第16話 ハメられた最初の罠
もぬけの殻となった店内を監視する部屋を確認した後、パルマンたちは開け放たれたままの《ハンニバル》の店員専用の出入口から外に出た。逃げた奴らから一分ほど出遅れていた。
左右に抜ける細い裏道に怪しげな人影は見えない。ここは手分けして探すしかないと思った矢先だった。
『街にある監視カメラから逃走するマルケスタと思(おぼ)しき人物を見つけたわ! 仲間を一人だけ連れて、大通りに向かってる!』
(ここからなら右の道を行ったほうが早い!)
パルマンたちは焦燥感を
一分もかからずに表通りに出たものの、それらしき人物は見かけなかった。
既にどこかに逃げられてしまった。三人の脳裏に不吉な考えが
『ちょっと待って。マルケスタたちが急に足を止めたわ。ここからじゃ見えないけど、誰かに呼び止められたみたい。大通りには向かわずにそっちに向かっていくわ』
「おい、ベリンダ、そっちってどっちだ?」
パルマンが声を荒げる。まだ運はこちらに味方している。そう思いたかった。不意に近くで若い女性の悲鳴を聞くまでは――。
「向こうだ!」
ミハエルは銃身の長い二丁のプラズマ銃の一丁で行く先を差しながら駆け出した。すかさずその後を追う。
何が起こったかは分からないが、悲鳴を上げた若い女性は全身をブルブルと震えさせながら地面に座り込んでいた。
その道の先には、ネイビーのスーツを着た金髪のミドルヘアの男が立っていた。片方の手にレーザー光線式の
男のすぐ近くには二人の男が口から血を流しながら倒れていた。マルケスタとその仲間だとすぐに分かった。
怖がる若い女性をミハエルが立たせてその場から逃がす間、パルマンとアリシアはその男に銃口を向けた。
「今すぐ銃を捨てて、両手を上げろ!」
「威勢がいいな、餌に食いついた野犬たち。これを見ても、強気でいられるかな?」
不意に謎の男の周りに五人、背後にも同じ人数の手下たちが現れた。
両手にはレーザー光線式マシンガンを構えている。さらに上空には機体の下部に大砲を搭載した八機の
殺戮機兵に腕らしきものはない。大砲が唯一の攻撃手段なのだろう。
「俺は《
前回の一件を知っているのか、口振りに驕りはない。警戒しているようにも思える。
(待ち伏せとは上手く嵌められたな)
挟み込まれる形で銃口を向けられている以上、抵抗する術もなかった。しかも、上空を飛ぶ殺戮機兵がどんな攻撃をしてくるのか分からないだけに不気味だった。
「みんな、銃を下に置くんだ」
赤外線スコープから照射されるポインタが三人に急所に当たる中、降参したように大口径のプラズマ銃を地面に置いた。PUDが手元にあれば、交渉の余地があったのだが、ないものは仕方ない。このときばかりは長官を恨んだ。
パルマンらしくない態度を不審に思いながらも、ミハエルもアリシアも銃を捨てた。
「ほう、神妙な心がけだな。そのまま手も上げてもらおうか?」
「分かった」
フレデリクスの言われるままに両手を上げた。
「おい、どうしたんだ?」
言いなりになるパルマンにミハエルが小声で問い詰めてきた。
「いいから俺を信じろ」
押し殺すその言葉は何か奇策を秘めているように感じた。それに賭けるように残りの二人も手を上げる。
フレデリクスは何一つ抵抗しないパルマンたちを見て、不審な顔をする。ただ、この状況下では納得できなくもない。
「パルマン、まさかPUDはまだコインロッカーの中だとは言わないよな?」
「それだが、察しのいいあんたの言うとおりで、まだあそこに入れたままだ」
この不利な状況を乗り切るためにパルマンはハッタリを言った。ここで持っていると言ったとして、見せろと言われたら万事休すだからだ。
「なんて能天気な奴だ。それで、キーはどこにある?」
「それは俺が持っている」
ここは嘘を信じ込ませる必要があった。見破られないように自信を持って口に出した。
「だったら、お前だけこっちに歩いて来い! おかしな真似はするなよ」
「別に構わないが、他の二人の解放が条件だ」
「パルマン、俺をあまり見くびるな。ゴルティモアと同じように上手く出し抜けると思ったら、大間違いだぞ!」
「だったら、さっさと俺らを殺して、都市中にある大量のコインロッカーをしらみ潰しに探し回るんだな」
「フッ、その命知らずの度胸を認めて、残りの奴らは解放してやる。だが、銃はそこに置いていけ」
「だったら、あんたたちも全員銃口を下に向けてよね! それが解放の条件よ!」
ここに来て、アリシアが割って入った。
「クッ、揃って生意気なガキどもだ。お前ら、銃を下ろせ!」
フレデリクスはやむを得ず命令を出した。
一斉に赤外線スコープのポインタが三人から外れた。その一瞬の隙を見過ごすパルマンたちではなかった。
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