第53話 お祭り前の突発冒険者仕事!

「ムークちゃん、おはよう。あらあら、アカちゃんはまだお眠かい」


「ア、オハヨウゴザイマス」「おばーちゃ、おはよ~……」


 寝ぼけ眼のアカを肩に乗せ、宿の2階から下りた。

すると、バッタリ見知った顔に会った。

昨日のクソ人間さん騒動で、すっかり仲良くなったカマラさんだ。


「今日ハ、オ仕事行カナインデスネ?」


「毎日毎日仕事なんかしてたら、体がぶっ壊れちまうよ。休める時に休んどかないとねえ、歳だしさ」


 昨日見たローブ姿とは違い、足首まで隠れるゆったりとした部屋着?みたいなものを着ている。

隠れていない頭もよく見えるね~……白髪だけど、フッサフサで綺麗な髪だ。

前髪長すぎて顔ほとんど見えないけど。

耳も長くて……狼さんっぽい!

やっぱり狼の獣人さんなのかな……ケモ度80%って感じ!


「おや、ロロンちゃんは?」


「洗濯デス……朝カラ働キ者デ……無理シナクテイイッテ言ッテルンデスケド……」


 起きたらベッドにいなかったんだよねえ。

折角の長期宿泊なんだから、ロロンにもゆっくりまったりして欲しいんだけどなあ……


「アルマードの女はよく働くって聞くけど、本当なんだねえ……ま、体を壊さない程度にやらせてやんな。無理にやめさせる方が駄目なこともあるんだからね」


「ハ、ハイ……」


 なるほど……その発想はなかった。

勉強になるなあ……


「おやびぃん、おなかすいた、すいたぁ」


 ようやく完全覚醒したらしいアカが、頬を擦り付けてきた。

昨日無茶苦茶食べてたのに、燃費がいいのか悪いのか……妖精さんって不思議!


「朝飯は1日の中で一番大事なんだよ。ロロンちゃんも呼んで、みんなで仲良く食べな!」


「ハイ!」



「オイシイ!オイシイ!」「んま!んまー!」「んめめな~……んめめな~……」


 本日の朝食……黒いフランスパンみたいなのを輪切りにしてトーストして、甘酸っぱい柑橘系のジャムがかかったの!

卵と根菜、そしてベーコン的なもののスープ!

そして~……みずみずしい葉物野菜の!サラダぁ!!

あと!なんかヨーグルト的なやーつ!!


 は~……最高!最高の!朝食ゥ!!

なんだよもう!異世界宿屋って最高じゃんか!!

生きててよかった!芋虫から進化してよかったァ!!


「アカちゃん、おいしい?」


 ニッコニコで寄ってくるアリッサさん。

あ!厨房のほうから……クラッサさんもめっちゃ見てる!!


「おいし!おいし!しゅき!しゅきぃ!」


「えへへ……えへへへ……よかったぁ……お代わりもいっぱいありますよぅ!ねえ、姉さん!!」


「どうぞ!!」


 ウワーッ!?

業務用みたいなボウルにおかわりがむっさ満載!?

妖精好きすぎでしょこの姉妹!

さすが【妖精のまどろみ亭】!!


「朝から賑やかでいいねえ……妖精がいると周りが明るくなるっての、あながちおとぎ話じゃないのかもね」


 カマラさんも楽しそうだ。

他のお客さんたちも、ニコニコしながらご飯を食べている……ああ、昨日の人間さん連中とは比べ物にならないくらいのいい人たちばっかりだぁ……

そんな風に考えながら、ざくりとパンを噛み締めるのだった。

ンマイ!ンマーイ!!



「さて、ムークちゃん……聞くところによると、アンタたちは冒険者もしてるんだろ?」


 最高の朝食を食べて、食後のケマで一服していると……カマラさんが話しかけてきた。


「ハイ、何度カ依頼モヤリマシタ。護衛トカモ」


「そうかいそうかい……鎮魂祭まではまだ間があるし、よかったらちょいとした仕事を頼みたいんだけどねぇ」


 仕事?


「……イイカナ?」


 と、ロロンに目をやるとブンブン頷かれた。

アカは……ボクのマントポケットでスヤスヤ眠っている。

小鳥みたいでカワイイね!!


「トリアエズ、聞キマスヨ」


「よかった、ここからギルドに依頼出すのも面倒だしねえ……実はねえ、ちょいと【エーゴン石】の在庫が心もとなくってね。それを調達してきてほしいんだよ」


 えーごんいし?

初めて聞く名前だ……たぶん石ってことしかわかんないや。


『エーゴン石、魔法具の触媒に使用される鉱物です。カマラさんのお仕事に必要なのでしょうね』


 トモさんペディア!!


「今日明日は休んで、明後日あたりから部屋で作業するつもりなんだけどね……よかったらでいいんだ、街でも買えはするしね、ちょいと割高だが」


 ふむん……


「もちろん給料もちゃあんと払うよ、ロロンちゃんの拳くらいの大きさなら……一個200ガルで買い取るさ」


 結構お高い!?

状態のいい狼くんの毛皮8枚分くらいのお値段!!


「やりやんす!」


 ロロンが身を乗り出して許可を出した。

この反応からして、いいお仕事なんだろうね!


「あわわ……む、ムーク様!差し出た真似をば……!!」


「イヤイヤイヤ、イイッテイイッテ。カマラサン、ヤリマスヨ」


 慌てるロロンを手で制し、カマラさんに答える。

こんなに食いつくんだ、変な依頼じゃないだろう。

お金には現状困ってないし、宝石もあるけど……お金は!あればあるだけ!いいと思う!!

命と愛はお金じゃ買えないけど、それ以外はだいたい買えるって聞いたことがあるし!たぶん!!


「あいよ、ありがとうね……それじゃ、こいつだ」


 カマラさんは、懐から一枚の羊皮紙的なものを取り出した。

B5くらいのそれには、簡単な地図が描いてある。


「この街周辺の鉱床が書いてある。結構強そうなアンタらにゃ余計なお世話だろうがね、魔物にはくれぐれも注意しな」


 あ~、ここがガラハリで、ふむふむ……北に行ったところに多いね。

わかりやすい。

距離としてはそんなに離れてないね。


「それと、祭りが近いから余所者の冒険者も多いよ。絡まれないようにね……街の近くで殺すと後が面倒だから」


 異世界ブラックジョークだ!

またまたそんな~……真顔じゃん!?ジョークじゃないの!?

街の近く以外ならいいよってこと!?

この世界、人命が軽いねえ……


「ま、先に向こうに手を出させりゃ問題ないけどね。そこだけは気を付けな」


 サツバツとしている……できればそんな機会は永遠に訪れないでいただきたいです、はい!


『しかし、用心は~……?』


 しておきます!!


『素晴らしい、トモさんポイントを差し上げます』


 嬉しいけど!

そろそろその謎ポイントが何に使えるのか教えてくださいよォ!!



・・☆・・



「おや、しばらくぶりだな。宿は取れたかね?」


 というわけで依頼品を取りに行くべく、門までやってきた。

北から出ればいいんじゃない?と思うかもしれないけど……残念!【北街】は封印術師さんたちの専門区画なので、基本的に侵入禁止なのです!

なのでこうして東街の門へ来たんだけど……来た時によくしてくれた女性兵士さんがいた。


「ハイ、オ陰様デ【妖精ノマドロミ亭】ニ泊マッテマス」


「フフフ、歓迎してもらえただろう?あそこは先代も妖精好きで有名だったところだからな……よし、通っていいぞ。再入場に金はかからんが、夜は完全に封鎖されるからな、そこは気を付けろ」


 お姉さんはボクの肩に乗ったアカに顔をほころばせ、小さく手を振った。


「ありがとうござりやんす~!」「ありあと!いてきま~!」


「フフフ、いってらっしゃい」


 ううむ、ポーズが決まっていて大変格好いい。

デキる女!って感じ……!


「イッテキマス」


 ボクも軽く頭を下げ、門を出た。

ほんと、人間以外はいい人ばっかりなんだよなあ……この上、獣人さんに嫌な人がいたら人間不信、いや人類不信になりそうだよ……ボクは……


『あら、地球は同一種族しかいないのにいがみ合っていましたけど』


 ……そういえばそうでした!

じ、人類は愚かだ……



「エエト、コッチノ方ニ山ガ……アッタ!」


 街道に出て、北の方向へ歩く。

ボクらは東から来たから気付かなかったけど、街の北側は丘が多くて岩場が多い。

この街、大きいから影になって見えなかったんだよね。

丘を越えた向こうに、いくつも山が見える。

ここから北は山脈になってるんだ~。


「エーゴン石は緑がかった色でやす。岩山の斜面に張り付くように分布ばしているのす」


「詳シイネ、ロロン」


「里の方でもよく取れやんした!砂漠では貴重な現金収入源でやんす~!」


 ほほう、なるほどね。

経験者がいると助かるなあ。


「アカ、ボクノ上デ偵察ヨロシクネ」


「あい~!」


 やる気満々で、アカが飛び立った。


 ボクも気を付けるけど、アカに上空から監視してもらうことで完璧な布陣になる!

街の周辺とはいえ、離れれば魔物も出る。

注意してしすぎるってことはないもんね!


 背中の黒棍棒を引き抜き、接敵に備える。

不思議な棍棒さんだね、こうして持ってると結構軽いのに……謎加速とかするし。

ま、役に立つからいいんだけどね。


 おっと、お腹のベルトに魔力流しとこ。

これ買ってから、お腹にダメージ貰ってないけど……用心に越したことはないしね!

これは、決してお腹に攻撃を喰らいたいという意思表示ではなぁい!!


「今は見通しがいいでやんすが、この先は注意ばしねえと」


 そう言ってロロンが構えたのは……おや、いつもの骨槍じゃない。

あれは……いつぞやのダンジョンで獲得した金属製の先っちょだ!


「違ウ槍ダネ?」


 聞くと、ロロンがドヤ顔をした。


「コツコツ夜なべして、穂先は交換できるようにしたのす!もし穂先ばいかれても、すぐに交換できまっす!」


 おお!言われてみれば持ち手?と穂先が交換可能なアタッチメントみたいになってる!

そっか……朝晩にちょこちょこ作業してたのはそれかあ!

器用だね、とっても!


「ホホウ、スッゴイネ~」


「じゃじゃじゃ……こっちの方が魔力の通りがいいのす!ちくっと重いのが難点だども――」


 ムムム!

山の方から吹いた風に乗って……生臭いスメルがする!!


「……ムーク様!」


「ウン、コレハ……血ノ臭イダ!」


 ボクとロロンは、一瞬見つめ合ってお互いの武器を構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る