第4話 リセスと雨と過去
場所:雨の日の宿屋
「雨……やみませんねぇ……」
「退屈そう、ですって? いいえ、そんなことありません」
「こうやって雨の日、部屋の中でのぉんびり過ごすのも、これはこれで良いものですよ……」
「あ、紅茶入れてきましょうか、ちょっと待っててください」
SE:歩いて部屋を出る音
(しばらく無音)
SE:ドタドタと走る音
「……が、ガイドさん! ここの宿屋、『勇者のその後の旅路』が置いてありますよ!」
「借りてきちゃいました!! うわぁ……懐かしい……この本、子供の頃に何度読み返してたんですよ」
「え? 『勇者のその後の旅路』を知らない、ですって?」
「いやいやいやいや、ガイドさん。そんな冗談言わないでくださいよ」
「『勇者のその後の旅路』。かつて魔法で世界を救った勇者が、その栄光と身分と力を隠しつつ世界中を旅する旅行記。オーギ王国で一番売れた本として話題となった作品じゃないですか」
「知らない? よその国とかだとあんまり流行っていないのかな……いえいえ……そんな筈ないですのに……」
「えっと、ですね。『勇者のその後の旅路』は世界中の様々な素晴らしいモノを探す元勇者の冒険譚なんですよ」
「中でも私が一番好きなのは『コスヒ海岸のオーロラ』で、この本に書かれている景色を見るために旅をして……」
「…………」
「あ、言っちゃいました! 忘れてください!! 内緒なのに……はぁ……うぅ……」
「え? そんな良いものじゃない?」
「何を言ってるんですか!! 『その光景はまるで神々が齎す魔法のよう』と書いてありますし!! 絶対素晴らしい景色がコスヒ海岸にあるんです!!」
「そもそも身分を隠して世界中を旅しているのが分からない?」
「そりゃあ、それは、あれですよ。やはり世界を救った勇者ともなると周りの人たちが英雄として崇め奉るのでむしろその優しさが重みだったり窮屈だったりするのであえて真っ新な冒険者として色んな場所を歩むのが良いのであり……」
「……って、ガイドさん。本の内容知ってるじゃないですか」
「話盛ってるだけの駄作? もー! どうしてそういうこと言うんですか!!」
「知りません! いけず! 私は本を読んでるので黙っててください!!」
(しばらく雨音と本をめくる音が続く)
「……あの、ガイドさん。一つ聞きたいんですけど……」
「私との旅、つまらない、ですか?」
「そんなことない? なら、良かったです」
「けど……」
「でも、私の旅、何も事件が起きなくて、波乱万丈という訳ではないですし……町を巡って、ただ色んな料理食べたりするだけで……もしかして、つまらないのかなぁ……って」
「平和な旅の方がいい? …………そう……ですよね。そうですよね」
「でも、今までガイドさんがした旅と比べたら、私の旅は地味というか……」
「え? 前は報酬渡される前に逃げられた? それはそれはご愁傷様で……」
「前々回は駆け落ちの相手として無理矢理偽装結婚させられて失踪!? なんですかその面白そうなお話は! 聞かせてください! 私、聞きたいです!」
「ダメですー!! ちゃんと話してください!! さっき私を怒らせた罰です!!」
「聞かせてくれなきゃ、許しません! ガイドさん!」
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