第61話 何もわからないということが!わかりました!!



「アノ、ブンブクサン」


 棍棒くんとポコさんが消えてから、ボクらはまたケマをご馳走になっている。

チョットお腹がチャポチャポしてる気がする。

まあ気がするだけだけどね!胃袋ないし!


「お?なんだ?」


「アノ棍棒、他ニモ色々文字ガ刻ンデアリマスヨネ?アレ、ワカリマス?」


 待ってる間、暇だから聞いてみようと思う。

他にもむっちゃ刻んであるんだよね。

トモさんもアレ以外はわかんないって言ってたし……


「ん~……わからん!」


 腕を組んだブンブクさんが、自信満々に言った。

わからないんだ……


「いくつかは古代エラム語の王族言語だと思うんだが、それ以外にも違う古代文字がいくつもあってな……これ以上は専門の学者の領分だろう、それしかわからん」


「王族言語?」


 同じエラム語じゃないの?


「ああ、エラムって国は妙な所があってな。市民と王族じゃあ文章に使う言語が違うんだよ……一般的な方はそれなりに解読も進んでて、俺みてえな一般人でも辞書を引けばわかるんだがな」


 へえー!

そんな国だったんだ!

市民は英語で、王様はフランス語みたいな感じかな?


「王族はなあ、【大消失】もあって未だにほとんど情報が出回ってねえんだ」


「【大消失】?」


 なんだろう、どんどん知らない単語が出てくるなあ。

なんかワクワクしてきた!


「ムークさんは知らねえんだな?そもそもエラム魔法帝国が滅んだ原因ってのがな、ある日突然国の上層部が消えちまったんだよ、王宮ごとな」


「王宮ゴト!?」


 スケールが大きすぎる!?


「んだなっす、何が起こったかもわからねえんでやんす。ほんに、突然パッと消えてしまったらしいのす」


 ロロンが知ってるってことは、砂漠でも結構有名な神話?なのかもしれないね。


「エラム砂漠中心部にその痕跡が残ってるらしいんだがな。一度は行ってみたいもんだが、いかんせん遠すぎてよ……」


「ワダスの部族でも、砂漠の中心へは選ばれた勇者しか行くことを許されねっす」


 そんなに危険なのか……砂漠中心部。


『エラム砂漠の魔物は奇妙な分布をしていまして。中心部に行けば行くほど強力な個体が増えていくらしいのです……なるほど、どうやら何か関係がありそうですね』


 ら、ラストダンジョンか何か?


「ロロン、部族ノ勇者サンハ……砂漠ノ中心ニ何シニ行クノ?」


 宝探しかなにかだろうか。


「まあ、度胸試しでやんす。将来長になるような選ばれた勇者が、行けるところまで行って【証】を持ち帰るのす」


「アカシ」


 トロフィーみたいなものだろうか?


「古代の遺物か、強力な魔物の首級でやんす。今の長はクラヴノスの首ば持ち帰ったのす!」


 くらぶのす???


『クラヴノス、砂漠に住む竜種ですね。全長は最低でも20メーター、そこらの魔法使い以上の土魔法を自在に使いこなす強敵です……通常ならちょっとした軍隊が命を懸けて討伐する対象ですね』


 ……長、スゴイ。

そんなのを1人で殺しちゃうんだ……とんでもないじゃないか。


「ス、スゴイネエ……」


「長は歴代でも最強の呼び声が高い勇者でやんす!ワダスも、槍の一振りで大地竜ば両断すんのを見やんした!」


「スゴイネエ!?!?」


 あの岩山の化身みたいなのを!?槍で!?

はぁあ……アルマジロの人たち、戦闘力高すぎ。

そりゃあ人間の軍隊も壊滅させちゃうねえ……


「ともかく、だ。あの棍棒はそこ由来だってことだ……なんでラーガリの、しかもそんな洞窟にあったのかはわかんねえが――」


 突如。

がぁん!ぎぃん!ごごん!と、奥から轟音が響き始めた。

何!今の何!?

金属と金属がぶつかるみたいな音なんだけど!?


「ダ、ダイジョウブデスカネ?」


 棍棒くんが粉々になっちゃわない!?


「大丈夫だって心配すんな。ハニーの槌さばきはガラハリ……いやラーガリ1だからなあ!ガハハ!!」


 ガハハじゃないんですよ!?

あとご馳走様です!!


「魔力を通して材質を確かめてるんだろう。そもそもそう簡単にぶっ壊れるような代物じゃねえよ、ありゃあ」


 そ、そうなのか……ま、まあ専門家だしね。

信じてこのまま待とうか……


「そうそう、文言が気になるならトルゴーンの【ジェストマ】って街に行ってみな。あっこは【ジェマ】との付き合いがある、探せば研究者の1人くらいいるだろうさ」


 おお!前にトモさんに聞いた研究者の国!

トルゴーンには元々行く気だったし、いい目的地ができたね!

ボクの人生?虫生?がゲームだとメインストーリーは相変わらずないけど、サブクエストが無限に増えていく感じ!

ふふふ、テンションが上がってきたよお!


「新しい目的地ができやんしたね!ムーク様!」


 ロロンも嬉しそうだ。

……そこまでついて来てくれるんだ、有難いなあ。

でも口に出したらまた悲しませそうだし、黙って……頭でも撫でておこうかな。


「イイコ、イイコ」


「じゃじゃじゃ!?」


 いきなりはビックリしたらしい。

訴えないでくださいね!



・・☆・・



「すごいわ~この子!すっごいわぁ~!!」


 一時間ほどガキンガキンと轟音を響かせた後、ポコさんがニコニコの汗だくで戻ってきた。

黒棍棒くんは……よかった!無傷!!


「おうハニー、どうだったい?」


「ダーリン!すっごいのよ~!ん~♡」


 ポコさんは棍棒をテーブルに置き、何故かブンブクさんに濃厚なキッス。


「ハワァッ!?」


 それを見たロロンは一瞬で真っ赤になって椅子の上で丸まった。

恐ろしく早い丸まり……ボクでなきゃ見逃しちゃうね……!

しかし何故キスを……?

まあ、仲がよくって何よりだね!


「ぷはっ!……ムークさん!この棍棒ね、恐ろしく魔力の通りがいいの!」


「ホ、ホホウ」


 魔力の通りがいい……?

たしかに、前にゴーレムをボコボコにした時はスッと魔力が通ったなあ。

でもアレはボクが慣れたからだって思ってたなあ。


「ここの設備じゃ限度があるから確実じゃないけど……たぶん、この感じからして大半が【オルカ】で……表面は【クロハガネ】が主体になってると思うの!」


 む!

その海洋哺乳類みたいな名前は聞いたことがあるぞ!

たしか、ダンジョンで見つけたお金に含まれてるってやーつ!!


「貴重デスカ?」


「貴重なんてもんじゃないわ!同じ重さの金よりも高いわよぉ!!」


「エェーッ!?!?」


 っそ!?そんなに!?

この世界の金相場知らないけど、それでも口ぶりから安物じゃないってことだけはわかるよ!!


「スゴイネエ、ロロン!……ロロン!?」


 あああ!ロロンが椅子の上で丸まったまま意識を失っている!? 

カワイイ娘が白目なんてむくんじゃありません!目が乾いちゃうでしょ!!


「さすが噂に聞くエラム魔法帝国……!この目で見れる日が来るなんてね!ん~まっ♡まっ♡」


 感動するか旦那さんとキスするかどっちかにしてもらえませんか。

アツアツすぎて火傷しそうだよ。


「……アノ、ジャア何カ特殊ナ機能トカアリマセンカ?」


「んん~……基本的にはないわぁ!」


 基本的?


「推測だけど、この子は魔力を込めれば込めるだけ硬く、強靭になっていくの!」


「ホホウ」


 なんかそんな気はしてた。

実際にゴーレムをバリンバリンにしたし。


「それでね!私もそこまで魔力が多いわけじゃないから確認はしていないけど……一定量以上魔力を注ぐと何らかの変化が現れる!ハズよぉ!」


「ハズ」


「要求される魔力の量が膨大なのよ!さすがは王家直属の騎士団の武器ね……概算だけど、魔術師の上澄みレベルでも足りないんじゃないかしら?魔法使い級に流してみれば、何か変化するかもしれないわ!」


 魔法使いレベルか……トモさんトモさん、いけそう?


『今のむっくんの魔力量では早い段階で干物虫に、いえ真夏のアスファルトで死んでいるミミズになりますね』


 避けられぬカラカラ死!!

……つまり、現状じゃなんにもならないってことだね?


「それほどの魔力が無くても、そこら辺の十把一絡げの武器とはモノが違うわ!折れず、曲がらず、劣化しない……この店でも同じようなレベルの武具はなかなか置いてないわよぉ!」


「ツマリ……無茶苦茶頑丈ダッテコトデスネ?」


「そういうこと!試すわけにはいかないけど、かなり上位の魔物にも通用するわ!ムークさんの魔力次第だけどね!」


 黒棍棒くん……キミは本当にいい拾いものだったんだねえ……


「アト【オルカ】ハ知ッテルンデスケド……【クロハガネ】ッテドンナ金属デスカ?」


 そっちは聞き覚えないもんね。

鋼には違いないんだろうけど……ボクの知識にはない。


「【オルカ】と同じく魔力伝導率が高い希少金属ね!この2種を混ぜ合わせると、相乗効果でさらに効果が跳ね上がるのよ!」


 ほほほう……それは、すごい。


『補足ですが、この西国ではほとんど産出されない金属です。【オルカ】よりもさらに希少で、高価で取引されていますね』


 ……今のところ大丈夫だし、この先も大丈夫だろうけど。

本当に何かあったら売り飛ばすのもアリかな……?


『その際は『殺してでも奪い取る』にならないように気を付けてくださいね』


 肝に銘じます、ハイ。

サツバツ異世界だもんねえ。

今の所、対人関係だと例の人間3人衆くらいしか変なのいないけど。

気を付けておこう、そうしよう。


「オ2人トモ、アリガトウゴザイマシタ。鑑定料ハイクラクライデ……」


 ロロンが相変わらず気絶しているので、ここはボクが交渉して払おう。

ふふふ、異世界ディスカウントの時間だ!


「何言ってやがんだ、この程度の目利きで金なんざ取るワケねえだろ」


「そうよお、逆にこぉんなにいいモノ見られたんだもの。こっちがお金を払いたいくらいだわぁ!」


 ……異世界ディスカウント計画!消滅!!

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