第6話 リセスと練習と旅の魅力

 場所:馬車道


 SE:馬車がゆっくり進む音


「はーい、お馬さん、道がデコボコしてるのでゆっくり歩いてくださーい」


「わわ、石が。お馬さん迂回してくださーい」


「対向馬車。こ、こういう時は?! え? 無理せず止まるべし? はい! ストップ! すいませーん。先どうぞー」


「あの、なんで私が馬車を運転してるんですか? ガイドさんのお仕事なのに」


「……飛行の魔法を使う極意は周りに注意を払い進むことであり、その練習として馬車は最適?」


「なるほど、そんな秘訣が……」


「(小声)これ、私騙されてませんかね? 世間知らずだからいくらでも言いくるめられるからって騙してませんよね?」


「コホン(咳払い)」


 SE:馬車が進む音


「いえ、大丈夫です。次の町までは私が運転します」


「そういえば、私って馬車の免許を持ってないからこれ法律的に大丈夫なんですか?」


「専門家が横で適切な指導をすれば初心者の運転練習は許される? なるほど。そんな法律の抜け道が……いえ、確かに人は誰しも初心者ですものねえ」


(しばらく無音)


「あの……免許って、私でも取れるものですか?」


「大切なことが出来れば誰でも取れる? ほほう…大切なこと、とは」


「自分で考えろ?! えっと……えっと……」


「分かりました。馬車の手入れをしっかりすること、ですか」


「むう……25点ですか……では周りに気を配って注意する、とか」


「これも25点……ならば保険に入る…」


「25点……それなら事件を引き起こしたら適切な対応を……」


「25点……降参です。答えを…答えを…」


「言ったこと全部で百点?! そんなズルいです! もう! わわ、はい、落ち着いて運転するのも大事ですね! はい!」


「はぁ……」


 SE:馬車が走る音


「……その、一つお聞きしていいですか?」


「ガイドさんが、馬車で旅をする理由って、なんですか?」


「座ってて楽? それはそうですが、いやでも。あ、少し早いですお馬さん。速度を落として。そんな楽な仕事では……」


「慣れれば簡単、ですか。気軽に言ってくれますねぇ……」


「それとも、私もガイドさんぐらい。沢山旅をすれば。楽になるんでしょうか?」


「十回や百回じゃ無理? ……ふふ、そうですよね」


「いいなぁ……それぐらい。旅をしてみたいです」


「いや、まあ今、まさに旅をしているのですが」


「それなら、これからも。ガイドさんが良ければ──」


「わわっ! 急になんですか?! 運転代わる?! なんで……」


「この馬車が追いかけてきてる音がする? まさか……」


「あ、あれは……」


「ガイドさん! お願いします! 走ってください!」


「あれは──私を捕まえに来た、追っ手です!」

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