第59話 どうしよう、人間さんへの好感度がゼロに近くなったんだけど。

「お前、前に露店で会った虫人だろう!」


 ……お店のテラス席の入口で、イライラしたように声を出す人影。

うん……うん……絶対あの人だ。


「おい!無視するんじゃない!」


 横を向いたまま視線を向けると……うん、やっぱりあの時の失礼な金髪イケメンだ。

今日も綺麗なお姉さんを二人引きつれていらっしゃる……


『あら、むっくんもそうでは?』


 ハッハ!ご冗談を。

あの失礼満載のお姉さん2人よりも、ウチのアカとロロンの方が5億倍くらいはカワイイですぞ!!


『ふふ、そうですね』


「おい……ムークさんよ、あのうるせえの、知り合いか?あんまり仲良くしたい連中じゃないけどよ」


 イラっとした様子のターロさんが小声で聞いてきた。


「……見下げ果てた屑でやんす。アカちゃんを金で買おうとしやんした」


 ヒィ!さっきまで女子会トークしてたロロンの目がコワイ!

お店の中でナイフ抜かないでください!!


「デス、知リ合イトイウカ……絶対仲良クシタクナイ人デスネ」


 知り合いというカテゴリーにすら入れたくない。


「屑、ね」「屑ニャ」


 ……ミーヤマーヤさんも両方目がコワイ!!

あの!ナイフを!抜かないで!!


「ッチ、祭りの時期はああいう手合いが増えるからな……!面倒くせえなあ、オイ」


 溜息をついて、目の据わったターロさんが立ち上がる。

……こうなっちゃ仕方ない。

ボクも立とう。


「ハイハイ……モウ二度ト、会イタクナカッタデスネ」


 彼らの方に向き直って言うと、いかにも気分を害されたように男が顔を歪めた。

その表情はどっちかというとボクらサイドがする顔なんですけどぉ?


「……チッ!……ま、まあいい、許してやろう。俺もあの時は少し言葉が過ぎた」


「許シテモラワナクテモイイシ、少シドコロジャナカッタヨ」


 そう言い返すと、男の顔に青筋が浮いた。

わあ、イケメンが台無し。


「お、前……」


 わなわなと震えている。


「ワザワザ嫌イナ相手ニ絡マナクッテモイイデショ?ボクモ、アナタタチ嫌イダシ……モウ放ッテオイテクレマセンカ」


 何の目的でまた接触してきたんだよ、もう。

……まあ、だいたいわかるような気もするけど?


「――ッ!」


 顔を赤くして絶句した男の後ろから、剣士っぽいお姉さんが前に出た。

……あのね、お店の中で剣を抜こうとしないでってば!

こっち陣営もナイフ抜いてるから何も言えないけども!


「……そう怒らないで、私達は一つ聞きたいことがあるだけだから」


 このお姉さん、そう言って笑ってますけど目が全然笑ってない。

ボクというか、獣人さん達にも一切の好感度が存在しない目をしている……この国にいる間にショックで死んじゃうんじゃないの?

異種族嫌いすぎでしょ、ヤマダさんを見習ってよ。


「……あのねえ、あの妖精、どこで見つけたの?それだけ教えてくれれば、私達は退散するわ」


 ……やっぱり、ね。

妖精は好きなんだね、この人たち。


『好きというか……むっくんには嫌な話でしょうが、その……【珍しいペット】的な扱いと言いましょうか……』


 知 っ て た 。

そんなことだろうと思ってたよ……しかし、どうしよ。

これ、教えないと退かない感じよね……


『あら、そのまま教えてあげなさい。大丈夫ですから』


 えっ大丈夫なの?


『アカちゃんが初め、どんな姿だったか覚えているでしょう?それに、見つけたのはどこでしたか?』


 あっ。

……そっか、問題ないのか。

でもちょっと嫌がらせしちゃお~。


「……【帰ラズノ森】ダヨ、東側ノネ。……コレデイイ?」


 実際は黒い森のさらに内側だし!南側だし!

まあでも、そんなことを丁寧に教えてあげるほどボクは天使虫ではなぁい!!

アカがニセムシだったことも含めてね!!


『帰らずの森の外側は、どこの国の持ち物でもありませんからね。教えても問題ないですし……ふふ、むっくんの性格が悪くて私も嬉しいです』


 褒められている気がまったくしない件について。


 まあね!

こんな失礼な人たちに親切にする理由もないからね!!


「馬鹿な!?お前のような虫人が【帰らずの森】から生きて帰ってきただと!?」


 男が驚愕している。

ふふふ……あそこは本当に地獄だったからね!

これだけ進化してても、絶対に戻りたくないくらいに!


「運ガヨカッタカラネ……嘘ハ言ッテナイヨ。アトハゴ自分デ確カメテミテ」


 それだけ言って、しっしっ!って感じで手を振った。


「おい、聞きてえことは全部聞いただろ?俺たちゃ飯の途中なんだよ……とっとと出てってくんな」


 ずい、とターロさんが横に出た。


「ケマがまずくなるニャ、失せるニャ」「右に同じ」


 ボクの後ろに、ミーヤさんたちも。


「――失せろ毛無し猿。我が槍ば、届かんうちに」 


 ボクの横にいるロロンが!コワイ!!

殺気が!殺気が見える!!


「き、貴様ら!なんという口を――」


 化けの皮が一瞬で剥がれたお姉さん……いや女でいいや……が、腰の剣に手をかけた。

抜くのはマズいですよ!!

だって――



「――ウチにはな、妖精を金で買おうなんて下衆に食わせる飯はねェんだよ……てめえら、この前東街で騒いでたって馬鹿な連中だろ? もう街中、噂で持ち切りだぜ」



コック帽をかぶった、2メートル近い……ムッキムキのキツネさんが、牙を剥きだして連中の後ろにいるから!

刃の部分がボクの上半身より大きい!マサカリの化け物を片手に持って!!

なにあの鉄の塊!?熊くらいなら真っ二つにできそう!!


 それにコックさん、こいつら知ってたのか……異世界噂システム、恐ろしい!!


「なん、だ、とォ……ッ」


 男は怒りながら振り返って……コックさんを見て声がどんどん小さくなっていった。

そして、さらにコックさんの後ろで……


「お帰りはあちらでございまぁす♪もう二度とお越しにならないでくださぁい♪」


 さっきのカワイイウエイトレスさんが、出口を指示している。

――身長よりも明らかに長い、クロスボウを片手で握ったまま。

お、お姉さん……装填されてるのは本当に矢です?

クジラとか獲れそうな銛に見えるんだけど?


「……帰るわよ、2人とも」


 今まで一言も発しなかった魔法使いっぽい女が、低い声でそう言って歩き出した。


「イルゼ……」「あ、ああ……」


 2人はそれを追って……男の方は何故かボクをもう一度睨んで速足で店から出て行った。

……ふぅ、なんとか追い払えたか。


 それにしてもさ、嬉しいけどみんな喧嘩っ早すぎでしょ。

少しは冷静なボクを見習ってほしい所だn――


「――虫の兄ちゃん。腹ァ立つのはわかるけどよ……そのギュンギュン回ってる物騒なの、しまってくれや」


なんかうるさいと思ったら!!

ボクのチェーンソーハンド!?ナンデ!?

ぼ、ボクの意思に逆らって……もしや、棘に自我が芽生えたの?!


『むっくんの怒りはチェーンソーに出るんですね……さすが、謎虫……』


 変な所で感心しないでってば!!



・・☆・・



「ナンカ、チカレタ」


「見ねえでもいいような屑ば、見たがらでやす……ほんに、今思い出しでも腹の立つこと!」


 職人区画へ向けて、ロロンと2人で歩いている。


 あの後、ボクらは食事を共にして……宿を探しに行くと言うターロさんたちと別れた。

昨日まで泊まってたところがちょっと気に入らないんだって。

候補として【妖精のまどろみ亭】を紹介しておいた。

あの3人ならたぶん大丈夫だろうし。


 そしてボクらはウォーキング。

キツネのコックさんが追加をサービスで出してくれたので、お腹が爆発しそうだからね。

『食え食え、食って力ァ付けて妖精のかわいこちゃんをしっかり守ってやんな』なんて言われたらさ……もう食べれません!なんて言えないもん。


「ヨシヨシ、ロロンモイイオ姉サンダッタヨ」


 ぷんすこ怒っているロロンの頭に手を置き、撫でる。


「ふわわ……へ、へへへ……アカちゃんは、ワダスの妹みてえなモンですから!」


「ハーイイ子、三国一ノイイ子」


 なんてすばらしいんだ……頭から発火するくらい撫でちゃろ!!


「むわわわわ」


 撫ですぎちゃった。

ごめんなさい!髪の毛がフワフワで気持ちよくって!!


『セクハラ虫になる前に、節度はわきまえましょうね?』


ハイッ!!


「……ソウソウ、アノ店デ聞イタ場所ッテ、コノ先ダッケ?」


「んだなっす、あの曲がり角ば右のはずです!」


 ウォーキングついでに向かっている場所。

それは……武器屋だ。


 伸ばし伸ばしになってたけどいい加減、黒棍棒くんを調べてもらおうと思ってね。

さっきの喫茶店でついでに聞いたんだよね、信用できる所ないですか?って。


「影になったら、棍棒ば出しやんしょ」「ウン」


 今はマジックバッグに入っております。

混んでいる街中だと邪魔になるからね。

この世界、結構マジックバッグって流通してるけど……まあ、高価なものだから見られないに越したことはないよね。

今はここ、外から色んな人がいるからさ……あの人間みたいなのが!!


『ふふ……むしんちゅとは相容れない存在ですね。……ああ、そういえばさっき言いそびれていました』


ムムム?

なんでしょ、トモさん。



『――あの3人の中に、転生者がいましたよ』



……なんて???

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