はじめての設置

「あああーしんど」



 ちょっす、俺リス。セーブポイント設置人だ。ぶっ飛ばすぞこん畜生。


 今朝村から追い出されたばかりで、ちょうど近くの山を一つ越えたばっか。


 武器の支給無し、ほとんど無一文、スキルとか魔導書とか期待したけどそれもなし。

 数日分の食料と野宿セットは貰えたけど、村長めっちゃ嫌そうな顔で渡してきやがった。


 マジで厄介払いされた感じだな。



「っと、そろそろ最初の設置場所か?」



 村長に持たされた地図と手紙に、セーブポイント設置について色々と書いてあった。


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 ――――リスへ。


 セーブポイントを必ず設置してほしい場所には全てマークを付けておいた。

 忘れず、全ての場所にセーブポイントを置いてくるんじゃ。


 それとセーブポイントの設置上限はないから、地図に書いてない場所でもおぬしの裁量で設置してしまって構わん。


 大変じゃろうが、頑張るんじゃぞ。


 ヌヌペペ村の村長、ゼリオン=ガリウム=ヴァレンバート三世より。


 追伸、一個でも漏れがあったら帰ってきても追い返すぞい。


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「村の名前はじめて知った気持ち悪っ!? そんで村長こんなゴツい名前だったんだ……」



 どっちも先々代の村長が名付けたとか言ってたっけ……センス魔物以下で笑えん。



「じゃ、早速やりますか」



 まずはリュックから袋を取り出して、手を突っ込んで中から一つ水晶を取り出す。


 この袋は『無空の道具袋』? とか言って、中はだだっ広い空間になってるらしい。村長は『よじげんなんちゃら』って説明してたけど、話ロクに聞いてなかったから詳しい事は知らん。



「ほいっ、起動しろよセーブポイント一号!」



 取り出した水晶を地面に突き刺したら、青く光りながら水晶が喋り始めた。



『セーブポイントを設置しています』



 地面に浮遊しながら、水晶はこの場所に固定されてる。


 置けばこのセーブポイントは自動で魔術が起動して、そのまんま使えるようになるらしい。

 古代文明の遺物だか、神代の技術だか忘れたけど、便利なもん作ったよなぁ。



「さて、試運転は――ん?」


『グルルルルルルル……』



 セーブポイントのことずっと見てたら、なんか真後ろにいた。


 涎垂らした狼の魔物。俺の腰ぐらいまで大きいやつ。ガッツリ俺のこと狙ってるわ終わった。



「ハングリーウルフ!? 野生じゃ珍しくねーけど、こんなすぐ遭遇するもん!!?」



 ハングリーウルフは低級の魔物。冒険初心者にとっては経験値を稼ぐために好まれてるけど……



「なんも武器持ってねぇ!!」


『ウガゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』


「ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」



 飛び掛かってきやがった! これ逃げらんねぇやつ!! もふもふで可愛いとか吹っ飛ぶぐらい怖ぇ!!!!



「仕方ねぇ……セーブポイントおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 咄嗟に道具袋からセーブポイント取り出して、俺は一発殴った。


 ハングリーウルフの頭目掛けて、セーブポイントを角から振り下ろした。



『キャインっ!』


「ここでさらにもういっぱぁぁぁぁぁ……つって、あ、あれ?」



 セーブポイントを振りかぶっても、ハングリーウルフはそれ以上動かなかった。

 なんか、倒したっぽい。


 ハングリーウルフ、完全に地面にめりこんだまま倒れてる。なんで? 俺そんな怪力持ってないよ? 女子に負ける腕力だし。



「どうして俺の一撃なんかで……あ」



 持ってたセーブポイントをふと見たら、傷一つ付いてなかった。ちょっと返り血はついちゃってるけど。



「そういえば、セーブポイントって魔物除けの効果もある上に、たしか壊れないんだったっけ」



 母ちゃんに昔話で勇者の話とか聞かされたけど、そういえばセーブポイントが壊されたって話は聞いたことなかったな。


 なんで魔物がセーブポイントぶっ壊さないんだろうって不思議だったけど、今日ようやくその謎が解けたぜ。



「これすっげぇ武器手に入れたぜ! こいつがあれば、経験値稼ぎまくって一気に凄腕冒険者にも……」



 と思った時期が俺にもあった。


 ハングリーウルフは確実に死んでるのに、俺には力が増した感覚も、何かの技能を身に着けた感触もなかった。


 数秒、レベルアップタイムを期待して待った後に、あることを思い出した。



「……そいえば、今って正規の冒険者しか経験値もらえないんだっけ」



 ――経験値乱獲禁止条約!


 先の時代、とある『魔王』が討ち滅ぼされた直後の頃。

 平和な世が訪れたが、冒険者たちは素材や経験値欲しさに魔物の乱獲を開始。


 結果、深刻な環境破壊や市場破壊。更には冒険者崩れの賊も大量発生し、経験値獲得は一つの社会問題と化していた。


 その問題を防ぐため、冒険者ギルドは魔法と技術を駆使し、正規冒険者のみ経験値を得られる体制を構築した。よって――――



「俺、魔物倒しても意味ねーじゃん……」



 冒険の醍醐味がどんどん消えてく。


 どうしよ、次のセーブポイント設置場所に行く前に萎えそう。

 お母ちゃんのご飯、食べたい……

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