第60話 推定第一同郷人……そんなことより武器屋だ!武器屋!!

 あ、あの……さっきの、3人組の中に転生者がいたって!?


『ええ、そうですね……残念ながら距離が遠かったので、3人のうちの誰かまではわかりませんが』


ま、マジで……ようやく会えた地球の人なのに、よりによってあの超絶レイシスト集団の中に!?

……なんてこったい……


『反応からして、向こうについている『同族』は我々には気付かなかったようですが』


 あ、そうなの?


『前に言った位階……レベルが高ければ隠蔽も可能なのですよ。むっくんが今まで頑張ったので、私もそれなりの地位になったということですね』


 なんかドヤァ……って気配が伝わってくる。

貴重なドヤトモさんだ。


 でも……そっかそっか。

向こうにバレてないならいいや。

この上絡まれる原因、作りたくないし。 


『あら、同郷人に興味はありませんか?』


 ないっていうか……相手が悪すぎるっていうか……

アカを売ってくれ!って言ってきた連中と仲良くなりたくないでしょ。

変な仲間意識持たれても困るし!

そもそも仲良くしたくないし!


 そしてなにより……ボクには記憶がなぁい!!

だから地球に未練もそんなになぁい!!

思い出がないからね!

過去がないなら未来に目を向けるしかないじゃん!

今の人生の方が楽しいしね~。


『前向きむっくんですね、素晴らしい。トモさんポイントを付与……おっと、本日はもう付与していました』


 そんな記憶ないんだけどいつ!?


『あの人間たちに対する毅然とした態度に感動しまして、裏で付与しておりました』


 サイレント付与!!


「ムーク様、ムーク様ぁ?」


 おっと!

マントの裾をロロンがくいくい引いている。

心配そうな顔だ。


「どうなさいました?先程の猿共のこどで何か、心配事でも……?」


「ア、ゴメン。ボーットシテタ……オ腹イッパイデ」


 ロロンに心配かけちゃったね……あと、あの3人組の呼称はモンキーで固定なんだ……過激……

よっぽど腹を立ててるみたい。


「安心しやんした!ささ、この先でがんす!」


 ロロンはぱあっと顔を明るくして、先に立って歩き出した。

 

 ううむ、親分たるもの……子分を不安にさせちゃいけないよね、トモさん。

だから、あの人間たちの話はここで終わりにしておこう!

別にこれ以上興味もないしね!


『ふふ、はい。わかりました』


 さーて!武器屋だ武器屋だ~!



・・☆・・



「おお!アンタらはあの時の!」


「じゃじゃじゃ!?」


 ごちゃごちゃと雑多なお店というか鍛冶屋?みたいなものが並ぶ区画。

そこに、さっきのお店のカワイイキツネさんが教えてくれた【ポコの店】はあった。

あったんだけど……


「木コリサンノハズジャ……?」


 やけにカワイイ名前の店先で、何か箱を運んでいた人。

それは、この街に来た時に色々教えてくれた……あの、優しそうなタヌキのおじさんだった。

なんでここに?


「出稼ぎだって言ったろ?【ゾルトバ】じゃあいい木炭と石炭が掘れるんだ。あっちで稼いで、こっちの本業で使う用のモンもついでに仕入れるのさ」


 は、はえ~……

そういう働き方もあるのか……


「ダーリン、お客さん?」


 店の奥の方から、かわいい声がかけられる。

だ、ダーリン?


「おう……そうだよな?」


「アッハイ、人ニココヲ教エテモラッテ……」


 ぽてぽて、と足音が聞こえて。

店の奥から……ハンマーを握った小柄なタヌキさんが出てきた。

え?ダンナさんじゃなくって奥さんがハンマー使うの?


「あらあら、いらっしゃいませぇ!まー、虫の人は久しぶりに見たわぁ」


 ロロンよりも少しだけ身長が高いけど、とても鍛冶屋さんには見えない。

でも、持ってるハンマーは無茶苦茶重そうだね……どんな筋肉してるのさ。


「ムークデス、ゴ主人ニハ前ニオ世話ニナッテ……」


「ロロンでやんす!」


 ボクとロロンが並んで頭を下げると……奥さんは目を輝かせて寄ってきた。


「まーまー、よろしくお願いしますぅ!アルマードのお嬢ちゃん、カワイイわぁ!」


「むわわわっ!?」


 ロロンがその、うん、抱きしめられて奥さんの母性の塊に埋もれている。

……ち、小さいのに!大きい!!


『スケベ虫!』


 違うんです!違うんです!ボクは無罪なんです!



「武器を調べて欲しい?」


「アッハイ」


 奥さん……彼女の名前はポコさん……とロロンの一方的ハグが終わり、一息ついた頃。

ようやく本題に入ることができた。

ポコさん、かわいいものが大好きなんだって。

アカ連れてきたら、大惨事になりそう……


「その棍棒だな、ここに出してみな」


 そして旦那さんのブンブクさん……茶釜の親戚でもいらっしゃる?……の指示で、棍棒をテーブルの上に置いた。

どうやらこのお店、ポコさんが制作して、ブンブクさんはそれ以外の雑務をやっているようだ。

なるほど、だから出稼ぎに行ってたんだね。


「ふむ……」


 懐から片方の目につける虫眼鏡を取り出し、ブンブクさんがまず観察を始めた。


「表面の古代文字からしてかなりの年代物だろうが、経年劣化がほぼ見当たらねえな……これは……ちょっと待ってな」


 ブンブクさんが店の奥へ消えていき、分厚い辞書のようなモノを持って帰ってきた。

それと棍棒を見比べつつ、ぶつぶつと呟いている。


「お2人さん、奥へいらっしゃい。ダーリンがああなると長いのよ~、ウチの特製ケマでもいかが?」


 ポコさんがそう言い、ぽてぽてと歩いていく。

ボクはロロンと顔を見合わせ、ついていくことにした。



「おい!コイツをどこで手に入れたんだ!?」


「ウワーッ!?」


 ポコさんの淹れてくれた美味しいケマと、そして岩みたいな硬さだけど美味しいクッキーをご馳走になりながら世間話をしていたら……

棍棒を抱きしめたブンブクさんが、血相を変えてダッシュしてきた。

危ない!クッキーを喉に詰まらせるところだった!!


「まー、ダーリン!ムークさんがビックリしてるじゃない!」


「間違いねえ!コイツはエラム魔法帝国のモンだ!世間に出回ってる偽物じゃなく、正真正銘の本物なんだよ!!」


「まー!?なんですって!?」


 ブンブクさんを諫めたポコさんも、その名前を聞いて目を見開いた!

ウワーッ!?2人でボクに超接近してくる!!目がコワイ!!


「ムークさぁん!どこ!どこで見つけたのォ!?」


 むわわわー!抱き着いてこないで!抱き着いてこないで!!


「どこだ!?どこだ!?」


 ヒイーッ!?

揺すらないでブンブクさん!お昼ご飯が全部出ちゃう!出ないけど!

なんだこの夫婦合体攻撃!?!?


「ド、ドドド洞窟デス!ラバンシカラチョット南ニ離レタ所ノ!山ノ中腹ニアッタ洞窟デス!!リビングアーマーガ、ムッチャイマシタ!!」


 ふかふかされ、ガクガクしながらもなんとか返事をする。

視界の隅で、ロロンが心配そうに手をワキワキさせていた。

チョットかわいくって和む。


『妙なポイントで和んでますね……』


ボクもそう思う!


「ラバンシ周辺の洞窟……なるほど、そうか。あの近辺、特に南側には人の手がほとんど入ってねえからな……」


 落ち着いたらしいブンブクさんがボクを解放し、椅子に腰を下ろした。

そして、テーブルの空いた空間に棍棒を置いた。


「材質についちゃ俺ぁ門外漢だが、表面の文字についちゃそこそこわかる。まずここだ」


 あ、例の文言が刻まれてるところ。


「ここにはな、古代エラム語で【全ての慈悲なきものに死を】って文句が刻んである」


「ヘ、ヘェ~!ナンカ強ソウデスネ!!」


 トモさん経由で知ってはいるけど、精一杯驚く。

なんで知ってんの?って言われたら説明できないし!


「じゃじゃじゃ!?そ、それは……!?」


 何故かロロンがむっちゃ驚いてる。

そういえば誰にも言ってなかったな……言いようがないし。


「ロロンさんは知ってんのか。砂漠の出なら有名だもんなあ」


 え?その文言って有名なの?


「ロロン、知ッテルノ?」


 そう聞くと、ロロンは血相を変えてブンブン首を縦に振った。


「んだなっす!その文言は、エラム魔法帝国の……」


「――そう、帝国騎士団が使っていたモンだ」


 失われた魔法帝国の、騎士団!?

どうしよう!急にすっごい浪漫がお出しされたよ!?

トモさん知らなかったの!?


『どうやら、今の私にはアクセスできない情報だったようですね……エラム魔法帝国は極めて情報が少ない文明です。現状の私の知識では、かなり歯抜けになっています』


 なるほど……

そういえばトモさんの情報ってこの世界ベースだった。

信用ならない〇ィキくらいだって言ってたもんね。

地方の滅んだ国の情報、たしかにウ〇キにも中々載ってなさそうだ。


「じっさまから聞きやんした。かつてその文言を掲げた、最強無比の騎士団……【暁光騎士団】でやんすね、まさか本当に存在するとは……」


 なにそれかっこいい過ぎる……

黒棍棒くん、キミはそんなに凄い存在だったのか……!

丈夫で軽くて強くて……つっかえ棒とかにしたら便利だな~とか思っちゃってごめんなさい!!


「魔を祓い、夜明けを呼ぶとも言われた騎士団だな。存在自体が眉唾だったが……こうしてお目にかかる日が来るとはなあ……」


 ブンブクさんは少年のような顔をしている。

むっちゃ嬉しそう……


「それじゃ、チョットこの子借りるわね!調べちゃうぞ~!!」


 ポコさんが棍棒を持ち、嬉しそうに奥へ消えていった。

作業スペースとかがあるのかな……?


「ああなったら長いぞ、ハニーは……ま、ケマでも飲みながら待ってようぜ」


 ハニーって言った!?

ら、ラブラブ夫婦!ラブラブ夫婦だ!!

ドラウドさんとこにも負けてない!!

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