第9話 銀狼は絆を叫ぶ-3

「アタイは銀狼団頭領、明日見あすみギンガだ!よろしくな、何でも屋!」


 そう言って、肩に少しかかるくらいの無造作な藍色の髪に、同じ毛色の獣の耳を生やした小柄な女性は不敵に笑った。


「ギンガ?」


 ギンガと言う単語に覚えがあり聞き返す。

 サイバネストの天文学の資料に、ギンガと読める単語があったはずだ。


「わ、わりぃかよ…」


─パチッ

 言葉と共に静電気が弾ける音がする。

 見ればギンガはわなわなと震えて、無造作な髪がパチパチと音を立て逆立ち始めていた。

 明らかに自然現象とは異なる現象に違和感を覚える。

 雷の魔法?いや、この静電気自体からは魔力を感じ取れない。

 では一体…

 そんな事を考えている間に、彼女は顔を赤く染めて、抗議に目が潤んでいた。


「ギンガが女の名前でわりぃかよ!良いじゃねえかギンガちゃんでもよ!!」


 しまった。どうやら俺は良くない聞き返し方をしたらしい。

 おい、助けろガルド。何をニヤニヤしている。


「すまない、前に読んだ資料に同じ読み方の単語があってな。気になって聞き返してしまった。意味は天文学の物と同じで構わないだろうか?」

「な、なんだそういう事かよ。その銀河で合ってるぜ。こっちも勘違いして悪かったな」


 弁明の効果があったのか静電気は収まり、ギンガは少しばつが悪そうにしていた。

 やはり同じか。資料の中にあった映像で見た時は、その壮大さと美しさに胸を打たれたものだ。


「やはりそうだったか、美しい名を貰ったのだな」

「美しい!?」


─バチッ


 ギンガの髪が再び逆立ち、先程より顔も赤くなっていく。

 しまった。かっこいい。とかの方が良かっただろうか。


「お、おま!なな何言って!」

「ギンガ、そこまでだ。依頼について話に来たんじゃないのか?」


 ガルドがようやく助け舟を出す。


「そ、そうだった。わりぃ、おやっさん!それで…」

「おう、遮断の刻印は使ってある。始めて良いぞ」


 内密な話をする事も多いギルドの執務室には、外に話を漏らさないようにする刻印が施されているのだ。

 こほん。と息を整え、彼女は本題を切り出す。


「アタイは、サイバネストの実験で魔物と合成させられちまった合成魔人ハイヒューマンってやつなんだ」

「魔物と合成だと?」

「ああ、魔物の力を使って魔族に負けない人間を作るんだとさ。公表されてないひでぇ実験だ」


 ギンガの生命力エナジーは、サイバニアンとウェアウルフの特徴を合わせたような、明らかに特異な物。

 加えて頭に生えた獣の耳が、今の話が真実である事を強調している。

 なんと非人道的な…


「それは…」

「同情なんかしなくていいんだ。それにアタイは生まれた時から変だったし」


 そう言ってギンガが右手を広げると、電流がバチバチと宙を走った。


「アタイは生まれつき電気を放出出来る体質で、それに耐えられるようにって事なのか体も頑丈でさ」


 少しだけ自嘲気味にギンガは続ける


「だから元から化け物のアタイに、今更1つや2つ変なのがくっついても平気なんだ」


 そう言って、彼女は寂しげな笑顔を作った。

 魔法や魔力の概念が、想像上の存在であったらしいサイバネストの元あった世界。

 そこで特異な能力を持つ事が、どれだけ彼女を孤独にした事だろうか。


「そうか、ならば俺と同じだな」


 俺はとっさに口走った。

 少しでも、その笑顔を変えたいと思い。


「同じ?」

「俺もヴァンパイアと言う化け物だ」

「そっか。アタイ達、気が合うかもな」


 ギンガの笑顔が和らいだ。

 少しは言った甲斐があっただろうか。


「わりぃ、ちょっと話が逸れたな。それで、今回依頼したいのはその実験に関わることなんだ」


 そう言ってギンガは地図を取り出した。


「王都の南の鉱山地帯に、サイバネストの実験施設が隠されてるって情報をようやく手に入れたんだが。そこにいる被験者の救出を頼みたいんだ」


 なるほど鉱山地帯か。

 施設を魔鉱の採掘場に偽装させ、魔鉱の運搬に紛れ込ませて被験者や物資を移動させられる。理にかなった立地であろう。


「分かった。それで、被験者の情報はあるか?」

「ああ、そいつはアタイの妹だ」

「…そうだったのか、実験を止めたいと言う事か?」

「いいや、もう妹もハイヒューマンにされちまってる。都市の施設でアタイのすぐ後にな。あの時はアタイだけしか逃げられなかった…めちゃくちゃ悔しかったよ。家族を見捨てて逃げるなんて…!」


 ギンガの言葉から激しい憤りが伝わる。


「それが2年前と言う訳か?」


 今の話と銀狼団の結成時期を考えれば、自ずと答えは出た。


「そうだ。サイバネストから王都の外まで逃げたんだ。そこでごろつき共をぶん殴ってたらそいつらが勝手について来るようになっちまって、それが銀狼団になったんだ。おやっさんともその時期に知り合ったんだ」

 

 だが、そこで疑問が浮かぶ


「なぜそこでギルドに入らなかったんだ?」


 この件は、銀狼団結成当時から相談を受けていたとガルドが言っていた。

 ガルドならばギルドへの所属も提案しただろう。


「迷惑が掛かるから」


 ギンガはきっぱりと答えた。


「アタイはサイバネストの秘密の実験体。しかも、アタイの目的は家族の救出。そうなるとサイバネストの施設なりを襲撃する事になる。そうなったらギルドに、おやっさん達に迷惑が掛かるだろ?」


 そこまで考えていたのか。

 自分だって辛い時に、相手の事を先まで見据えて考える事が出来る。

 ギンガは頭領に相応しい人物であろう。


「アタイにとって妹は、ユキネは大切な家族なんだ。そんな妹を2年も大変な目に合わせちまってる。でもやっと助けるチャンスが来たんだ。だから何でも屋!妹を一緒に助けてくれ!」


 そう言って、彼女はこちらに頭を下げる。

 

「もちろんだ。その依頼、何でも屋≪ブラム≫が引き受けた」

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