第10話 銀狼は絆を叫ぶ-4

 ソーラ鉱山地帯。

 王都ブライトから南方に広がる、魔鉱の採掘が盛んな地域だ。

 ここは昔からドワーフが、魔鉱の装飾品を作って生業とするために工房を構える事が多かった。

 そして現在は魔鉱具の生産のために人間の出入りも相当に増えている。


「アル様。情報通りあちらの採掘場で間違いないようです」


 エリィが【千里眼】と風の魔法による探知を駆使し、偵察を終えて戻ってきた。


「ご苦労だった。では作戦に移る前に一度ここで休憩とする」


 今俺達は、目的の実験施設からは遠く離れた山小屋を作戦拠点として貸し切り、作戦前の準備している。

 今回の作戦では俺、エリィ、ミーナ。

 銀狼団から頭領のギンガ、トラックの運転手のハンス、拠点周辺の警戒を担当するヒルダの計6名で作戦を行う。


「じゃああたしは食べ物を用意しますね!」


 休憩の号令で、一緒に小屋で待機していたミーナが【ポケット】から料理を取り出し始めた。

 別次元を開き収納する魔鉱具【ポケット】は、眷属の力を借りた俺を除けば、ミーナににしか扱えなかった。

 彼女は『もしかしたら、これはあたしの転生特典かもしれないですね』と言っていた。

 転生特典はサイバニアン全員が持つ言語を理解する物だけかと思っていたが、それだけでは無い可能性が出てきたようだ。


「何もない所から物が出てくるのって、何回見てもきっと慣れやせんね」

 

 そう言った運転手のハンスの腰が少し引けていた。

 彼は自分の運転してきたトラックが目の前で【ポケット】にしまわれた時、腰を抜かして驚いていた。


「アタイもだよ。でもそのおかげで山ん中でも上手い料理が食えるんだ。ミーナに感謝だな!」

「えへへ、照れるよギンガちゃん。さあ皆さん準備出来ましたよ!」


 そうして、食事を取りながら作戦前の安息の時間が始まった。


「こんな離れてるのに見えるし魔法で音まで拾えるなんて、うちのヒルダでもここまでできねぇ。エリィってすげぇんだな!」

「いえ、私などは…アル様の方が数段以上『すげぇ』のです。」


 エリィはギンガの誉め言葉に謙遜しつつ、俺の事を立てていた。

 だがそれは訂正しないといけない。


「いや、この距離は俺でも厳しい。お前は素直に誇って良い。」

「─っ!恐悦至極に存じます…!」


 エリィはその指摘に感極まっている。

 確かに有効範囲での能力は、エリィの力を借りた<パープルテリトリー>の【千里眼】の方が、透視も出来る分強力だ。

 しかしそれは俺が魔力で独自に能力を増幅させた結果である。

 眷属の力を借りた時。【千里眼】であれば有効な視認距離が短くなる等、そのスキル本来の利点は8割ほどしか発揮出来ない。

 それにエリィがもし今王都にいたとするなら、そもそもこことの距離が離れすぎていて力自体を借りられないのだ。


 さて、そろそろか


「食事しながらで構わない。作戦を確認しよう。」


 皆がこちらを向く。


「まずは俺、エリィ、ギンガで実験施設への侵入を図る。施設内の見取り図がまだ無いためアドリブになる、始めは出来る限り隠密に行動しよう」

「承知致しました。」

「わかった」



 エリィ、ギンガが頷く。


「そしてミーナ、ハンス、ヒルダは拠点で待機。ミーナ、施設内のデータを入手出来たら通信する。そこからの案内を頼む。」

「わかりました!」


 ミーナはいつも通りのまっすぐに応える。


「ヒルダ!エリィに負けちゃいらんないよ、しっかり見張んな!ハンス!ユキネを救出出来たら出番だ、運転頼むぜ!」

「任して下さいアネゴ!」

「ん」


 ギンガの激励に対し、ハンスがやや豪快に、ヒルダは物静かに応えた。

 俺はその様子から状況が整った事を確認し、


「ではそろそろ作戦開始と行こう」


 救出作戦の幕を開けた。


◇◇◇◇◇


 鉱山地帯の中心部から外れた地点にその採掘場はあった。

 正確には採掘場に見せかけた実験施設。

 中心部と比べて地形が険しく、まるで侵入する事を拒むかのようである。

 俺達はその施設の上に位置する崖から、入口を見下ろしていた。


「なるほど、何かを隠すのには持って来いの場所だ」

「魔物の気配も多いので、あまり人も寄り付かないかと思われます」


 見せかけだけの採掘場の入り口は、時が止まったように静かだ。

 その静かさに、ギンガがパチパチと髪を逆立てる音が吸い込まれていく。


「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。分かってる、ここでアタイが飛び出しちゃ意味がねえ」


 俺の問いかけに、ギンガは高ぶる感情を抑えながら応える。

 当然だ。彼女の妹が、見捨ててしまったと後悔している相手がそこにいるはずなのだ。

 俺は彼女の気が紛れるようにと、作戦の話をする事にした。


「ギンガ、俺達はマスクで正体を隠すが、お前は別の方法で隠すと言っていたな?」

「おう!ここまで来たらもう見せても良いよな。ちょっと待っててくれ」


 そう言ってギンガは1つ、深く呼吸をした。


「力を貸せ、!」


 その言葉と共に、彼女のまとう電撃は勢いを増す。

 見れば、その顔はウェアウルフのように鼻先が伸び、髪の色が藍色から銀色へと変わっていく。

 体格はそこまで変わらないが、そこにいたのは銀のウェアウルフ。シルバーウルフ

に似た姿になったギンガだった。


「へへっ、この姿は銀狼団あいつらには内緒だぜ!」

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