第3話 吸血鬼は依頼人に多分優しい-3

『応答しろ7班!おい!誰か無事なやつはいないのか!!』

『噂の吸血鬼が出た。すでに被害が出ている模様。正面エントランス警戒』

『こちら3班現着!周囲の自律型魔鉱機オートドールの武装ロック解除!』

『即応班へ、特殊兵装用意。準備出来次第急行されたし』


 派手な登場のおかげでにわかに騒がしくなった通信を、気絶したスクード兵の端末から盗み聞きする。

 もっと混乱するかとも思ったが対応が早い。

 これが都市の秩序を担う正規部隊の統率力と言うものか。


「いたぞ!各自攻撃!!」


 感心しつつエントランスホールに入ると、通信通りに駆けつけていた兵達がこちらに発砲してきた。


 俺は正面のオートドールに向けて跳躍する。

 一足で距離を詰め、獲物の目の前へと躍り出て右腕を振りかぶる。


「ガガッ…」


 拳の一撃はその鋼板を容易く貫く。

 そのままオートドールは悲鳴の代わりに、機械音と金属のひしゃげる音を立てながらその活動を停止した。

 オートドールは、王国側のゴーレムに都市側の工学技術を掛け合わせた機械人形だ。

 非生命体を壊すのに遠慮はいらない。


「挟みこめ!手を緩めるな!」


 敵はこちらを挟み撃ちにするようだが、こちらが意図して分断したのだ。

 右に残りの人形が5体、左に兵が4人。

 ここはまとめて片づける事にする。


<パープルテリトリー> 偽造開始フェイクアップ


 自身ととの繋がりを一時的に強め、その力をその身に宿す。

 黒を基調とした服装に紫色が混じっていく。

 俺が身に着けているものは全て己の魔力で作り出したもので、そこに眷属の力の影響が加わるとこう言った反応が起こるのだ。


 両の手を左右の集団それぞれに向けて構え、指をこすり合わせて音を鳴らす。


【マジックマロウ】


 音が鳴ると同時に、紫の重力場が敵対者たちを包み込む。

 右のオートドール達は音を立てる間もなく、瞬時に1つの金属塊に成り果てる。

 左の兵達には重力を反転させ宙づり状態になってもらい、さらに重力を操作し魔鉱銃をその手から落とさせた。


「な、なんだ!?」


 流石に驚いた様子の兵達に近づいていく。

 目の部分に魔力を集中し、罠にかかった哀れな獲物達をマスク越しに捉えて命じる。


【眠れ】


「なっ…あ……」


 ヴァンパイアの魅了チャームの強制力により、スクード兵達は夢の中へと落ちていった。

 魅了チャームは魔力の耐性の低いサイバニアンには良く効く事だろう。

 重力魔法を解除し、気持ち良さそうに寝る連中をそっと横にしてやる。

 

「やはりエリィの魔法の才は素晴らしいな」


 マスクに内蔵した通信端末にてお互いの視界は小さな映像で共有されている。

 俺は力を借りた我がのエリィに声を掛けた。

 

『ありがとうございます。ですが重力魔法を扱えるのはアル様だけです』

「だとしても俺だけでは魔法の加減など出来んからな。いつも助かっている」

『─っ』


 労いの言葉に反応したのかエリィは声にならない声を発した。

 実際の所、蹂躙するだけならば俺の力のみでも可能である。

 しかし極力死者を出さないためには、エリィの卓越した魔法の才能を使い繊細に制御する方がより確実なのだ。


『アルさん!目標位置までのルートを表示しました』

「これだな。行ってくる」

『はい!お気をつけて!』


 俺はミーナとのやり取りに自然と笑みがこぼれるのを感じつつ、霧となり目的の場所へと進んでいく。

 …お気をつけてか、人間とのこう言う会話も悪くないな。 

 途中何度か兵とすれ違ったが、霧となっている事で気づかれる事も無く目的地手前まで来た。

 しかし


「!」


 霧の体に突然銃弾が当たった。


「着弾確認!効果あり!」


 見れば魔力の刻印の刻まれたバイザーを装着したスクード兵達が、今までとは少しだけ形状の違う銃を構えている。

 近接装備の者もいるようだが…銀か。

 魔力は通っていないので向こうの世界由来の銀と言う事だろうが、やはり吸血鬼の弱点として記されているだけに一定の効果はあるようだ。


『彼らは魔力を感知するバイザー使用してるみたいです!』

「なるほどな。だから見えたと言う事か」


 ミーナの言葉でスクードの通信を思い出す。

 これが俺に対する特殊兵装と言う事だな?


 なら、試してやろう。


「ふん!!」


 まずは剣のような近接装備の兵が俺に切り掛かる。

 が、避けない。


「な!?」


 その攻撃は確かに俺の首筋に当たったが、血すら出ずにそこで止まっていた。

 多少ヒリヒリするがその程度である。

 もしも他の同族ヴァンパイアがいたならば、そいつには効果てき面だったろうが。


「スイッチ!撃てー!!!」


 近接攻撃が効果無しとみるや、すぐさま退避し隊列を変え、銀の銃弾での射撃を試みている。

 しかしそれも当たりはするがそこまで、そもそも俺の皮膚…服を貫くような威力が無い。


─つまらんな


【マジックマロウ】


 右手の指が鳴り、紫の重力がやつらの銀の装備のみを潰していく。


「撤退!!」

「…?お、重い?」


 判断が速いのは良い事だが既にここは支配領域パープルテリトリー

 お前らはもう重力の檻の中だ。

 1人を除いてこちらに向かせて命令する。


【眠れ】


そして最後の1人に命ずる。


【状況終了と報告し、周囲の警戒にあたれ】


「こちら即応班、状況終了!これより警戒態勢に移る!」


 …決着はついた。

 刻印のバイザーに貧弱な魅了耐性しか付いていなかったのは意外だったが、化け物対策の着眼点は良かったのではないだろうか。

 さて、俺を始末したかのような報告をさせたので情報網は混乱するだろう。

 記録媒体である監視カメラとやらは誤魔化せないが、ミーナが研究の記録を抹消するまでの時間は稼げるはずだ。


「ミーナ、準備は出来た。頼むぞ」

『はい、任せて下さい!あとは地下の区画をお願いします!』

「ああ」


 ハッキング用の端末を指定の場所に差し込み、ミーナの遠隔操作による記録抹消が始まる。

 ここの守りを魅了チャームを施した兵に任せて、俺は地下の製造区画へと向かった。

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