マンドラゴラうるっさ……くない?
畑の土を掘る。掘っくり返す。一つ掘る度に唄う。
「お小遣い♪ お小遣い♪」
引っこ抜いた人参をカゴへ投げる。土を払って投げる。また掘り出して投げる。
全て俺の小遣いになって、一部は腹の足しになる。
……畑泥棒してる訳じゃねぇよ?
「かァー随分収穫したなぁ! ヒョロいからって見くびってたぜ」
見ての通り、農場の短期バイトだ!
俺は元ニートだけど、犯罪犯すほど落ちちゃいねーよ?
そんな度胸あったら今ここにいねぇ!!
実際、旅の息抜きも兼ねた資金調達。それも食事のセット付きって考えたら、一石三鳥だ。
「おうリスくん、作業捗ってん――げ」
この農場のおじさんは作業中の俺を見るなり、表情が固まった。
それは多分……ずっと俺がセーブポイントの角で地面掘ってたからだと思う。
「はい! どうかしましたー?」
「いや、やりやすい方で良んだけどよ。
「意外と掘りやすいんですよ~!」
ホントは少し扱いづらいけど、日頃の恨みだ! 土にまみれやがれクソ水晶が!!
「なら良いが……ところで報酬だが、お前さんの頑張りに免じて弾んどくぜ。ウチの新鮮な野菜もつけてやる!」
「マジですか!? ありがとうございますー!!」
「……なあリスくん。旅はしんどくないかい?」
「へぁ?」
「村追い出されて、旅してんだろ? 若い身だってのに、辛ぇだろうなと思ってよ」
おじさんには言ってない、俺が無職してたってこと。
だから自業自得なんですって言いづれー!!
……まあでも、実際同情されてるほど辛さは感じちゃいないんだよな。
「しんどい……って言ったらちょっと違いますかね。確かに腹立つことはあるけど」
なんか知らんけど、口から言葉が自然と出てきた。
自分でもぶっちゃけ、本音とは思えないような言葉だけど。
「冒険者と違って決められた仕事があるし、戦闘スキル覚えて強くもカッコ良くもなれないし、苦楽を分かち合う仲間もいない。それに思ったより旅するのって大変でした」
「……」
「それでも俺、村にいた頃よりかはマシですよ。村のチビたちと遊んで、母ちゃんや村長たちに叱られて。楽しいのに、無職な現実が不安で見たくなくて」
先の見えなかった昔より、面倒に巻き込まれてる今の方が、案外楽しいのかもしれないな。
「でも俺いま、憧れてた冒険の旅に出てるんすよ。だから逃げたいことがあっても、帰りたくなっても、未練がないぐらい旅ってやつをして戻りたいんす!」
「……そうか。すまんな、余計な気遣いだったようだ」
自分で言ってて照れ臭ぇーなコレ!
おじさんが笑う人じゃなくて良かったけど、人前では言うのやめとこ。
「さてリスくん、畑仕事終わらせちまうぞ! 今日はウチの牧場で取れた畜産コカトリスのシチューだ!」
「おっしゃあ大好物ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
テンション上がってまたせっせこ人参収穫をし始めた時だった。
農場の若い衆がおじさんに声かける。
「旦那〜。餌やり終わったんでこっち手伝いますね〜」
「おう悪い――お、おいっ、若ぇのよく見ろ!!」
おじさんが叫んだ時には間に合わないのが見えた。
若い衆は地面から突き出た葉っぱを掴んでる。
その野菜が何なのか教えられてた俺は、全身から血の気が引いた。
……オワタ。
「そこはまだ熟してねぇマンドラゴラ――――」
『ギニュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!』
間一髪で耳は防げた。けど、音量ヤバい。手で覆っても鼓膜破ける! 痛すぎる!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!? うるせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??」
こっちも絶叫で相殺する作戦、歯が立たず。
そんな俺の横でおじさんは既に伸びていた。
「うわああああ!! おじさん達も気絶してる!!?」
若い衆は爆心地に居たから音圧でぶっ飛ばされてるし、この広い農場で援軍は期待できねえ。
俺しかいないじゃん!?
「せめてなんか、耳塞げるやつ……」
『《音量》を変更しますか?』
「……は?」
突然起動したセーブポイントが、謎のツマミが描かれた窓を出てきた。
「え、何これ?」
『準S級レベルの騒音です。《音量》を変更しますか?』
「え、じゃあ」
何だかよく分からんまま、セーブポイントの窓を指で動かす。
そこに数字が書ける記入欄があったので、試しに数値をゼロにしてみた。
「あ、なんか静かになった」
もう静寂超えて無。全くの無。
音が消えて耳の痛みが完全に消えた。
マンドラゴラ……って言うより、世界の音量が下がった気がする。
マジで原理謎だけど、とりあえずアレ止めるか。
「んっ」
『ギュッ――――』
おっけ、マンドラゴラ引っこ抜いて締めた。
叫んだヤツは味落ちるらしいし、畑の肥料にでもなってもらうか。ほいっ。
じゃあ……マンドラゴラも片付いたし、音量も元に戻して……っと。
「――わっ」
そして世界に音は戻った。
数十分後、復活したおじさん達に畑のど真ん中で何度も感謝された。
それもビールのオマケ付き。やったぜ。
「兄ちゃんすげえな!」
「全くマンドラゴラの叫びに怯まず取りに行くなんてよ!」
「み、耳塞いだのが間に合ったんすよね〜」
この機能は、なんか人に言っちゃいけない気がするから、とりあえず黙っとくことにした。
音がいけるなら、時間とか光とか、世界の色んなもんイジれる気がしてきたからな……バレた時どうなるか分からんから、放置放置!
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