第55話 謎虫 VS 黒曜ゴーレム
黒の森で会ったゴーレムは10メーター級だったけど、目の前のは5メートル級だ。
ま、できれば戦いたくないけどさ。
前回は逃げるだけだったし……今回もやり過ごせれば最高なんだけど。
『黒曜ゴーレムがアクティブになっていますね……残留魔力を検知されると、すぐに襲いかかってますよ』
トモさんが言うように、トランスフォームを終えた黒曜ゴーレムがゆっくりと周囲に体を向けている。
遠くてよくわかんないけど、なんかこう……魔力を出してる感じ!
潜水艦の、ソナーみたいに!
「ミーヤ、マーヤは……?」
「まだニャ、落ち着くまで待たないと塞がった傷がまた開くニャ!」
黒猫のマーヤさんは、まだ目を閉じたままピクリとも動かない。
傷が開く……?さっきのポーションで治ったんじゃないの?
『ポーションは瞬間的に傷を塞ぎますが、あくまでも瞬間的に過ぎません。しばらくは患部を動かさないようにしなければ、深い傷はまた開くのです』
マジで!?
えっでもダンジョンでロイドさんはすぐ復活してたじゃん!?
『彼の傷は結局開いていましたよ、包帯で無理やり固定していただけです。誰にでもできることではありませんし、マーヤさんの体力ではショック症状を起こすかもしれません』
そ、それはまた、なんとも……ロイドさんってやっぱ凄かったんだな。
じゃあ……ボクらはここでじっとしてればいいんだね、魔力を出さないようにして!
そうだよ!別に戦わなきゃいけないってワケじゃないしね!
『ええ、ソレが最善ですが……むっくん、マーヤさんの流した血をよく見て下さい』
へ?血なんて見ても……魔力出とるゥ!?
血液に魔力がむっちゃ出とるよ!?
……あ!芋虫時代にトモさんが言ってた!
血液には一番魔力が含まれてるって!!
最近血抜きしたお肉しか食べてなかったから……完全に忘れてた!!
『そうです、体内にある時はいいのですが……体外に出ると本人の意思とは関係なしに、大気中に魔力が放出されるのです。そして……この距離での黒曜ゴーレム、その探知能力は――』
トモさんがそこまで言った時。
50メートルくらい先にいる黒曜ゴーレムが、動きを止めて――体に似合わない素早い動きで、こっちを見た!!
『――気付かれました!』
ええいもう……じゃあ――仕方ないねッ!!
衝撃波全開!インセクト・ジャンプぅっ!!
「おやびん!?」「ムーク様ァ!?」
「――囮ハボクニ任セテッ!!」
動けないマーヤさんと、治療しているミーヤさんとロロン。
怪我が治ったとはいえ、疲弊しているターロさん。
簡単な計算だよ!動けるのはボクと――
「アカも!アカもーッ!!」
――すぐさま追いついてきた、頼れる子分しかいないじゃない!
『アカ!援護ヨロシク!ボクは前に出てアイツの攻撃を引き付けるからね!飛び回って魔法を撃つんだ!絶対に止まらないでね!!』
『あいっ!!』
念話で指示を出す。
空中のボクら……否、ボクと黒曜ゴーレムの目が合う!
――背筋に、寒気!!
「フンギャロッ!?」
側面に衝撃波を放ち、空中でサイドステップ!
一瞬前までボクがいた空間を、黒光りする甲殻っぽい塊が貫いていった!
ふう、危ない危な――
「ハンギャロッ!?」
逆方向へ、衝撃波!!
またパーツ、飛ばされた!
アイツ、射撃の感覚が、短い!
縦横無尽に飛び回れるアカと違って、基本的に空中のボクは直線的、しかも衝撃波ぶっぱでしか動けない!
このままじゃ、空中で穴あきチーズにされちゃう!!
こうなったら――!!
「ウ、オオ!オオオオオオッ!!」
前方に、加速ゥ!!
いつものことだけど――接近戦に持ち込むしかない!
ちくしょう!新しいスキル欲しい!
具体的には、マジカルアンチマテリアルライフルとかそういうやーつが!!
『そのようなスキルは確認されていませんね。持っているカードでファイトあるのみです、むっくん』
わかってたけどチクショーッ!!
棍棒を持ち、せめてもの抵抗で左右へランダム回避しながら――突撃ぃい!!
まずは地面スレスレまで急降下して――そのまま!正面から!突っ込む!!
このままじゃジリ貧だから、ねえっ!!
「ウ、ワッ!?」
ボクに向かって飛んできた黒光りした破片を、咄嗟に棍棒で払う。
棍棒からは盛大な火花が出るけど、異次元の頑丈さだからなんともなってない!
ありがとう黒棍棒くん!!
「ヨイッ――」
片足が着地。
石混じりの、ゴツゴツした地面を蹴る!
「――ショオッ!!」
蹴った瞬間に、背後へ衝撃波!
足の踏み切りと、追加の衝撃波で一気に加速する!
「ウグッ!」
またも飛んできた破片を払い――至近距離へ!踏み込むッ!!
「オウッ――」
真正面から、衝撃波で横スライド!
そしてェッ!!
「――リャアアアアアッ!!」
その勢いを乗せた、棍棒のフルスイング!!
その途中で、棍棒くんが明らかにボクの腕力以外の要因で謎加速する!!
どうやら黒曜ゴーレムも慈悲なき認定!らしい!!
――がぎん、と硬質的な音が響く。
「イッギ……!?」
って、手が!手が痺れる……!!
なんて硬さなんだよ、畜生!!
今のボクなら岩くらい簡単に割れると思うけど……コイツはそれ以上の硬さだ!
ヌッ!?
ゴーレムの手が、上から降ってくる!?
ヤバい!防御を!!
「ッグヌ、ヌゥウア!?」
上から振り下ろされた手を棍棒でガード!
したけど!手の痺れはさらに加速した!
衝撃で体が軋む!このまま地面に叩き付けられそうだ!!
「グギギ!!」
膝と足首がより一層、軋む。
だ、だけどなんとか、耐えられた!
「ヌウウ、ウ!アアアッ!!」
全身の力を総動員し、棍棒を跳ね上げる。
叩き付けられていたゴーレムの腕も、一緒に浮く。
「コレデモ――」
圧力が消え、その隙に右足を上げる!
そのまま、足裏をゴーレムの膝に叩き込む!
更にッ!!
「――喰ラエェッ!!」
叩き込む!パイル!二段階ッ!!
密着して放たれた棘が、ゴーレムの装甲を砕く!
「モッテケ、ドロボーッ!!」
射出される棘。
それは、ゴーレムの膝関節付近の装甲を抉りながら突き刺さった!
よし、貫通はしないけど刺さりはする!!
これならなんとかなりそう……なるかも!!
「フンッ!ヌゥウ!!」
右足を引いて、今度は逆方向の膝に照準!
軽くジャンプして、今度は左足を――
「――ッギィ!?」
ゴーレムパンチが!鳩尾に!!
がああ!ご飯が全部外に出そう!!
そして――その腕から、とっても鋭利な破片が!ゼロ距離で射出された!!
「ッガ!?!?」
ムガタさんから買った、流体金属腹巻。
それが、その能力をしっかり発揮してくれて……破片が貫通することはなかった。
だけどその衝撃力は、ボクの体内をかき回した上に――後ろへ向けて吹き飛ばす!
破片は貫通してない!してないけどガッツリ刺さってる!!
痛い上に吹き飛ばされた!!
「おやびんっ!――んにゅうううううっ!!」
上空から一気に急降下したアカが、ゴーレムの背後に来た。
なに今の軌道!?反転しながらギュンって!?
やっぱりこの子半分くらい戦闘機じゃない!?
「こっのぉおおおっ!!」
そして、放たれる思念ミサイル。
その数、無数!
光りの尾を引いて殺到したそれは、ゴーレムの背中に次々と突き刺さって炸裂!
空中に装甲が飛び散った!
ヒューッ!さすがはボクの子分!!
もうおやびんいらないんじゃ――
「――アカ、避ケテッ!!」
空中に飛び散ったゴーレムの破片が、慣性を無視してアカに殺到する。
〇ァンネルじゃん!に、逃げてアカ!!
ボクの位置からじゃ庇いに行けな――
「にゅ!にゅ!にゅううううっ!」
なんとアカは、自分に向かって飛んで来る破片を全て躱した。
急な加減速を繰り返したかと思えば、瞬時にトップスピードへ達して上空へ退避。
追いすがる破片を、全て振り切った。
……すっご~。
――って、見とれてる場合じゃない!
「ヌゥウ、ウ!!」
空中で姿勢制御し、着地!
握りしめた棍棒に!魔力を注ぎ込む!!
おそらく【全ての慈悲なきものに死を】の文言が、青白く浮かび上がった。
「オオオオオオオオオッ!!」
同時に、背後へ衝撃波!
思いっきり棍棒を振りかぶり、そのままの姿勢で低く飛び出す!
「ウチノ子分ニ――!!」
あっというまに、ゴーレムへ肉薄。
「――手ヲ出スナァッ!!」
大上段から振り下ろした棍棒が、途中から明らかにもう一回加速。
ボクの出せる以上の力で、ゴーレムの目の辺りに激突した。
青白い、魔力を含んだ火花が空中へ飛び散った。
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