第4話 取引場所

 様々な産業で人工知能AIを搭載したロボット化が進行する中、ベラルデルミオ地区はそれらを開発するための集積地と言うべき工業地帯だ。しかも、部品を作るのも大半がロボットの手に委ねられている。


 地図検索エンジンで目的地の位置を特定したパルマンは、約束の十分ほど前に付近まで来ていた。そこで、操縦していたエアストームを付近に停止させて、歩くことにした。


 大型のテント倉庫が建ち並ぶヒュリエント社の倉庫跡地には、それほど人の気配を感じられなかった。

 知覚制御者パシーヴァーのパルマンは視覚を熱源探査モードに切り替えた。すると、壁の向こう側に複数の人間の熱源反応を確認できた。全部で五人。おそらく、例の秘密結社の手下たちだ。


 数人でたむろす者もいれば、周囲をしきりに警戒している者もいる。全員が手に銃火器らしき物を携えていた。


(一気に見張りたちを殲滅するのは無理か……)

 改造人間のパルマンなら、気配を悟られずに敷地内に忍び込むぐらい朝飯前だ。ただ、この密集した状況下で全員を瞬殺するのは容易ではなかった。


 侵入からの強襲案は却下して、ひとまず倉庫跡地の出入り口に向かった。すると、見張りの一人がパルマンに気付き、「おい」と周辺にいた全員を呼び集めた。

「よう、お前がパルマン・エバーキースか? 本当に一人でここまでやって来るとは余程あの勝気なおてんば娘にご執心ってわけだ。それで、例の物はちゃんと持って来たんだろうな?」


 残りの見張りたちがこちらに集まって来る中、タバコを吹かした男が問いかけてきた。別の一人が無線機で連絡を入れている。


「ああ、もちろん、持ってきたさ」

「確認がしてぇ。見せてみろ!」

 状況的に自分たちのほうが立場が上だと思ってるのか、見張りは偉そうに言ってのけた。


「ここで見せるわけにはいかない。それに、下っ端のあんたに本物かどうかの区別がつくとは思えないしな」

「何だと!?」

 パルマンは事実を述べたまでだが、突然見張りたちの目の色が変わった。見下した言い方に聞こえたのかもしれない。


「同じことを二度言うつもりはない。早く人質のいるところまで連れて行け」

 怒りに燃えているのはパルマンにしても同じだ。こいつらは愛しい恋人を乱暴にさらった憎悪すべきやからなのだから。


「このガキ! どっちが優位に立っているか、分かってないみてぇだな!」

 タバコの煙を吐き出すと、男は凄みを利かせてきた。それに対しても、少しも動じない。

「おい、ゴルティモアさんが連れて来いって言ってるぞ!」

 無線機で話をしていた男が大声で呼びかけてきた。


「チッ、救われたな、ガキ。おとなしく俺の後ろに着いて来な! 他の奴はこいつがおかしな真似をしねぇようによく見てろ!」

 タバコを足で力強く踏み消すと、その見張りはいきり立ちながら先頭を歩き出した。大して能もなさそうな男が何故偉そうに命令を出しているのか、疑問を感じずにはいられない。


(まぁ、どうでもいいか)

 パルマンはゆっくりと先頭を歩く男の後を追った。その両脇を残りの見張りたちが二人ずつ囲んでいた。

 形勢は圧倒的に不利だ。このままではジュリアナを助け出す前にPUDを奪われる可能性が高い。どうにかして打破する必要があった。


 パルマンは動くことにした。

 突如先頭を歩く男に背後から襲いかかると、力強く首を絞め上げ、腰のホルスターから抜き取った大口径のプラズマ銃を脳天に押し付ける。そのまま残りの見張りたちに振り返った。


 機械アーマード化して途轍と てつもない鋭敏さで動くパルマンの咄嗟の行動に、残りの見張りたちは意表を突かれた。

「こいつを殺されたくなかったら、今すぐ武器を下に置け! 早く!」

 威圧的な口調でパルマンは声を張り上げた。


 立場の逆転と言うべき急展開に、他の見張りたちは一様に困惑していた。

 何の命令もないままでは反撃するわけにもいかず、全員が両手に携えていたレーザー光線式マシンガンを乱暴に投げ捨てた。その直後、四発のプラズマ粒子の銃弾が無防備状態になった見張りたちを次々に撃ち抜いた。二秒もかからない素早さだった。パルマンにすれば、造作もないことだ。


「お前は道案内だ。さぁ、案内しろ!」

 四つの死体が地面に転がる中、パルマンは最後の一人を解放した。

 首を絞められていた男はゲホゲホと咳き込むと、恨めしそうに睨み返してきた。ただ、抵抗する気はないようだ。


 生かしておいた見張りに道案内をさせながら倉庫跡地を進んで行くと、視界の先に一つだけシャッターが開いたままのテント倉庫が見えてきた。


 その倉庫の間近まで来た瞬間、生き残った見張りが助けを求めるように逃げ出した。

「ゴルティモアさん、このガキが他の見張りを、俺の同胞たちを殺しやがった!」

 開いたシャッターの前で男はパルマンを指差しながら大声で叫んだ。その目は怯えた野犬のようだった。


「状況は分かった。お前の恨みはこの俺が晴らしてやる! まずは中に入れ!」

「はい!」

 手下の気持ちを思いやるゴルティモアに命じられると、その男は倉庫内に姿を消した。


 パルマンからすれば、先ほどの件をバラされる前に殺しても良かったのだが、敢えてそうはしなかった。見張りの姿がなければ、どっちみち異変に気付かれたはずだからだ。


 ジュリアナを人質に取られてはいるものの、パルマンにはAGIを活動期プロシードにする組み込み式内臓ストレージの最後の一個がある。


 ゴルティモアが短絡的な人間でなければ、見張りたちを始末した件は目を瞑(つぶ)るだろうと推測できた。


(これからが勝負だ!)

 戦いはまだ始まったばかりだ。パルマンはより一層気を引き締めた。

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