第50話 むっくんランキング暫定一位のお宿!お宿!!
「いらっしゃいませ~、何名様ひゃわああああああああああああああああああああっ!?!?」
人ごみをかき分けかき分け、ロロンを肩車したまま歩き続けた。
彼女は無茶苦茶恥ずかしそうだったけど、この状況で下に降ろすとまた人波にさらわれちゃいそうだったしねえ。
で、露店で果物を売ってたおばさんに宿の場所を聞き、なんとかたどり着いたんだ。
【妖精のまどろみ亭】にね。
ちなみにリンゴを3つ買いました。
宿屋街とでも言うべきか、呼び込みの人たちもごった返している中に……そこはあった。
2階建ての、周囲に比べてこじんまりした印象のあるオシャレな感じの宿!
呼び込みの人もいないそこの、扉を開けて入った。
で、入るなり受付らしき所にいた……アライグマっぽい獣人の女の子。
ケモ度は50%で、身長はロロン以上ボク以下って感じ。
そんな彼女は、ボクが肩車しているロロンを見て変な叫びを上げた。
「よ、よ、よ……妖精しゃん!?!?」
正確には、ロロンの頭に乗っているアカを見てだ。
「こにちわ、こにちわ~!」
「喋ったァアアアアアアアアアアアァヒョいっだい!?!?」
受付からこちらへ来ようとして、躓いたアライグマさんは豪快に床へ転がる。
うわあ……頭からいったよ、大丈夫かなあ?
「んね、姉さん!ねええええさあああああん!!」
床に這いつくばったまま、アライグマさんが叫ぶ。
「アノ、落チ着イテクダサ――」
「――どうしたのアリッサぁ!?」
ばあん、とドアが開いて。
コックさんの格好をした、スラッと背の高いアライグマさんが現われた。
手には中華料理屋さんで使うようなでっかいフライパンを持っている。
「あんた!お客様の前で何やってヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?」
そのコックさんは、アカを見るなり叫び声を上げた。
なんだこのデジャブ!?
「収拾ガ付カナイ……!」
「あの、む、ムーク様!そ、そろそろ降ろしてくださっしゃいぃ!!」
それは本当にごめんなさい!
今の今まで忘れてた!ロロン軽いもん!!
・・☆・・
「ご迷惑をおかけしましたぁ!」
「誠に申し訳ございません……!」
しばし後。
ボクらの前で、アライグマさん2人が深々と頭を下げている。
あれからしばらく混乱していたけど、どうにか正気に戻ってくれたみたいでよかった。
「あ、改めまして……【妖精のまどろみ亭】へようこそ!アリッサです!」
最初に叫んだ小さい方のアライグマさん。
「クラッサです、ようこそお越しくださいました!」
コックの方のアライグマさん。
さっき姉さんって言ってたし、姉妹で経営されてるのかしら。
「ロロンでやんす!」「ムーク、デス」
「アカ!よろしく、よろしくぅ!」
ボクらの方も自己紹介しておく。
今アカが挨拶した時に姉妹とも振動したね……どうやら彼女たち、妖精さんが大好きらしい。
いやまあ、さっきの反応でわかってたけど。
「姉さん!妖精さんが本当に泊まりに来てくれるなんて……!」
「うん、先代が見たら泣いて喜ぶわね……!!」
姉妹はなにやら潤んだ目でハイタッチをしている。
妖精のまどろみ亭って名前なのに、妖精さんが来たことはないんだあ。
『前のラーヤさんを思い出してくださいね。妖精は普通、人とは距離を置いて生きている種族ですよ……金銭感覚もアレでしたし』
そういえばそうだった……
他の種族と旅をしたり、そればかりか宿屋に泊まる妖精さんなんて……そりゃあ珍しいよね。
「アノ、泊マレマス?」
そう聞くと、アリッサさんが突撃してきた。
「も!ももも勿論!勿論ですっ!!最高のお部屋をご用意いたしますっ!!」
近い近い近い!
もうほとんど体当たりですよ!?
「お代も結構ですので!ので!是非当宿にご宿泊をっ!!」
「じゃじゃじゃ!?」
無料は駄目でしょ!?
ロロンもビックリしてるじゃん!
錯乱しすぎでしょ!?
「イヤイヤイヤ、キチントオ支払イシマスヨ。ソレハ駄目デスッテ」
「アリッサ!落ち着きなさいよもう……ええ、ありがとうございます」
クラッサさんが、ボクに抱き着いていたアリッサさんを引き剥がしてくれた。
こっちは妹さんの姿を見て落ち着いてくれたのだろうか。
「あの、ワダスたちは巫女様の巡礼をば見に来たのす。ソレが終わるくらいまで、世話になりたいんでやすが……」
「ああ、なるほど……アリッサ!ご説明!」「ぴゃん!?」
クラッサさんがアリッサさんのお尻をひっぱたいた。
いい音するなあ……
「ご、ごほん……はい!【鎮魂祭】は12日間行われます、それで……あと6日で始まりますから……18日ですね」
あ、まだ開始までそんなに間があるんだ。
それに巡礼っていうか祭りの期間長いね!?
12日……もしかして邪竜の首の数にちなんでるのかな?
「お部屋は皆様ご一緒で大丈夫でしょうか?」
「ハイ……イイヨネ?」
「問題ねがんす!」「おやびんといっしょ!いっしょ!」
……超今更だけど、今までボクたち全員一緒のベッドで寝てたんだよね。
今更だけどさ。
『おや、ロロンさんに劣情を抱きましたか?』
ち、ち、ちがわい!!
ボクむしんちゅですから!
獣人と虫人だから大丈夫かなって……相変わらず性別も不詳だし!ボク!!
『まあ、ロロンさんが気にしていないなら大丈夫でしょう。獣人間はともかく、種族を飛び越えての恋愛は珍しいことですしね』
だよね~……よかったぁ。
この先ロロンが嫌がることがあったら、すぐに部屋を分けてもらうことにしよっか。
『まあ、テントの中で重なり合って眠る現状ですので。今更でしょう』
言い方がなんかいやらしい!いやらしいよ!
しょうがないじゃんテント狭いんだからさぁ!!
『れつじょ?れつじょ~?』
ヒャアアアア!!トモさん!トモさん念話が漏洩してるよォ!!
封鎖して!思考封鎖して!!
「ウチは素泊まり一泊20ガルからでやらせてもらっているので……連泊での割り引が……」
「じゃじゃじゃ? こげなかき入れ時にいいんでがんすか?」
「ああ、そこはご心配なく!ウチは元々、あくせく客寄せをする宿ではありませんので!常連さんで回していただいております!」
内面パニックのボクを置いて、ロロンはアリッサさんと宿代について話し合っている。
い、いつの間に……!?
でもそっか、この宿ってこじんまりしてるけど泊める人も少ないんだ。
あのタヌキさん、これを見越しておススメしてくれたのかな。
兵隊さんは……アカを見て勧めてくれたんだね、さっきの反応で痛いほどわかった。
「しぇば……ムーク様、お支払いをば」
「ア、ハイハイ」
商談?がまとまったみたいだ。
マントの内側でポーチに手を突っ込み、お金を入れた革袋を出す。
こういう時のために、1000ガル前後を分けておいたんだよね。
ジャラー!って出したら面倒臭いし、なにより変なヒトに見られたら危ないしね!
「では……連泊18日、朝食と夕食、それに浴場の利用で……しめて500ガルになります!」
おお、安……いのか高いのかわかんない!
そういう相場わかんない!虫ですので!!
でも、高すぎるってことはないね……ボクの懐は現状、マグマくらいあったかいし!
「ハイハイ……ドウゾ」
「ひいふう……はい、たしかに!こちらがお部屋のカギになります!2階の突き当りです!」
じゃら、と硬貨でお支払い。
マジッグバッグがなかったら、無茶苦茶重い荷物を持つ羽目になってたね……
やはり、おひいさま木像を一刻も早く完成させなければ……!
おひいさま~!
あなたのおかげで、ボクは今日も元気に生きてますよ~!!
・・☆・・
「ぶえっくしょいぃ!?」
「……お風邪ですか、おひいさま? ですからお腹を出してお眠りになってはいけないと……」
「っこ、子ども扱いするでないわ!おおかた、どこぞの虫がわらわの噂でもしておるのであろ!」
「あら……ふふ、それはとても素敵ですね」
「ふふん、モテて困るわい……はっきょん!はっきょん!?」
「珍妙な咳ですね……ラザトゥル、念のためご典医を」
「御意」
・・☆・・
「最高……最高……」「さいこ~、さいこ~!」
湯船につかると、疲れが体中からジワジワ抜けていく気がする……!
やはり、お風呂はどんな世界でも最高だ……!!
チェックインを済ませた後、案内された部屋でちょっと休憩して……ボクらはお風呂へ入ることにした。
1階の受付の奥に、男湯と女湯に分かれている浴場があったんだ。
なんでも、魔導なんとかっていうボイラー?みたいなものがあって……1日中!好きな時にお風呂に入れるんだって!!
最高過ぎるので、予約を取って早速入浴としゃれこんだ!
あ、勿論ボクがいるのは男湯ね。
ロロンは女湯で、アカは……なんか来ちゃった。
まあ、いつも一緒に水浴びとかしてたから今更だ。
「ぽかぽか、しゅき!しゅき……ぶぐぐぐぐ」
そんなに広いお風呂じゃないけど、ボクとアカが入るくらいは大丈夫だ。
今も楽しそうに潜水妖精へとクラスチェンジしている。
「フウ……」
顔を洗って、天井を見る。
まだ日は落ちていない時間にお風呂に入るのも、贅沢でいいね!
これだけのために500ガル払っても惜しくない!マジで!!
『いいですね……私もそろそろお風呂に入りましょうか』
トモさんって入浴とかするんだ……
『デリカシー皆無虫!!』
ゴメンナサイ!!
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