第18話 後始末

 熾烈を極めた激闘から十五分が過ぎた頃、十台以上の都市警察シティーポリスの車両とそれを上回る台数の救急車両が到着した。さらに多数のマスメディアも集まっていた。


 今回の戦いで一般市民から多数の死者が出た。しかも、瓦礫の下敷きになっているケガ人も少なくない。


 重傷者が続々とタンカーで運ばれていく。そんな中、ミハエルは都市警察の刑事にこの場でいったい何が起こったのか、事件の大まかなあらましを説明していた。もちろん、核心部分は伏せながら。とは言っても、殺戮機兵カルネージの残骸を見れば、誰もが不審に思うだろう。


 パルマンは絶滅特殊部隊アナイレート・フォース隊員メンバーということで、半ば優先的に手当してもらった。

 救護隊員の見立てだと、三か所の引っかき傷はそれほど深手ではないということだ。それを聞いて、一応安心した。


 ロマーディオたち二人が助太刀に駆けつけられたのは、機転を利かせた分析官アナリストのベリンダのおかげだった。まだ同じ地区にいたロマーディオのスマートフォンに連絡を入れたのだ。

 さすが頭脳明晰な分析官だけはあると心から感謝した。


 一通りの聞き取りが終わり、絶滅特殊部隊の隊員だけになったところで、パルマンは自分が肝心の切札である特殊な組み込み式内臓ストレージ――PUDを持っていないことを明かした。


「でも、何で長官がそれを持っていくんだ?」

 ロマーディオは意味が分からないとばかりに訊いてきた。だが、この場にいる誰一人として答えられる者はいない。長官とはそれほど特別で、近づき難い存在だった。


「それについて何か知っている感じもするわね」

 アリシアはきな臭そうに言葉を口にした。

「ヴァネッサが長官に訊いてみるのはどうかな?」

「長官をあまり見くびらないほうがいいよ。あの人の心は誰にも読めないから――」

 遊び半分で話す年下のアリシアを思考読破者ソウトリーダーのヴァネッサがたしなめた。


「まぁ、ここで立ち話していても何も始まらない。取りあえず一度本部に戻らないか?」

「俺もミハエルと同意見だ。俺らがこれ以上メディアに目立つのも面倒だしな」

 パルマンの言葉に誰も異論はなかった。五人はそれぞれ乗ってきたエアヴィークルを置いた場所に向かった。


 私服姿のロマーディオとヴァネッサはともかくとして、残りの三人は制服姿の上に絶滅特殊部隊専用のエアヴィークルを大通りに停止させていた。


 マスメディアの群れの餌食となりながらも、無言のままで急いで乗り込んだ。それから先は自動運転で本部に戻るだけだ。

「あのフレデリクスって男の最初の言葉を覚えてるか? 俺らの行動を先読みしていたような口振りだった」

 パルマンは思い出しながら口に出した。


「確かに、鼻からあの場所で待ち構えていたようではあったな。僕たちがあの酒場に行く確信でもあったんだろう。こちらの行動が先読みされていた可能性は捨て難いな」

 ミハエルの言葉に車内は静まり返る。


 秘密結社の連中にまんまとしてやられたのだ。さらに付け加えるとしたら、計画を実現するためなら、街を破壊しても構わないだけの決死の覚悟を秘めていた。次はどんな手段を使ってくるのか、最大限に用心する必要があった。


「ギャングのボスもあいつらに殺されちゃったし、また振り出しに戻ったわね」

 アリシアが意気消沈する。

「まだ全ての手がかかりを失ったわけではないけどな。最初に俺を狙ってきたゴルティモアとさっき自殺したフレデリクス。この二人の化けの皮を剥がせれば、道は開けるはずだ!」

 無論、相手もその点は十分分かっているだろう。二の轍を踏まないためにも、対策を講じる必要があった。


「残る希望はロマーディオたちがヒュリエント社のどんな情報を持ち帰ったかによるな。その会社の人間が《黄昏の粛清者エピュラシオン》と関わりがあれば、一気に黒幕を暴き出せるかもしれない」

 ミハエルは期待を込めながら言った。


(そうだ! まだ希望はある!)

 パルマンは自分に言い聞かせていた。

 そうでも思わなければ、今にも憤怒の炎に心が燃やし尽くされそうだった。

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