幕間
幕間 ミーナの日常:吸血鬼は察しが悪い
─王都ブライト郊外:ヘパの工房 ミーナ視点
あたしがヘパさんの工房で住み込みでお手伝いをするようになってから、もう3週間が経とうとしている。
「おいミーナ!この火付けを修理しておけ!」
「分かりましたぁ!」
ゴウゴウと炉が音を立てる中、作業着を来たあたし達の声が飛び交う。
ヘパさんは魔物退治に必要な武器の製作や打ち直しをする≪ヘパの工房≫を経営しているドワーフ。
最近一般家庭の魔鉱具修理も始めたそうで、魔鉱具いじりが趣味だったあたしにはぴったりの職場だ。
魔鉱具はそれまで主に冒険を有利にする装飾品として利用されていた魔鉱を、科学都市サイバネストの技術で、誰でも魔力を使わずに魔法の効果を扱える器具に加工した物。
聞けば今あたしが修理してる火付けの魔鉱具が流通する前は、どこのご家庭も火の魔法を使ってお料理とかをしてたみたい…流石ファンタジーの世界!
でもそんな魔法が使えたり、色んな種族の人がいる世界でも、人々の生活はあたしたちの元いた世界と変わらない大切な日常。
それをここに来てからさらに感じている。
…と考え事をしている内に修理が終わる。
そこへ作業を中断したらしいヘパさんもやってきた。
「おめぇがこの間言ってたアルのバイクの改造案だけどよ!ありゃ最高だな!」
「そうですか?えへへ、ありがとうございます!」
「魔鉱具でさらに加速機能を追加ってのは中々大胆で恐れ入った!しかもあんな簡単に付けられるたぁな!」
「あたしたちの世界で、ニトロって言うものを使ったターボ装置があったんです。エンジンが魔鉱具なんだったら、もっと手軽にそれを再現出来るんじゃないかなと思って」
「かーっ!やっぱり向こうさんの話は興味が尽きねえ!おめぇが来てくれてほんと良かったぜ!」
ヘパさんの最近の趣味はサイバネストの技術を漁る事で、アルさんのバイクも得た知識を元に自作した物らしい。
そんな感じでお互いにオタクだったあたしとヘパさんは、気が合ってすぐに意気投合!こうやってオタク談義が出来て毎日が楽しい!
「そういやおめぇに頼みたい事があってよ!この前おめぇが改造したアル達のマスクなんだが、そいつをオレなりに改良してみてな。あいつらの感想が聞きてえから届けてきちゃくれねえか」
「わかりました!ちなみに仕様書を見ても良いですか?」
「おう!おめぇにも意見を聞きたかった所だ」
「わあ、やった!」
「でもよぅ、夢中になりすぎてアルんとこにおめかしして行くのを忘れんなよ!」
「もうヘパさん!」
顔が熱くなって抗議するあたしの声を背に、ヘパさんはカッカと笑いながら作業に戻っていった。
…とりあえずシャワー浴びてこようかな。
◇◇◇◇◇
何でも屋≪ブラム≫にマスクを届けたあたしは、そのまま応接テーブルでお茶を飲みながらエリィとお話をしていた。
「そう言えばあたしも眷属になったのは良いけど、眷属ってまだよく分かってないんだよね」
「そうですか。アル様は言葉も説明も足りませんから…困ったものですね」
エリィの非難の視線が、仕事机で次の依頼書を読んでいるアルさんの背中に刺さる。
「大丈夫だよエリィ!あたしはあの時ちゃんと考えて眷属になったんだから」
アルさんにこれ以上火の粉が飛ばないようにフォローすると、エリィは仕方ないと言った素振りでこちらに向き直した。
「私から言える事としては、アル様や私と家族になったと考えて良いかと」
「家族…」
考えてもいなかった。
転生してお父さんやお母さんと二度と会えないと思っていたあたしが、もう一度家族って言う暖かい物に触れられるなんて…
でもそうしたらエリィはお姉ちゃん?顔はあたしより少し幼く見えるから妹?
そもそも何歳なんだろう?
「ねえ、エリィって今何歳?」
「私ですか?まだ150歳ほどの若輩者ですが」
「ええ!?あたし、まだ22歳…」
そっかー、そうだよね流石ファンタジー。
エルフって言ったら長命種族だよねー。
え、そしたらアルさんは…
「アル様ですか?今日で321歳、7カ月と10日です」
「そうなんだ…」
すっごい年上だった。
でも最初に会った時から、なんだか渋い雰囲気で素敵だなって思ったんだよね。
年上好きのあたしの直感はやっぱり間違ってなかったみたい。
「まあ俺は世間と離れて棺桶でずっと寝てる時期もあったからな。歳だけ食ってるようなもんだ」
依頼内容の確認を終えたらしいアルさんが会話に入ってきた。
「1日1日を無駄にせず、時を大切にして過ごしていくダークエルフの方がよっぽど年長者にふさわしいだろう」
その言葉にエリィはとても良く反応していた。
最初は(アル様、ダークエルフを良く言って頂いて…)と言う喜びの表情。
次に間をおいて(待ってください。それでは私の方が老けて見えるのでしょうか…)と言う複雑な表情。
でもすぐに長い耳をピコピコ動かして(それでは私が頼れる姉のようなもの、と言う事では?)と言っているような満更でもない表情になったりして、度々コロコロ変わっていった。
「ふふっ」
そんなエリィの様子を見て、あたしは笑みがこぼれた。
エリィはいつもクールなイメージだけど、実は表情で考えてる事がとっても分かりやすい。
だから親しみやすいのかな?
「眷属については…まあいずれ深い所まで話そう」
「はい!待ってますね!」
うん、すぐに知らなくても大丈夫。
きっとアルさんはちゃんと話してくれる。
でも深い所って?エリィなら当然知ってるんだろうけど…
そう言えばアルさんとエリィってどこまで…多分とっても親密な関係だよね。
チラチラとアルさんとエリィを交互に見ていると、エリィが察してくれたみたいで
「ミーナ、あなたもアル様の眷属。遠慮はいりません」
そう言ってくれたエリィが少し恥じらってる。
やっぱりそういう関係なの?
それなら…あたしも…
「ア、アルさん!あたしも…!」
「…!そうか。気が付かなくてすまなかった」
しまった!そう言えばアルさんと眷属は通じ合ってるんだっけ。
今のはしたない気持ちを悟られちゃったかな?
「だが今夜は流石に急だな。明日の夜また来ると良い。用意しておく」
「は、はいぃ」
それから頭が真っ白になりながら2人に挨拶をして、あたしは≪ブラム≫を後にした。
頭の中がピンク色になってたのバレた!恥ずかしい…
でも…明日はしっかり準備して行こう。
◇◇◇◇◇
次の日の夜、アルさんが用意していたのはあたしもついて行ける内容の依頼だった。
もちろんあの人が普段どんな事してるのか知れて嬉しかったけど…
けど…
アルさんのばかぁぁぁぁぁ!
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