第57話 リターンが少ない敵って嫌だよね!ね!!

「ムーク様!ムーク様ァ!!」


 地面に転がっていたイイ感じの岩に腰かけ、一息入れていると遠くからロロンが走ってきた。


「じゃじゃじゃァ!?な、なんと惨いお姿に……!」


 走り込んでくるなり、ロロンは顔を真っ青にして腰のあたりに抱き着こ……うとして急ブレーキ。

あっぶない!そこ破片突き刺さってるんだから!

アルマジロからハリネズミにクラスチェンジしちゃうよ!


「ダイジョブ、ダイジョブ……アダダダ」


「おやびん、いたい?いたいぃ?」


 体中に突き刺さっていた黒曜ゴーレムの破片を引っこ抜くのを手伝ってもらっていたアカが、心配そうに聞いてきた。


「……ヘーキ、ヘーキ」


 ほんとはちょっとだけ痛いけどね。

まあでも、釣り針みたいに返しが付いてなくてよかったね……


「わ、ワダスもお手伝いばするのすっ!!」「ワワワ」


 ロロンはあっという間にボクのマントを剥ぎ取り、目をまん丸にして破片を抜き始めた。

ありがたい……小さい破片が多くて大変なんだよねえ。

さてボクは……鳩尾に突き刺さった破片を抜くかなあ。

トモさーん、抜いたら治療よろしくです。


『了解しました。腹部の傷以外は自然治癒に任せた方がいいですね……急な接敵の場合は別ですが』


 はーい。

……ふんぬっ!!

お腹の半分くらいに貫通していた破片を抜くと、痛みがすぐに収まった。


『修復完了、消費寿命は20日ですね。お得ですよ』


 お得……かなあ?

まあ、腕や足が吹き飛んだわけじゃないからいいけどさ。


『ふふ、頑張ったむっくんにご褒美情報を……右側の壁面にエーゴン石がありますよ。帰る時に回収しましょうね』


 マージで!?


 右を向くと……ほんとだ!うっすら緑色の壁がある!

全然気づいてなかった、トモさんありがとう!!

後で掘り返すね!


 ……あ!!


「ロロン、獣人サン達ハ?」


 こっちも忘れかけてた!


「怪我ばされてた女性2人は無事でがんす。だども、傷は塞がりやんしたが……体力が落ちてるので、しばらく休んでいただいた方がえがんしょ」


 必死で破片を摘出してくれているロロンが、こちらを見ずに答えてくれた。


 ああ、よかったあ。

体を張った甲斐があったね。


「黒猫サン、起キタ?」


「はい!少し出血ば、酷かったんでやんすが……ワダスが縫いやんした」


 ロロン、そんなこともできたんだ。


「ポーションダケジャ、駄目ナンダネエ」


「傷が大きいと、ポーションで治したら体力の消耗も激しいんでやす。あの方は太腿の大怪我で消耗が酷かったので……背中の傷まで治したら衰弱が気になりやんして……」


 ああ、そういうことか。

あの人……マーヤさんだっけ?

酷い傷だったもんなあ……

でも、あんな大怪我でも入院もせずに治っちゃうんだからポーションとか魔法はすごいねえ。


『その分お値段も張りますが』


 そうでした!

貧乏ってワケじゃないけど、それでもお金は稼がないとなあ……ボクの仕事上、どうしても突発的な怪我も多くなるし……何があるかわからんし……

ちくちくと破片を抜いてくれる2人に感謝しつつ、手の届く範囲の破片を抜き続けた。

じ、地味に多い……



・・☆・・



「ムークさん!無事だったか!?」


「マア、ソコソコ」


 ボクを針鼠むしんちゅにしていた破片は、やっと全部取れた。

ああ、もう二度と至近距離でゴーレムと戦いたくない……


 それで、ターロさんの所に戻ってきた。


「ドウデスカ、ソッチハ大丈夫デスカ?」


「ああ!ムークさんのポーションのおかげだよ!」


 ターロさんの後ろには、黒猫のマーヤさんが寝かされていた。

ミーヤさんはいないね……どこに行ったんだろう。


「あにゃた、戦うの、見てた」


 マーヤさんが言った。

おお、もうちゃんと喋れるの!よかったあ。

顔色は相変わらず悪いけど、これでひと安心だねえ。


「怪我、大丈夫?」


「アッハイ、鍛エテマスノデ」


 実際は寿命ごり押しですケドね!


「命の恩人、ありがと、ほんとに」


「イエイエ……」


 ……トモさん、大変です。


『どうしました?何か彼女に問題でも?』


 ……ニャが付いてない!付いてないよ!!

彼女本当に大丈夫!?


『……ああ、翻訳の都合上そう聞こえてるのですね。アレは獣人の方言の一種です、出る人も出ない人もいますよ?』


 そ、そうなんだ……てっきりみんなニャンニャン言うもんだとばかり。

ロロンみたいな翻訳のバグ?ってやーつか。


「ターロサン、チョット待ッテモラッテイイデスカ?【エーゴン石】掘ッテキマスノデ」


「お?なんだよ……まさか、帰りも一緒にいてくれるのか!?」


 え?だって帰る方向一緒だからいいかなって……


「駄目デシタカ?」


「いやいやいや、こっちからお願いしたいくらいだよ!待ってろ、俺も掘るのを手伝うから……」


「怪我人は、養生しなっせ!」


「お、おう……」


 慌てて腰を浮かせかけたターロさんを、ロロンが制す。

ううむ、小さいのに強い……さすがだ。


「わ、わかった。ここで待ってるからゆっくり掘ってくんな……本当にすまねえ、助かった」


「ありがと」


 ターロさんに続き、マーヤさんまでまたお礼を言ってくれた。

気にしなくていいのに~。


「ジャ、ソウイウコトデ」


「ほる!ほーる!」「お任せくださっしゃい!」


 ターロさんたちに手を振り、やる気満々なアカとロロンを引きつれて歩き出した。



・・☆・・



「……あの、重く、ない?」


「全然デスヨ~。羽ミタイニ軽イデスヨ」


 背中がじんわりあたたか~い。

毛皮の効果ってやーつかな?


「ごめんなさい、迷惑かけて、本当に」


「イイカラ、イイカラ」「いいからあ~♪」


 日が傾きかけた山を、ゆっくり下りている。


「すまねえな、ムークさん……」


 背嚢を背負ったターロさんが、申し訳なさそうに頭を下げた。

もう~!気にしなくてもいいっていっぱい言ったのに!



 緑がかった依頼品の【エーゴン石】

小一時間かけて掘り出したボクらは、それを背嚢に詰めて下山することにした。

マジッグバッグは人の目があるから使わずにね。

あんまり大量に持って帰っても、カマラさんが困るかもしんないし。


 というわけで、ターロさんたちと一緒に街まで帰っている。


 ロロンが石満載の背嚢を背負い、元気に歩く後ろで……ボクは、マーヤさんをおんぶしている。

彼女は恐縮しているが、適材適所ってやーつでしょ。

ターロさんもミーヤさんも体力を消耗してるし、これくらいなら別になんともない。


 ……初めはね、ロロンが背負うって言ったし……ボクも同性同士の方がいいと思ったからそうしようかと思ったんだけど……

ロロンの身長、推定150センチ前後。

対するマーヤさんは、ボクよりほんの少し低いだけ。

……絶対に足をザリザリすることになるだろうから、ボクが背負うことになったのだ。

病み上がりに足ザリザリはかわいそうすぎるしね……


「ターロ!油断は禁物ニャ!」「あいよ、任せな!」


 ミーヤさんが、大ぶりなナイフを構えながら先頭を歩いている。

ターロさんはボクの後ろ、最後尾だ。

ちなみに武器は手斧二刀流。

流行ってるのかな、同じような装備の獣人さんよく見るけど。


 『せめて索敵だけはさせてくれ!』って懇願されたんだよね……トモさんレーダーあるからいらないけど、言うわけにはいかないからねえ。

ここは申し訳ないけど甘えよう。


「ふかふか!ふかふかぁ!」


「……ふふ、あったかい」


 ボクが背負ったマーヤさんの耳を、アカがモフっている。

……嫌なら嫌って言ってくれてもいいのよ?

いや、これ喜んでるのかな?


「ムークさんはすっごいにゃ!回復魔法使えるなんて珍しいにゃ~」


「ハハハ、自分ニシカ使エマセンカラ」


 ミーヤさんが褒めてくれるけど、結局そういう形にしておいた。

目の前で破片喰らいまくったから誤魔化せないもんね……まさか寿命消費で回復するなんて言えないし。

なので、自分専用の回復魔法が使えるって設定?にしておいた。

他人には使えないってさ。

魔法に長けた人員が少ない獣人さんはまるっと信じてくれたけど……この先もそうとは限らないから、注意しておこうか……

魔石モグモグもあんまり見られないようにね。

魔石そっくりの飴玉ってことにしておこうかなあ。


「あの、もたれても、いい?」


 背中のマーヤさんが少し恥ずかしそうにしている。

ああ、疲れたんだね……


「ドウゾゾウゾ。ナンナラ寝テモイイデスヨ、街マデ」


「ん……ごめんなさい」


 正直、もう限界だったんだろう。

マーヤさんはボクに体重を預けて、ちょっと息を吐いて……ずん、と重くなった。

おおう、子供が眠ると重くなるって本当なんだな~……アカもよく寝るけど、元が軽いからわかんなかったよ。


「アカ、眠クナッタラ胸ポッケニ来ナサ――オオウ」「あい~!」


 言い終わる前に、アカはぴゃっとポッケに移動した。

ホント、飛ぶのが上手になったねえ。

マンツーマン?で教えてくれたピーちゃんのおかげかな?


「ふわぁあ……ちかれた、ちかれたぁ」


「大活躍ダッタモンネ。オ疲レサマ」


 ポッケから出た頭を撫でると、アカはにへらと笑って力を抜く。


「おやしみ~……」


 すっご、もう寝たよこの子。

ボクよりも寝つきがいいね。


「ドッコイショ」


 安らかな寝息を立て始めたマーヤさんを背負い、足を滑らせないように歩き出した。

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