鍛冶機能って便利だね

「よっこらせっ……と。あー腕いてっ。袋から出した途端に重くなんのやめてほしいぜ」



 セーブポイントの設置あるある。連続で設置してると段々腕がキツくなってくる。

 元ニートの設置人ならではの悩みだ。



 ――俺が今立ち寄ってるここは、渓谷都市ベイリート。


 赤土の大地が生んだ谷と崖、そこに沿う形で生まれた都市だ。

 住人から聞いたんだが、どうやらここは魔王全盛期時代に王都騎士団の駐屯地になってた場所で、魔王軍阻止のために冒険者たちも滞在してた由緒ある土地……だとか。


 今じゃその名残で、冒険者や旅人に優しい宿場の都になってるらしい。



 言うだけあって、ここは良い街だなぁ。宿屋はリーズナブルだし、設置しててもみんな優しいし。

 いっそ定住してぇな~。金ないけど。



「お、兄ちゃん今日もやってんなー!」


「宿屋の! 昨日はありがとうございました~!」



 豪快に笑いながら、宿屋の店主がゴリマッチョな上半身を晒して話しかけてきた。


 見た目はオークと素手で喧嘩してそうなオッサンだけど、性格はめっちゃいい。昨日も『若いやつは食えるだけ食ってけ!』って冒険者用のスタミナコースの夜食ご馳走してくれた。


 ここらの地域の住民はみんな良い人ばっかだぜ。旅終わったら本気でまた遊びに来よ。



「ところでリスの兄ちゃん、コイツの『鍛冶機能』ってやつをちと触ったも良いか?」


「鍛冶機能?」


「なんでい、設置人のくせしてセーブポイントの機能も把握してねぇのか?」


「セーブ以外に役割あるんすかこれ!!?」


「あたぼーよ! 俺も若い頃は冒険者稼業やっててな。これの更に旧式だったが、助けられたもんよ」



 持ってたセーブポイントを渡すと、オッサンは舐め回すように水晶を観察した。

 ……なんか手つきがいやらしく感じるのは、気のせい?



「ワープポイントの機能はものによるが、恐らくこのタイプは『万能型』。セーブ以外に鍛冶、ショップ、服装やら、度に役立つ機能があれこれ詰まってんのさ」


「そんなこと出来たのセーブポイント!!?」



 たしか俺は冒険者じゃないから権限がないとかで、ロクに触らせてもらえなかったから普通に知らん。え、セーブポイントって最早なんだ?



「そん中でも俺のお気に入りがこの鍛冶機能ってやつだ。見てな」



 オッサンはズボンの中から鉱石か何かと、魔物の牙らしき物体をセーブポイントへ

 素材が触れると、セーブポイントは波紋を立てながら飲み込む。


 ……待って、オッサン今パンツからも石取り出した? いや、俺は何も見てない。見てないことにしよう。



「こうやって金属や魔物、そのほかの素材をぶち込めば……」



 慣れた手つきでオッサンが指(パンツに突っ込んだやつ)でセーブポイントを操作する。

 指先でツンツンと何箇所か叩くと、セーブポイントは金色に発光。


 次の瞬間には、オッサンの手には片手剣が握られてた。



「ほ~らナマクラ一丁上がり!」


「ホントに出て来た!!??」



 上等とは言えないけど、確かに冒険者が使う武器に違いなかった。


 こんな機能付いてるとか、最初から教えてくれよ!



「衣食住もそうだが、魔物が出る地域で武器が使えなかったら不便だろ? だから昔の魔術師様が色んな魔術をこの水晶に施したって話だ」


「すっげ原理わっかんね~。あとでこの鍛冶機能とか操作のやり方教えて下さい!」



 気分の良くなったオッサンと俺で乳繰り合っていると、崖の下から慌てた様子で住民が叫んでいた。



「おい大変だ! また魔物が来たぞ!!」



 その男の人は叫びながら、都のみんなへ警告して回ってた。



「魔物!? ここって魔物除けとかないの!!?」


「魔王時代の名残だ。地質に残った魔力が定期的に魔物を引き付けやがんだ!」



 前言撤回! やっぱ住みたくないわここ!!



 って心の中で喚いてたら、早速魔物の群れが向こうから都市に近付いて来てる。

 それも厄介な『ワイルドボア』や『アークバイソン』の異種混同の群れだ!


 猛突進じゃん! 減速の気配もないじゃん!!

 ってか突進し過ぎて同族も吹っ飛ばしてるよ!? 毎秒四匹は宙を舞って轢き殺されてるんですけど!!??



「なんだあの量!? 大群ってレベルじゃねぇぞぉ!?」


「まずい、今日は数が多過ぎる。連中、その内登ってくんぞ!」


「どうする!? このままじゃ、崖も突破される!」



 ついに俺達の真下まで魔物が来やがった。

 それも下になった仲間を踏み潰しながら、後から来る魔物が昇降装置みたいに上がってきてる。


 本気で命の危機を感じる――――けど、今の俺にはこれを打開する名案が一つある!


 オッサンが『鍛冶機能』について教えてくれたおかげでなあ!!



「俺には筋肉も剣術もない。ならやることは一つ!」



 このセーブポイントは未設置だけど、権限の主は宿屋のオッサンになってる。

 だったら、このセーブポイントは権限のない俺でも、一時的に使える!



 俺はそこら辺にあった石をセーブポイントにたんまり詰めて、見よう見まねでガチャガチャとセーブポイントをいじくった!



「食らいやがれ、鍛冶機能で作った武器の雨ェェェェェェェェェェェ!!」



 次の瞬間、読み通りセーブポイントから大量のナマクラが吐き出された。

 セーブポイントを崖に突き出し、出来上がった武器を崖下へ真っ逆さまに落とす。


 注いだ武器は上がってきた魔物の背中や脳天に、見事直撃! 効果は抜群!!


 これぞ、技がダメなら物量で攻める作戦! これなら技量も筋力も関係ねえ!!



「おらおらおらおらぁ! 刃物の鍛冶屋直送便じゃーい!」



 周辺に落ちてた石や木はがむしゃらにセーブポイントへ突っ込んだ。

 そんでガラガラ振りながらセーブポイントをあちこちに落としていった。



「おっちゃん! 石や素材、ありったけを持ってきて!」


「がってんだ! 野郎ども、兄ちゃんのセーブポイントにあるだけ武器素材ぶち込めぇ!!」



 都にいた人たちが集まってきて、総がかりで魔物狩りが始まった。

 セーブポイントを渡して、素材組と振り落とし組に分かれて作戦が始まる。



「おかわりも食ってきな、鋼のなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 危ない状況だけど、ぶっちゃけ楽しかった。興奮してたからだと思う。


 そっからしばらくの間、俺とオッサンたちはセーブポイントから武器を落とす作業を続けた――――



「ハア、ハア……」



 一時間以上かかってようやく、魔物は全部狩り切った。

 最後の方はオッチャン達が崖降りて、大砲みたいに武器を撃って討伐してた。筋肉が過ぎる。


 だがおかげで、魔物の脅威は無事去ったってところだ。



「……で、これどうしよっか」



 崖下はびっしりと武器が突き刺さってる。ハリモグラみたい。

 あまりにも刺さり過ぎてて、そういうトラップみたいになってるな。



 問題はこれ、片さないとなんだよなぁ……


 勿論このままはダメだし、処分するって言ってもこんな量を都のどっかに仕舞うってのもキツイ話だし。



「あ、そうだショップ!」



 さっきオッチャンが言ってたことを思い出した。


 セーブポイントのショップがあるってんなら、売却とか素材変換の機能がついてるかもしれねぇ!


 これならわざわざ拾わなくても、武器出すみたいにヒュンって回収できるかもだ。



「そうと決まりゃ、ショップ機能を使って……」



 俺が操作しようと触れたその時、セーブポイントからいきなり『ビーッ!』ってデカい音が鳴った。



「うわっ、なんだぁ!?」


『警告、《権限》が付与されていません』


「はぁぁぁぁッ!? 今更そんなの……てか、おまえ喋るタイプの魔道具なのね。まあ良いや、それならオッチャン達に操作し――」



 と思ったらまた『ビーッ!』っと音がした。



『警告、《対象数》が上限を超えています。一つづつ投入して下さい』


「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 結局セーブポイントは言うこと聞いてくれなくて、一個づつ手作業で回収した。


 このセーブポイント超ムカつく!!!!

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