第6話 幼馴染と一つ傘の下

:◆昇降口の扉前


:◆SE 雨の音



「うわー、マジか~。雨降り始めてるじゃん」


「急に降ってくるんだもん。嫌になるよ~」


「どうしよっかな~。すぐ止むといいんだけど……なんか分厚くて黒い雲出てきちゃってるし……」


「あれ? キミどうしたの? カバンがさごそいじっちゃって」


「わ! 折りたたみ傘!」


「すごーい、準備いい~」


「よかった~。これでびしょびしょにならないで帰れるね!」


「って! 無視して一人だけで行こうとしないでよ~!」


「『悪いな、千咲都ちさと。この傘は一人用なんだ』じゃないでしょ! 大事な幼馴染に風邪なんか引かせたくないよね!? コスイベが控えてる大事な時期に!」


「だ、だよね! 冗談に決まってるよね!」


「じゃ、傘の下に入れてもらうね~。お邪魔しまーす」


「やっぱり持つべきものは傘持ちの幼馴染だね!」



:◆SE 1分ほど、雨がビニール傘に当たる音と、雨水を含んだアスファルトの上を歩く音



「……さっきから思ってたんだけど、キミさあ、傘の位置的にそこだと肩濡れまくりになっちゃうよね?」


「あっ、ほらびしょびしょになっちゃってるんだから」


「もしかして、あたしに気を遣ってくれてたの?」


「なーんだよ~。いっちょまえに男の子っぽいことして~」


「あっ。さっきあたしが風邪引いちゃうの気にしてたから?」


「肩濡れたくらいじゃ風邪引かないから、気にしないでよかったのに」


「それより、せっかく入れてもらったのにキミの方がびしょ濡れになってなんか申し訳ないよ」


「ほらほら、もっとこっち寄って」


「え? どうしてそんな遠慮してるの?」


「もしかして、あたしと肩と腕がぴったりっくっついちゃうこと気にしてる?」


「……」


「あっ、マジのやつ……」


「い、いや、いいんだけどね?」


「で、でも、相手あたしだよ?」


「今更そんな意識されても、変な感じしちゃうだけだよ」


「そうやってキミまで変だと、あたしまで意識しちゃうじゃん……!」


「よし、わかった。女の子っぽくなくするから!」



:◆声 イケボモードの千咲都・開始



「ほら、これでどうです?」


「今のぼくは、坊ちゃまと同性ですよ? それにぼくは従者で、坊ちゃまを守る立場ですから」


「雨ざらしにするわけにはいかないんです」


「坊ちゃまが風邪を引いてしまっては、ぼくも困ってしまいます」


「……」


「そうです。ようやくぼくのそばに来てくれましたね」



:◆SE 雨脚が強くなる



「雨が強くなってきてしまいましたね。天気もまだ荒れそうですし、これで風まで吹いてきてしまったら、傘があってもびしょびしょになってしまいそうですよ」


「でもご安心を。坊ちゃまはぼくが守りますから――」



:◆声 イケボモードの千咲都・停止



「えっ!?」


「ど、どうしたの!? 急に、そ、そんな強引に抱きしめてくるなんて!」


「い、今のぼくは男の子なんだよ~!?」



:◆SE トラックが水たまりの上を走り抜ける音


:◆SE バシャッと主人公の背中に水が引っかかる音



「だ、大丈夫!?」


「キミ、車道側歩いてたから……トラックが浴びせた水全部モロに被っちゃったじゃん!」


「もしかして……あたしの身代わりになってくれたの?」


「えっ、傘……? 持っていけってどういうこと? キミはどうするの?」


「『どうせびしょ濡れだし、このまま濡れて帰るからいい』って、全然良くないよ!」


「ほら、この傘さして、一緒に帰ろ?」


「ここからあたしの家近いんだから、キミはうちでシャワー浴びてかないとダメ! あと制服も乾かしてね!」


「もう。キミは変なところでカッコいいことしちゃうんだから」


「今度こそ、あたしにぴったりくっついててよ」


「その濡れた服を空気に触れさせたら、ますます服が冷たくなっちゃうんだから」


「……でも、ありがとね」


「うん、水しぶきから守ってくれたこともそうなんだけど」


「キミのおかげで、テン・ヨウくんの解像度を高められたかもしれないんだよね」

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