第6話 交渉決裂
「クッ!」
さすがのゴルティモアもぐうの音も出なかった。
「それで、こちらの要求どおり物はちゃんと持って来たんだろうな? 早く見せてみろ!」
もはやゴルティモアの怒声など負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
「もちろん、持ってきたさ。これをな」
パルマンは
「おい、いったいどういうつもりだ!」
「どういうつもりもこうもない。もし、あれを持って来ていたら、ここで俺らを始末するのは目に見えていた。だから、ダイヤル式の暗証番号でロックされるコインロッカーに置いてきたまでだ。あれが欲しいのなら、人質を今すぐ解放しろ。そうすれば、このキーも渡すし、暗証番号も素直に教えよう。どっちみち手に入るんだ。悪い話ではないだろ?」
「生意気な! それがただのはったりではないと、どうやって証明するつもりだ!」
ゴルティモアは当然の反応を見せた。言われるままに取引をするつもりはなさそうだ。
「俺はあんたの指示どおりに一人でやって来た。
パルマンの言っていることは半分事実だった。ここに来る途中でPUDはコインロッカーに置いてきた。
もちろん、手抜かりはない。とっくに隊長たちには連絡してある。だから、このキーを渡すわけにはいかなかった。
「……よし、今からこいつが人質を連れて行く。引き換えにそのキーを渡せ! その後でお前にはコインロッカーの場所まで案内してもらう。いいな?」
「まぁ、仕方ないな」
パルマンはしぶしぶ条件を受け入れる振りを演じてみせた。
「ただ、一つ条件がある。恋人の口を塞いだテープも剥がしてもらおうか?」
「ガキのくせに減らず口を叩きやがる。おい、剥がしてやれ!」
ゴルティモアは側近に命じて、人質の口に貼り付いたガムテープを取らせた。
ようやく話せるようになったジュリアナは「この拘束具も外しなさいよ!」と側近に激しく詰め寄った。
「本当に勝気な女だ。構わん! 外せ!」
投げやりな態度でゴルティモアは人質の要望を受け入れた。どっちみちパルマンが要求してくると思ったのかもしれない。
側近に手錠を外されたジュリアナは痛そうに手首を
「これ以上の譲歩はしない! さぁ、取引だ!」
許容範囲内の妥協は全てやった。そう言いたげなゴルティモアにパルマンは「分かった」と頷いた。
「言っておくが、取引が成立するまでは人質に銃口を向けてるからな!」
それくらいのことはわざわざ聞くまでもない。
二十メートルほどの距離をジュリアナはゆっくりと歩き始めた。その後をレーザー光線式の拳銃を向けながら側近が着いて来る。
静寂に包まれる中、二人の足音だけが倉庫内に響いた。不意に拘束具で縛られていた両腕を擦るジュリアナとパルマンの目が合った。そのときだ。
ジュリアナは唐突に身を屈めると、強烈な肘鉄を側近の
突然の急展開ゴルティモアは驚きを隠せない。それとは逆に、想定内とばかりにパルマンは地面に投げ捨てた大口径のプラズマ銃を掴み取り、引き金を引いた。
ゴルティモアの左胸から鮮血が飛び散った。その間にコインロッカーのキーをジャケットのポケットにしまったパルマンは、恋人の手を力強く握りしめて作業員用の出入口にひた走った。
ジュリアナの突発的な行動が何故予想できたのか。
WPCOに参加するようになってから、ジュリアナが護身術を習い始めた。しかも、正義は悪に絶対屈しないという強い信念も持っていた。そこで、何か行動を起こすと踏んだのだ。
パルマンは施錠がされていたドアノブを銃弾で破壊し、二人は急いで外に出た。
外にはゴルティモアを始末したときの銃声を耳にして駆け寄ってきた絶滅特殊部隊の
ここに来ることは予め本部宛てに送った暗号化した専用のメールアプリ《ピエログリフ》で伝えていた。
「パルマン、いったい何が起こっているんだ?」
現在の状況を完全には把握できていないミハエルが訊いてきた。
「その話はここを出てから話す。急いで外まで駆けるんだ!」
パルマンが焦燥感を
激しい衝突音とともに先ほど下ろされたテント倉庫のシャッターが破壊され、殺戮機兵が次々と姿を現した。大体の想像はつくが、何者かが殺戮機兵を動かすスイッチを押したに違いない。
こうなってはそう簡単に逃げ切れなくなった。どうにかしてこの不利な状況を打開する策を考え出す必要性に迫られていた。
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