の手下に駆け出していく。そのまま勢い任せに小剣で突き刺した。まるで鬱憤を晴らしているようにも思えた。
手下たちは半分まで減った。さらに光天の力を宿らせた強弓を持つアリシアの放つ光の矢が一人の手下の頭部を射抜いた。
強靭化した秘密結社の手下たちは仲間がいくら殺されようとも、全く怯える様子も見せずに襲いかかって来た。ただ、ここまで来れば、ほとんど勝ったようなものだった。
三人の改造人間による激闘の末、十人ほどの手下たちは全員始末された。ただ、パルマンの心に取り憑いた激しい怒りの炎は消えなかった。
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