第8話 秘密結社のアジト
中世ヨーロッパの建築様式を彷彿とさせる広々とした部屋で、《
地下なので窓はない。ただ、机や椅子、棚などの調度品は上質でどれも気品があり、とても奥ゆかしさを漂わせている。
AGIを〝神〟と心酔する者のアジトの一室とは到底思えない広間に佇みながら、男はある報告に苛立ちを露骨に剥き出しにした。
「ゴルティモアが
「はい、ゴルティモアだけでなく、ほとんどの殺戮機兵も失ったとのことです」
「殺力機兵などどうでもいい! それより、あいつは何故〝あれ〟を使わなかったのだ!」
創始者の男は物凄く激昂した。人質を取ってまで用意周到に準備したにも拘わらず、最後のPUDの奪取失敗に憤激しているようだ。
本来なら前夜の一斉襲撃で創始者の男の野望は成就したはずだった。それを妨げた例の男にまたしてやられては腹の虫も収まらない。
「それが手下の話だと不意を突かれたみたいです。しかも、どういうわけか奴の味方も現れたようで……」
「味方!? そいつらも絶滅特殊部隊に属する者なのか?」
「はい、仰せのとおりです」
「パルマンとか言ったな。そいつはまだ子供だと聞いている。ゴルティモアに抜かりがあったのではないのか?」
創始者の男は疑念をぶつけた。
「さぁ、どうでしょう。そいつのマンションを見張っていた者たちの話では、何者かに連絡を取った形跡はないと言っておりますが――」
「フン、下っ端たちの話など信じられるか!」
先ほどから事後説明する男の弁解の言葉など鼻にもかけなかった。
「フレデリクスよ、お前に十人の手下と八機の殺戮機兵を与える。必ず最後のPUDを奪ってくるのだ!」
「それは街中で襲撃しろということですか?」
ずっと同輩の弁明に徹していた男――フレデリクス・エルフェスコは突然の任命に戸惑いを見せた。
「弱点を突いても、奪い取れなかったではないか! 手段は問わん! お前のやりたいようにやれ!」
創始者の男は全てを任せるように命じた。ただ、あの一言は忘れなかった。
「奴らと戦うときは絶対に〝あれ〟を使うんだ! 分かったな!」
「はっ! あなた様の仰せのままに!」
フレデリクスは仰々しく頭を下げながら選ばれた者しか入ることのできないその部屋を退出した。成功しなければ、この場所には戻ってこれないことを胸に刻みつけながら。
☆
パルマンは愛用のエアストームに乗って、
事後報告になるが、渾沌の女神エリスを
恋人のジュリアナを両親の元に届けたパルマンの心境は暗かった。
彼女の両親はパルマンとの交際を快く思っていなかった。それが今回の誘拐事件が火に油を注いだ。今回の事件が無事に解決するまでの間は、二人きりで会うのを禁じられた。
これにはジュリアナも強く反対したが、全く聞き入れられなかった。それほどまでに心配と恐怖を与えてしまったのだと痛切に感じ取った。
パルマンにしても、ジュリアナをこれ以上どんな危険にも
ジュリアナを誰よりも愛している思いを理解してもらうためにも、彼女の両親の言いつけに従うしかなかった。
もちろん、鬱々とばかりもしていられない。パルマンは思考を切り替えた。
絶滅特殊部隊の本部は近代的なフォルムをした五階建ての建物だ。
パルマンは関係者専用の駐車場にエアストームを停止させると、
一階の関係者しか立ち入れないところまでは待合室になっている。
「こんにちは、パルマン。ボルファルト隊長からの伝言で、制服に着替えたら長官室まで来てほしいそうよ」
受付嬢のエリノア・オルゼリアは待ち構えていたように話しかけてきた。
「わかった。すぐに行くと連絡しといてくれ」
社会人のエリノアのほうが明らかに年上なのだが、パルマンはタメ口で返した。
別に偉ぶっているわけではない。それだけ付き合いが長いだけの話だった。
更衣室に向かう前に身体認証が待っていた。指紋、声紋、網膜の照合を一度に行い、全てが一致する必要があった。
パルマンは体の一部を
身体認証の場所に向かうと、自分の名前を告げた。それと同時に、前方を見つめながら掌を指定の場所に置く。当たり前だが、問題なく通過した。
二重層になったドアが開き、長い通路を歩きながら更衣室に向かった。
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