街中に設置していいって、マジ? なんで?

 今日も今日とてセーブポイント設置中。追放型ニート(元)の設置人リスだ。


 撒き散らしたセーブポイントの片付けも終わってようやく解放されたぜ。

 あのあと山岳地帯を何とか抜けて数日、俺は久しぶりに街の喧騒ってやつを聞いた。



「やーっとマトモな街に着いた~」



 この近辺は山岳地帯の他にも渓谷や王都に繋がる道が近いから、この街は交易が盛んらしい。

 俺が行ったことある街の中でも二か三番目ぐらいにデカい。


 教会支部はあるし、冒険者ギルド管轄施設も多いし、道路は全部レンガ造りだってよ。上品な場所って印象だな。

 ま、今言った三分の二はストライキでやってないらしいけど……



「さて、始めますか!」



 せっかく街に来たんだ。とっとと仕事終わらせて観光でも楽しもうじゃねーか。


 そう思ってリュックから地図取り出したのは良かったが、見た瞬間にげんなりした。



「宿屋前に一つ、教会派出所の中と外に一つづつ。噴水公園とか……結構置く場所あるな!」



 広い街だからか、利用者が多いからか知らないが、通り沿いだけで三十個近く設置場所がありやがった。本当にこんなに必要なのかよ?


 普通のおばあちゃん家の台所とかも設置予定の印されてるじゃん!?



「ツッコミどころばっかだけど良っか。設置だ設置。ほれドーン!」



 袋からダイレクトに、俺はセーブポイントを地面に叩きつけた。


 そんで問題なく起動も確認! 山ん中で作業してるうちに一発で設置できるまでになった、俺の設置人としての才能だな! ガハハハハハハ!



「うっし出来たァ! この調子でジャンジャン設置して――」


「ちょっとそこのお兄さん、何してるの?」



 俺の肩を叩いたのは見知った格好の男だった。



「こ、この街の衛兵さんですかぁ? どうも~」



 俺、一週間もしない内に二度目の職質。



 ――――応援の衛兵ももう一人すっ飛んできて、また事情聴取が始まりましたとさ。



「はーい袋の中見せてねー」



 片方の衛兵さんは俺のリュックの中を訝し気に調べていた。


 心配しなくても大したもの入ってないよ~と言いたいとこだが、流石にそこまでフランクになれるほど職質慣れはしていない。

 ……なんだ職質慣れって。



「で、リス君だっけ? この街へは何しに?」


「あ、えっと、セーブポイントの設置を……」



 しばらく衛兵さんの頭上で疑問符がダンスしてたけど、何か思い出したらしく表情が急に明るくなった。



「あっ、なんか町長が言ってた話か! ほら、今ストライキで教会とか仕事してないから~って」


「んぁーそんな話もあったなぁ。けど俺ぁてっきり、もっと作業員っぽいというか、真面目そうなのが……」


「いやーごめんね? 民家の前でガサゴソしてたからてっきり強盗か何かだとね。あとほら……格好も冒険者とかみたいに分かりやすくなかったからさ」



『見た目が完全に不審者』って暗に言うのやめてくれます!? 実際傍から見たらそれにしか見えないんだから!


 こっちは設置人って言ってもプロ意識とか欠片もないのにやらされてるだけだから!!



「それじゃあ形だけ職質させてもらうね。ギルドカードとか身分証明書になるもの持ってる?」


「あ、えっと……持ってないです」



 答えると一瞬、変な空気が流れた。



「村長さんから何か持たされなかったの?」


「いや、セーブポイントだけで、他は何も……」


「武器でも良いよ! 今どきは登録ある剣とか槍に識別コード乗ってたりするから」


「武器、持ってないです。手ぶらです」


「え。旅に出るのに護身用の武器持たされなかったの!?」


「数日分の食料と野宿セットは持たされたんで、果物ナイフなら……」


「え、そんな食料で足りる? お金は?」


「銀貨三枚……」


「宿に二泊もしたら終わりじゃない。貯金とか持ってこなかったの?」


「俺、無職だったんで無一文です……」


「……」


「多分、厄介払いされましたね……」


「……ガンバ」


「アハハ、ありがとうございます」



 それだけ言って衛兵さんは気まずそうに去っていった。


 ……ううぅ、ちくしょうっ!! なんで旅先でこんな思いしなきゃなんねーんだ!!!!

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