もしかして、変なトコ置いちゃった?

リュックからマグカップと魔焜炉マジック・コンロを取り出してたら、雪の残ってた山の頂上から朝日が昇ってた。


開放感溢れる高原のど真ん中でゆったりと迎える朝。冒険者の朝ってのはこうやって自由じゃないとな!

ま、俺はただの設置人だけど。



「んっん~♪」



魔焜炉マジック・コンロで沸かした湯をカップに入れ、乾燥珈琲の粉を溶かす。

豆や燃料なんかは街の人達がくれたヤツだ。


『セーブポイント置いてくれたお礼に~』ってさ。良い人ばっかで驚いたな。

こうやってどの街でも差し入れがもらえたら最高なんだが、まあ今回がレアなんだろう。


清々しい気分に爽やかな朝。そこへドロッとした真っ黒のコーヒーがお出ましだ。

熱々の液体をグイッと一口、渇いた喉に流し込む。


うん、にげぇ。



「ふぅ……はぁ、朝日が綺麗だなぁ」



普段だったらこんなこと絶対に思わない。


せいぜい「昇ってくんな! おまえきたら母ちゃんにまた無職なのキレられる!」ってブチ切れてた。



「でもま、最初はどうなるもんかと思ったが、意外となんとかなるんだなぁ」



村を追い出されて、設置人として旅始めてからはや一月。

意外と衣食住は分けてもらったり、農作業の手伝いとかしてたら報酬でくれたりする。

冒険者よりは賃金少なめらしいけど、俺としては生きてけてるから今はオッケー。


それとリュックには『えいきゅうほぞん』と『くうかんかくちょう』の術式? か何かが働いてて、食べ物は腐らねーし持ち物も無限に入る。そんな重くもない。

おかげで旅も楽だぜ。



「一息ついたら、とっとと次の場所目指すか。マップはどこ入れたっけな~っと」



無造作にリュックを漁った。その時だった。


道具袋の中から一つ、ぽろっとセーブポイントが落っこちた。



「あっ、しまった」



またこのパターンか、とも思ったが今回は問題ない。

橋の上でも民家の上でもねー。仮にここに設置しちまっても良い。そう思ってたんだが……


――地面の隙間にスポッと、セーブポイントが



「……ほ?」



水晶の半分ぐらいが、地面にあった小さな亀裂の中に埋まっちまったんだ。


それも埋まったというより、沈んでる。自分でも何言ってるか分かんねーけど、俺も分かってねえ。


刺さったとか、埋まったって訳じゃない。土は少しも沈んだり盛り上がったりしてないし、亀裂は指ぐらいの細さしかないのに、セーブポイントが埋まってるんだよ。

地面と重なってるっつーか、そんな状態。



「待てよコレ、抜けねえ!」



俺の全力で引っ張っても、セーブポイントはびくともしない。

デカい木の根を手で抜こうとしてるみたいに重かった。



「やーべ、変なとこに引っかかっちまった。どうすんだこれ?」



最悪、起動さえすれば良いんだが、立て付けが悪くて設置できそうにもない。


このまま放置しようとも思った。んだけど……



「ん? なんだ、セーブポイント――――」



セーブポイント、震えてね?

小刻みブルブル震えて、そんで……さらに地面へ深く沈んでった。



「いやっめりこんでる、めりこんでる、めりこんでる!」



最期はスポンッ、って酒開けた時みたいな音を鳴らして、セーブポイントは消えた。

多分、地面の下に。



「ええ……」



今のも軽く衝撃の光景だったんだが、その記録は次の瞬間には俺の中で更新されてた。


地面の小さな亀裂から、すげえ強い光が漏れ出したんだ。

セーブポイントの真っ青な光がさ。



「んあっ!? この光まさか、アレで設置できたの!!?」



てっきり土の中だと思ったけど、設置条件が満たされたってことは――この真下に一定以上の空間があったってことだ。



「これ、地下空間でもあんのか? まさか、隠しダンジョンがこの下に……」



この周囲は必須設置ポイントはない。設置期限もこの度にはない。


今からダンジョンへ向かうことに対して時間的な余裕なら十分ある。けど――――



「うんと、まあ……」



 隠しダンジョンって、マップもないから迷いそうだし、ハッキリ言って設置メンドい。


冒険はしたいけど、危険を冒したいわけじゃないんだよ、俺は。



「起動したんなら、ここはスルーでオッケーだな!」



荷物をさっさと片づけて、俺は次の設置場所を目指して出発した。



ところでこれ以来、ちょくちょくセーブポイントが変なトコにすり抜けて設置されることが増えた。たまに弾けてどっか飛んでくし。


案外、ちゃんと必要な秘密のエリアに設置されるように全部飛んでいって――なんてことないか。

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