第8話 二人きりの撮影会

:◆SE 衣擦れの音



「おっ! やっと起きたね!」


「せっかく来たんだし、ついでにあたしの練習に付き合ってくれない?」


「はい、これスマホね」


「写真を撮られる時のポーズの練習したいなって」


「ほら、イベント本番で、カメラマンの人が写真撮ってくれる時に中途半端なポーズしちゃったら悪いでしょ? 撮られる側の気持ちづくりとか、ポーズを研究しておきたいんだ」


「でも、キミから見ていい感じの写真があったら、あとでキミに送ってあげるね」


「練習に付き合ってくれたお礼になるかな?」


「ん~? どうなの?」


「ふふっ、その顔見ると、満更じゃなさそうな感じだね!」


「じゃあ、撮影お願いね」



:◆声 イケボモードの千咲都・開始



「初めはぼくの立ち姿でお願いしますよ」


「坊ちゃまの隣に控える従者として、立ちふるまいの所作を美しく保つことは大事ですから」


「それでは、立ったままポーズを細かく変えますので、そのたびに撮影ボタンをお願いしますね」



:◆SE 数秒間隔で、何度かスマホのシャッター音


:◆声 イケボモードの千咲都・停止



「うん、ありがとー」


「ふふふ、どんな感じか見せてよ~」



:◆声 リスナーの耳元で・開始


:◆SE 改行のたびにスマホをタップする音



「ふんふん」


「うわ、イケメンじゃん! あたしめっちゃイケメン! こんな人いたら、好きになっちゃうかもー」


「おー、こっちの後光が射してそうな感じ! いいね! 神々しいよ~。絵画みたい!」


「あはは、これは思ったよりジョジョ立ちっぽくなっちゃったねー。ちょっとテン・ヨウくんのキャラからは離れちゃうかな。でもこれはこれでカッコいいから、別のキャラをコスした時にやろー」


「あっと、これはちょっと女の子っぽい感じになっちゃったかな~。やっぱテン・ヨウくんは男の子だから、立ってるだけでも胸張って肩を広げる感じにしてさ、どうだ! って感じになるように意識してるんだけど、普段のあたしが出ちゃった。失敗失敗。でもこれはあたしの問題だから、キミの撮り方は全然合ってるよ!」



:◆声 リスナーの耳元で・停止



「うん! でも、いい感じだよ!」


「キミ、カメラのセンスあるじゃん。こうやって撮ったのなんて初めてだよね?」


「それともー、被写体がいいおかげかな?」


「次はね、もっとアップで撮ってほしいな」


「表情の練習もしたいんだよね」


「じゃー、頼むねー。またまたシャッターを切るタイミングはキミに任せちゃうよー」


「最っ高の一瞬を切り撮ってね!」



:◆SE 何度かスマホのシャッター音



「あれ? どうしたの。途中で辞めちゃって、首傾げて」


「え? テン・ヨウっぽくない? いつものあたしになっちゃってる?」


「変だなー。待ってね。気持ち作り上げるから。えっと、声から意識して……」



:◆声 イケボモードの千咲都・開始



「……どうです? ちゃんとぼくになってますか?」


「先ほどはすみません。坊ちゃまの前で気を抜いてしまうなんて、執事失格ですね」


「では、今度こそ、どうぞ」


「坊ちゃまの前でだけ見せる、ぼくの顔。ちゃんと記録しておいてくださいね?」



:◆声 イケボモードの千咲都・停止


:◆SE 何度かスマホのシャッター音



「……どうかな? 今度は?」


「うーん、思ったんだけど」


「テン・ヨウくんはお仕えしてる坊ちゃまのことが大好きだから、カメラを通して好きって気持ちが溢れてるのは全然いいんだよね」


「でも、この写真のあたしの顔って、なんか好きのニュアンスが変わっちゃってない……かな?」


「親愛とか尊敬の感情より……恋っていうか……」


「ど、どうして大事な坊ちゃまに恋心を向けて……」


「ハッ! あたしの中の腐った乙女心が、テン・ヨウくんと坊ちゃまのボーイズラブを望んでいるから!?」


「そんな~、あたしがテン・ヨウくんを狂わせちゃったなんて~!」


「とにかく、今日はありがとうね! あとはイベント本番! それまでに絶対完璧に仕上げちゃうから、一緒に頑張ろうね!」

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