第49話 異世界ってスケールが大きいなあ、大きいなあ!?
「ムーク様、見えてきやんした!」
「……何ガ?」
晴れたり雨が降ったりする街道を、3人で何日も歩き続けた。
狼くんの襲撃が何回かあった以外は、特になんてことはない道行だった。
それで、今日。
横を歩いているロロンが、突然ボクを見て嬉しそうに言う。
でも、見えてきたって言っても……
「【ガラハリ】でやんす!ほら、正面に!!」
ロロンが指差す先。
街道から見えるそこには……山がある。
うん、どう見ても山だ。
「山シカナイヨ?」
「その山が【ガラハリ】でやんす!邪竜の首を埋めた場所ば囲って、街になったんでがんす!」
……な、なんだって~!?
え!?あのでっかい山がそのまま首の埋まってる場所なの!?
まだかなり距離があるけど、それでもあんなに大きいのに!?
「やま~?まち~?」
肩のアカが首をかしげている。
し、しかし……なんて大きいんだ、その首。
話には聞いてたけど……あんなに大きいのが12個くっ付いてたんだね、その邪竜っていうの。
〇ジラも裸足で逃げ出しちゃうよ、そんなの。
巫女様とその仲間たち……本当に凄かったんだなあ。
『伝説の英雄たちですからね。彼らの使用した武器のいくつかは今でも現存していますが、そのどれもが国宝として厳重に保管されています。たしか、あの街にも保管されているとか』
ほえ~……!
す、すごいや……見れたりするのかな?
『巫女の巡礼に合わせて一般公開されるかと思われます。近くで見ることはできないでしょうが』
ほほう!それは楽しみだ!
「ヨーシ、行コウ!」
ここで見ていても仕方がない。
久しぶりの街だ!早く到着して……宿を取って休憩だ!
あんまり疲れてないけど、それでもベッドで寝たいんだ!
『むっくんも贅沢虫になって……ふふ、喜ばしいことです。その調子でこの世界を大いに謳歌してくださいね』
トモさんも嬉しそうで何よりです!
・・☆・・
「ナンジャコレ」
「いっぱい!ひと、いっぱーい!」
呆気にとられたボクの頭に登り、アカが嬉しそうに言った。
「じゃじゃじゃ……話には聞いでおりやんしたが、なんとはあ……」
ロロンもボクと同じ気持ちのようだった。
あれから小一時間歩くと、街道が広く、そして石畳になってきた。
それと同時くらいに今まで見なかった馬車や竜車、そして旅人や行商人っぽい人たちも急に増えた。
ボクらとは別の方向から来た人たちの道が、合流したんだ。
それで……ようやく街の入口にたどり着いた。
大きな、本当に大きな門が見える。
ガラッドの立派な城門よりも、もっと大きい。
それを起点にして……山というか竜のお墓?がぐるっと囲まれているんだ。
これ、作るのにどれくらいかかったんだろうな……
「コリャ、時間カカリソウダ」
ボクの視線の先。
まだまだ遠くに見える門には……ゴミ粒みたいな、人の行列。
それがずら~っと、並んでいる。
『どうやら巡礼に間に合ったようですね、見物人がこれほどいるとは……やはり、情報で知っていてもこうして実際に見ると違うものです』
トモさんもなにやら感慨深げだ。
「さ、こごで見ている場合ではねがんす!我らも行ぎやんしょ!」
「アッハイ」
フンス!と気合を入れるロロンに、慌ててついていくことにした。
しかしまあ……すごい行列だなあ。
街に近付くにつれ、ボクらの歩みは遅くなった。
それはそう、行列に合流したからね。
「アンタらは巡礼の見物かい?」
「ハイ、ソチラモ?」
ボクらの前にいる……ゆるい雰囲気をしたタヌキの獣人さんが振り返ってそう聞いてきた。
「俺ァ出稼ぎ帰りだよ、【ゾルトバ】で木こりしてたんだ」
『ラバンシの北にある街ですね』
トモさんの補足助かる。
木こりさんか……たしかに、顔は優しそうだけど体はムッキムキだねこの人。
背中に背負った大風呂敷は、家族へのお土産か何かだろうか?
「ソウデスカ……凄イ人デスネエ」
「初めて来たんなら驚いたろ?普段ならこれほどじゃねえんだがな……この時期だけはどうしても、なあ」
まいったね、って感じにタヌキさんは肩をすくめた。
「もうちょい早く帰るつもりだったんだがな、欲かいて働きすぎちまった。何事も程々が大事ってことだな、がははは!」
そう豪快に笑うタヌキさんに、ボクは質問することにした。
「地元ノ方ナラ、チョットオ聞キシタイコトガ……アノ、イイ宿屋ッテ知ッテマスカ?」
これだけの大行列なんだ、見た感じ町は無茶苦茶大きいけど……いや、大きいからこそ聞いておかねば!
ボク1人なら道端に転がってても構わないんだけど、女性陣がいるしね!
「……なるほど、かわいらしい嬢ちゃん連れてりゃソイツは気になるよなあ。この時期は外からも客がわんさか来るしよ」
タヌキさんはロロンに視線を向け、そう呟いた。
ちなみにアカはボクの懐でぬくぬくしている。
一応、用心のためにね。
今は人も多いし。
「じゃじゃじゃ!?」
カワイイ嬢ちゃん扱いされたロロンは、ちょっと振動している。
かわいいからね、仕方ないね。
「デスデス、宿代ガ高クテモイイノデ……安全トイウカ、シッカリシタ宿ヲ聞キタクテ」
そう言うと、タヌキさんはしばし考え込んだ。
「そうさなあ……【東街】にある【妖精のまどろみ亭】がいいやな。あすこはしっかりしてるし、宿にゃあ風呂もある。旅の疲れを癒すには最高だろう」
ほほう、妖精のまどろみ!
そいつはなんとも、いい名前だね!
それに、お風呂付っていうのも気に入った!
でも……
「【東街】デスカ?」
「おお、アンタらは初めてだからピンと来ねえか……あのよ、あの街は【封印の丘】を中心にして東西南北に4つの【街】っていう区画があんだよ。今俺たちが向かってるのが東門だから……門をくぐった先がそのまま【東街】だ」
大きい大きいとは思ってたけど、まさか街の中に4つの街があるとは……しかも、出入り口まで4つも!
本当にスケールが大きいね、この世界。
「【北】は封印術師たちの在所、【西】は大市場と職人街、そんで【南】はギルド街になってるぞ。アンタは旅人だし、強そうに見えるからな……北以外は色々行ってみるといい」
なんて親切なタヌキさんなのだ……
「アリガトウゴザイマス!」「ありがとうござりやんす!」
「はっは、いいってことよ。列待ちの暇つぶしついでさ……ガラハリを楽しんでくんな!巡礼以外にも見どころは沢山あっからよ!」
タヌキさんは少し恥ずかしそうに鼻をこすると、お腹をポンと叩くのだった。
に、似合う……そのポーズ!
月見てお腹ポコポコしてそう!
『地球を思い出しますか?』
記憶がないし!地球のタヌキさんは多分そんなことしないでしょ!
お話の中の話です!お話の!!
・・☆・・
「次……ほう、虫人か。トルゴーンから来たのか?」
タヌキさんと色々話しつつ、列は進んで……やっとこさ門前に着いた。
2,3時間は並んだと思う……
そして、門前には簡単なテントのようなものがあって……そこには、剣を腰に刺した兵隊さんが何人もいた。
今までの街よりも警備が厳重っぽいね……強そう!
「帝国からでやんす!」
「フムン、珍しいな。帝国の虫人とは……」
ケモ度40%くらいの女性兵士さん(たぶん犬系)は、ロロンの返事を聞いて手元のメモ帳みたいなものにカリカリと書きつけている。
「巡礼、見ニキマシタ」
「なるほどな……虫人1、アルマード1、それに……」
『アカ、ご挨拶』『あいっ』
マントの胸元から、アカが顔を出す。
さすがに入場の時まで隠しておくわけにはいかないしね。
「こにちわ、こにちわ~!」
「珍しいな、妖精じゃないか……攫ってきたわけではないな?」
一瞬、お姉さんの目線が鋭くなった。
「おやびん、もういい?もういーい?」「モウイイヨ~アヒャヒャ!」
が、お姉さんはスルスルとボクの頭に登ってきたアカを見て表情をほころばせた。
「それはなさそうだな……妖精1、と。入ってよろしい、が、中で面倒ごとは起こすんじゃないぞ」
「ハイ!」「あい~!」「んだなっす!」
ボクら3人の返事に、お姉さんの笑みはより深くなった。
「フフフ……【東街】の真っ直ぐ奥にある【妖精のまどろみ亭】に泊まるといい、歓迎してくれるぞ。それでは、よい滞在を」
おお!またその名前!
兵隊さんのお墨付きなら安心安全だね!
さっき入って行ったタヌキさんも言ってたけど、これでより一層安心感が深まった!
「おねーちゃ、ありあと~!」
「フフフ、どういたしまして」
ボクより背が高くって凛々しいお姉さんは、アカに向かって笑顔で手を振ってくれた。
妖精スマイルの効果は絶大だね……!!
「むわわ~!?」
「アアア!ロロン!?」
特に問題もなく街へ入ったんだけど、人が!無茶苦茶!多い!
通路も規模も今までに来た街よりも何倍も大きいけど、それがぎっしり埋まる程の人通りだ!?
現に今も、観光目的っぽい獣人さんの団体移動に巻き込まれたロロンが人波を流されていく。
ロロンはちっちゃいから……!!
「コッチコッチ……フンッ!!」「わわっ!?あわわわ!?」
流されつつあるロロンの腕を掴み、胴体を持って持ち上げる。
そしてそのまま、懐かしの肩車体勢へと移行した。
「コレデ良シ……ロロン、シッカリ捕マッテテネ」「ね~?」
肩車状態のロロンの頭に、アカが着地。
ふふふ……どうだこのトーテムポールは!
一番下はともかく、それ以外はカワイイから元ネタに勝ったね!!
『誰と、何の勝負なのですか……』
……トーテムポールの神様?
「お、おもさげながんすぅ……」
恥ずかしそうに兜に手を添えるロロンを確認し、まずは人ごみがまばらな方へと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます