第10話 美和と初子のお夕飯(4)
いきなり別の話をするのも気まずいし、だからといって、これ以上、一人暮らしでだいじょうぶなのかとか、親のことは心配じゃないのかとかきいても、それもよくないと思ったから。
それで、
「
これなら、「つかず離れず」の話と言っていいだろう。
「どうなのかなぁ?」
と初子は首を
照れ、とかではなく、ほんとうに考えているらしい。
でも、話題を変えたことに抵抗はないみたいだ。
「撮りかたとかは習ったよね。いろいろ反発して、わざと教えてもらったのとは反対のことをやったりとかして」
そういうやつなんだ。
教えてもらったら、反発して、反対のことをやるような。
親に対してでなくてもそうなのか、写真以外でもそうなのかはわからないけど、覚えておこう。
「でも、親が押しつけた、とかじゃないと思う。親が撮った写真とかはずっと見てきて、きれいだな、とか、印象に残る、とかは思ってたけど、親が、おまえも撮ってみなさい、って言ったことは一度もないと思う」
言って、うま煮丼のうま煮部分とご飯部分をレンゲで混ぜてから、口に入れる。
初子のご飯も残り少なくなった。
「でも、撮ってみると、写真っておもしろい、と思ってさ」
初子は身を乗り出すようにして言った。
よかった、と思う。
やっぱり、そのヴェリャという地域と自分の両親の話をしているときには、明るく話していても、何かつらそうなところがあった。
いまの言いかたからはそれがなくなっている。
「写真って、ほんとうのものしか撮れないんだよ。ほんとうに目の前でこういうふうになってる、こういうことが起こってる、っていうことしか。トリック写真っていうのは作れても、自分の想像とかは写真にできない」
「まあ、そうだな」
美和が「そうだな」と言う以上のものを、初子は知っているのだとは思ったけど。
初子は、味噌汁を飲んでから、残り少なくなったご飯の半分ほどを口に入れた。
「ところが、さ。こないだのでわかるけど、おんなじ、目の前の事実でも、撮りかたで、ぜんぜん印象が違うものができちゃうんだよね。空が明るくて街が暗いとか、逆とか」
あの朝、この初子は突然美和の家の屋根の上に現れた。
それで、こんな感じで友だちになって。
そのときに撮った写真を、初子は美和の家まで届けてくれた。
「ぜんぜん違う印象、もしかすると、おんなじものを撮っても、正反対の印象のものが撮れちゃう。そういうのがおもしろいって思って、もっと、写真、勉強しないとな、って思ったんだ」
そう言って、初子は目を細めて、笑った。
その笑顔を見て、美和は、このお嬢様は人間離れした世界の美少女なのではなくて、美少女は美少女でも、「この世界に属している美少女」なんだ、と思って安心した。
最初に会ったときにもそんなことを思ったな、と、美和は思い出した。
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