お偉いさんの家って緊張するよな! 置いてやるよ
衛兵さんの職質から解放されてから数時間、涙目で設置作業中。
「わざわざ冒険者のために仕事してんのに、なんでこんな惨めなことに……ううぅ」
街の設置予定場所を巡っては、泣きっ面を見られないようにそそくさとセーブポイントを起動する作業もいい加減疲れた。
今日はあと一個やったら宿に向かおう。
「じゃあ最後にこの屋敷……って、アレ?」
街の外れにある豪華な屋敷を前に、驚いて立ち止まった。
「おかしいな、この屋敷だけセーブポイントが門のとこまでしかねぇ……」
地図にはココの設置場所は一つしか描かれてない。
街中は数軒おきにセーブポイントの置き場所があったってのに、この屋敷には一つだけ。
ヒュポグリフも走って飛び回れる広さの庭付きの、三階建てで部屋もいっぱいある豪邸だってのに。
「流石に金持ちの家の中は設置できねーか。まあ、冒険者も用事ないだろうしな」
本当に広い。こんだけ広くてデカい家なんて、他には王城ぐらいしか見た事ねえよ。
目の保養だ。せめてじっくり拝むぐらいは許してくれよ、お金持ち様。
「ん~っと? ガーゴイルと巨人の石像だらけの庭に、デカさの割に誰かがいる気配なし。窓は締め切ってて中は見えないし、見るからに正面扉は重そうな金属扉で開けるの苦労しそう……」
俺なんかじゃ一生住めないような大豪邸なのに、雰囲気はどこか教会の聖堂や霊園に近いのを感じる。
まるで生きてる人間がいないんじゃねーかってぐらい、しんと静まり返ってる。
「ほんっと良いとこ住んでんなー! これだけ静かなら落ち着いて暮らせるだろうな」
本当の金持ちは自分の金をひけらかさねーってことか!
器がちげーぜ、羨ましいな!
「ほんとは設置予定ないけど、ちっとお邪魔するぜ」
俺は正面扉と、なぜか茂みで隠されてた裏口の前にセーブポイントを設置しておいた。
万が一、冒険者がこんな豪邸に上がるようなことがあったら緊張するだろうしな。心の準備を整えるためのセーブポイントだ。
「俺からの優しさだ。緊張して待機したい時のために、ここ設置しとくぜ」
試運転も問題ないし、このまま宿に向か――
「――――ぁぁぁぁぁぁぁだぁえかぁぁぁぁ……」
「なんだ? 今の音……」
冷たい風に乗って、なんか年寄りみたいな音が聞こえてきたな?
誰かいるのか……?
「ぁぁぁぁぁすけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「おいおい、これってまさか……」
この声! この尋常じゃない叫び方!
間違いねえ、言うまでもなくこれはアレだ!!
「『防犯装置』ってやつか!? やっべバレた!」
なんで気付かなったんだ!
今どき防犯用の魔道具とか魔術も一般流通してる。
泥棒対策で屋敷に仕掛けられてても不思議じゃねえ。
「もう捕まりたくねーよ!!」
――そして俺は茂みや石像の影に隠れながら、急いで裏門側から街に戻った。
ちなみに街に戻ってから聞いた話なんだが、あの場所に屋敷なんて無かったとか、そもそもあの場所はずっと池だったとか……
最近引っ越してきたんだな!
池はきっと埋め立てて屋敷作ったのか?
もしかして前の住居から荷物運んでる最中だったりしてな! いやーギリギリセーフだったぜ。
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