第58話 お祭り前のワクワク感っていうのも、好きかも!
「大掛カリダネエ」
「んだなっす……話には聞いておりやんしたが、はあ……なんとも」
なんちゃってオープンテラス席に座り、ロロンと並んで通りを見ている。
そこかしこを忙しそうに人が動き回り、露店の設営やら飾りつけやらをしている。
まだまだ時間はあるっていうのに、段取りが早いなあ。
「ロロンハサ、オ祭リデ何ガ見タイノ?」
注文したケマを啜る。
うーん、街ごとに微妙に味が違って飽きないや。
虫の国に行く前にしっかり買い込んでおこう、町々でね!
「やはり、なんといっても本番の【鎮魂の儀】でやんす!じっさまとばっさまが若い頃に見たらしいでやすが……なんとも荘厳で、そりゃあもう凄かったらしいでやんす!」
へえ、そんなに!
それは僕も楽しみだ……!
「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ~」
可愛いエプロン姿の、中身も可愛い小柄なキツネさんがやって来る。
うわー、このお店って人気なんだろうな。
獣人さんの女の子ってみんなかわいいしねえ。
「アリガトウゴザイマス」
目の前に、プレートに乗った美味しそうなサンドウィッチが置かれた。
……おかしいな、ボクらは2人なんだけど。
どう見ても4人前くらいはあるぞよ?
「アカちゃんがいねえのに、こんなご馳走……ちょっと悪いでがんすね」
「大丈夫、アカモ今ゴロゴ馳走食ベテルシ、キット」
ロロンが困ったように笑うけど、目はキラキラ輝いている。
……お腹と目は!正直!!
「イタダキマス」「いただきやんすぅ!」
ボクらは揃って手を合わせた。
・・☆・・
ターロさん一行をレスキューして、翌日。
ボクとロロンは【西街】にいて、遠くにごったがえす市場を見ながら昼食の時間だ。
目的は、買い出しというかウインドウショッピング!
【東街】の露店街もすごかったけど、こっちは街区画全体が市場と職人街に二分されてるんだ。
さながら異世界ショッピングモールって感じ!!
で、何故アカがいないかって言うと……カマラさんのお部屋にいるんだよね。
昨日持ち帰ったエーゴン石に喜び、かなり報酬を弾んでくれたカマラさんは朝からアミュレット?タリスマン?の量産体制に入っている。
アカは、その光景が面白いらしくって朝からずうっとカマラさんの所にいるんだ。
迷惑だからって止めようとしたんだけど、なんとカマラさんのほうからOKが出た。
『アカちゃんには魔力を込めるお手伝いをしてもらうよ、この子は筋がいいからこっちから給料を払いたいくらいのもんさね』
ってさ。
どうやら、試しにやらせてみたらかなり上手だったらしい、アカ。
……子分の溢れる才能がコワイよ、ボク。
いつか愛想つかされなきゃいいんだけどね……
それで、アカにくれぐれも邪魔はしちゃ駄目だよーって言って……宿にいるのもアレなので、こうして見物に来たってわーけ。
ボクはなんのお手伝いもできないし、それこそ邪魔になっちゃうからね。
アカはボクと魔術的なパスとやらが繋がっているので、トモさんがリアルタイムで位置情報を認識できるらしいし。
便利!!
そしてロロンは、声を掛けたら喜んでついて来てくれた。
彼女も手持無沙汰だったんだろうねえ。
ちなみに今いるお店はアリッサさんの紹介です。
お友達がやっている店なんだって。
「ンマ、ンマ」
噛み締めたサンドウィッチが美味しい!美味しい!
みずみずしいレタスっぽい野菜に……ピリッとスパイシーな何かのお肉がバッチリ合う!
パンも固めだけど、香ばしくって最高!!
うーん……文明って最高だ!!
『むっくんが嬉しそうで、私も嬉しいです。ふふ』
その逆もしかり!
トモさんが嬉しいとボクも嬉しい!
ボクらは無敵だねえ!!
『あら、お上手ですね……仕方ありません、トモさんポイントを進呈します』
ワーイ!まーた謎ポイントだ~!!
「ング……ア、ターロサン達ダ」
「お元気になったんでやすね!」
満面の笑みでサンドウィッチを頬張るロロンの向こう。
ちょうど、テラス席にターロさん達3人が入ってくるところだった。
昨日の今日で、凄い回復力だなあ。
「おお!ムークさんにロロンさんじゃねえかよ!」
ターロさんが真っ先に気付き、笑顔で寄ってきた。
「モウ大丈夫ナンデスカ?」
「おう!腐ってもランダイ族だ!飯食って寝ちまえばもう元通りだぜ!」
ランダイ?が何なのかはわかんないけど……まあ、丈夫な種族ってことなんだねえ。
「マーヤさんに、ミーヤさんもお元気そうでえがったのす!」
「ムークさんのくれたポーションのお陰ニャ!おんなじ中級でも出来が悪いと、変に疲れが残ったりするニャ~」
ロロンとハイタッチして、ミーヤさんがするっと同じテーブルに腰を下ろした。
ロロンの横だ。
「あ!相席いいニャ~?」
「ドウゾ」「どんぞ!」
いいけど、座ってから聞くんだ……いいけどさ。
「ムークさん、昨日はありがと、本当に」
マーヤさんはボクの向かいに腰かけた。
「イエイエ、オ気ニナサラズ」
ボクはおんぶしてただけだからね……
「なんだ、それっぽっちで足りるのかよ?おーいねえさん!さっきの注文に3人前追加な~!」
ターロさんがボクの横に座りながら声を張り上げた。
ちょっと!大丈夫ですってば!?
「ハーイ!」
あああ!注文通っちゃった!?
「おっと!俺達の奢りだから心配すんな!ポーションの礼だよ、礼!」
「イヤ、オ金ハチャント払ッテモライマシタシ……」
お値段1本2万ガルでね!
ぶっちゃけ普通の値段でいいって言ったのに聞いてくれなくて……最後にはロロンの背嚢にミーヤさんが無理やりねじ込んでフィニッシュだったのだ……
「男が細けぇこと気にすんなよハハハ!昨日の威勢はどこ行ったんだ!」
……果たしてボクはオスなのだろうか。
「ロロンの髪すっごいいい匂いニャ!なんの香油ニャ~?」
「【ミラダ草】を裏漉しして、乾かした【ラマ花】をほんの少し混ぜて【トール油】に混ぜ込むんでやんす。部族伝統の香油でがんす!」
「ほんと、いい匂い……アルマードの香油って素敵ね」
「じゃじゃじゃ……よげれば少し試しやんすか?」
「ニャア!そいじゃアチシらのとっておきも試すニャ!こっちは【ララタン草】に粉末にした【タバラ草】を――」
……異世界ガールズトーク!異世界ガールズトークだ!!
すごい!何言ってるか全然わかんない!!
でもロロンがとっても楽しそうなのでヨシ!!
いつの間にかみんな呼び捨てで会話してるし!ロロン以外!
「っは、女ってのはどこでも一緒だねえ……おっと、こういうのは聞こえたら大変だな」
クソデカ骨付き肉を噛み千切りながら、ターロさんは苦笑いしている。
「ホラ、食え食え。アンタだって昨日結構ボロボロだったじゃねえか。食って体を強くしねえとな、俺達冒険者は」
ずい、と押されるお皿。
そこには、クソデカ骨付き肉が……6本!!
追加は3人前って言ったじゃん!
なに!?獣人さんって1人クソデカ骨付き肉2本がデフォルトなの!?
「イタダキマス……ンマイ!ンマイ!!」
でも美味しいからいいや!
ン~……何のお肉か知らないけどほんっと美味しい!
草原アホウドリみたいな鳥肉かな?
ちょっとだけ変わった後味だけど美味しい!
外はカリカリ!中はジューシー!!
「な?うめえだろ?ガラハリの【湿地蛙】は絶品なんだ!」
……今カエルって言った?
『湿地蛙、その名の通り湿地に生息するカエルの魔物です。【香魚】という魚を主食にしているので味がとてもいい……のだそうです』
ほーん……カエルって美味しいんだ!!
美味しかったらなんでもいいや!
森ではゲテモノゲテモノ&ゲテモノだったからね!
美味しかったら無敵なんじゃよ!!
既に毒走り茸とスライムを経験したボクに、怖いものはないんじゃい!!
『謎の自信ですね……』
トモさんがジト目になってる気がする!
「しっかし、ムークさんの武器はすごかったよな……黒曜ゴーレムを簡単に砕いちまうなんてよ。さぞかし値が張ったんだろ?」
え?硬いことは硬いけど、魔力を通せば結構バキバキいけたんだけどな……
「アー……ダンジョンノ、拾イモノデ。詳シイコトハ、ボクニモワカンナインデスヨ」
「ダンジョン!いいねえいいねえ、やっぱ冒険者はそうじゃねえとよ!」
ほう……ターロさんはキラキラ冒険者ですな!
日雇いじゃなくって、『冒険』に憧れるタイプの!!
よかった!ボクだけじゃなかったんだ!浪漫を感じるサイドの人って!!
「こいつは北の【モルーゲ遺跡】に潜った時に手に入れたんだけどよ……」
おお!懐からターロさんが出したナイフ……なんか幾何学的な刃紋?が入ってて凄い!
「オオー!イイデスネ、イイデスネ!格好イイ!!」
「だろォ?握り手に魔力を通すと貫通力が上がる機構になっててよ……」
「ヒューッ!」
・・☆・・
「ムークさん、戦ってる時は頼りになる親分さんだったけど……やっぱ中身は冒険者ニャ!男はみーんな根はガキニャ!」
「おっきい子供が、2人いるね。ふふ、あんなにキリっとしてるのに……ちょっとカワイイかも」
「じゃじゃじゃ……ムーク様が楽しそうでえがったなっす!」
・・☆・・
「ニャ!ムークさん【トルゴーン】の出じゃないのニャ!?」
「エエ、アノ、物心ツイタラ森ニイテ……」
嘘は言っていない、嘘は。
生後一年未満だけど、嘘は言っていないぞ。
「苦労したんだね、お肉……食べる?」
「ア、アリガトウゴザイマス……」
「おいおい、いい加減……そんな堅っ苦しい言葉遣いはやめろって!ロロンさんもな、俺たちゃおんなじ冒険者なんだからよォ」
「わ、ワダスのコレは性分でがんすぅ……」
お肉食べ過ぎたかもしんない……けぷり。
こ、これはもうちょっと休憩しないとウインドウショッピングどころじゃないなあ。
まあ、冒険者仲間ができたからいいかな?
「――おい、そこの虫……お前だ、おい!」
……とっても無視したい声が聞こえた気がする!
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