第48話 雨は嫌だねえ……雨は。特に移動中はね!
「あめ、あーめ!」
「雨でやんすねえ」
「雨ダネエ」
テントの屋根に、大粒の雨がぼつぼつと音を立ててぶつかっている。
上に開いて軒先みたいになっている出入り口の先は、さらに多くの雨でもうカーテンでもかかったみたいな有様だ。
いやあ……たぶん真昼間だと思うんだけど、夕方みたいに暗いや。
「ヨク降ルネエ」
「んねぇ~?」
うつ伏せに寝転んだボクの頭に乗っているアカが、ぐでーっと体重を預けてきた。
「ワダスの里はこの時期日照り続きでやんす……場所が違うと、はあ……ほんに、空模様も変わりやんすなぁ」
寝ころんだボクの横に座り、なめした湿地蜥蜴の皮にチクチク針を通しているロロンが言った。
針仕事もできるなんて器用だねえ……なんでもできてすごいな、この子。
『ロロンさんの出身地は砂漠ですからね。一年を通して降水量は少ないでしょう』
あ、なるほどねえ。
砂漠、砂漠かあ……いつか見てみたいなあ。
遠くからね!横断とかはノウ!死んじゃうから!!
ドラウドさんと別れ、街を出発してから1週間。
ボクらは順調に歩き続け、もうそろそろ目的の【ガラハリ】の近くに来るかな~……ってところだったんだけど。
昨日、突如として土砂降りの雨が降ってきたんだよね。
出発してからずっと晴れてたから油断しちゃってた……
んで、慌てて街道の近くにあった丘の上に避難して……そこの大木の下にテントを張った。
場所が場所だけに水に浸かることは避けられたけど、あれから一歩も動けないんだ。
いや、無理やり出発すればまあ大丈夫なんだろうけどね……別にそんなに急いでるわけじゃないし。
それに、視界が悪い中で強い魔物や盗賊なんかに出くわすとちょっと大変だし。
あと、無駄に体が丈夫なボクや魔力で体調を維持しているアカと違って、ロロンが風邪でも引いたら困るもんね。
「湿気ガスゴイカラ、ロロンガモコモコダ」
「えうっ……!?」
ロロンの髪がとてもボリューミーになっている。
ハg……スキンヘッドというか兜のボクや、厳密に言えば頭髪じゃないアカには縁のない見た目だ。
「お、お見苦しがんすか!?」
「ウウン、フワフワデカワイイ。イッパイ髪アッテ羨マシイナア」
「はぁう?!」
ロロンのリアクションが大きい。
これひょっとして気にしてたのかな……悪いこと言ったかな。
『コマし虫……』
そ、そんなんじゃないやい!
かわいいものにかわいいって言って何が悪いのか!!
「ふわふわ!ふわふわーあ!」「じゃじゃじゃ!?」
ロロンの髪にダイブするアカ。
おお、全身が髪の中に!なんてボリュームだ!
ボクが妖精だったら是非やってみたいね……!
あ、いけない。
そろそろお湯が沸くんじゃないのかな。
丁度手が空いてるし見てこよっと。
「ドッコラショ」
体を起こし、入り口から出る。
大木のおかげで、体にかかる雨は小雨よりも少ない。
この世界、でっかい木が多いからこういう時に助かるねえ。
地球の環境活動家さんとかが見たら泣いて喜ぶと思う。
テントから少しだけ離れた場所まで行き、そこに組まれた竈を確認する。
前世のラーメン屋とかにありそうな寸胴鍋が乗っていて、中の水……いやお湯から湯気が出ていた。
「ヨシヨシ、イイ感ジ」
これは、現在ざんざか降り続いている雨水を溜めて沸かしたものだ。
用途は体を拭いたり、料理に使ったり、そして飲むために使う。
雨水はろ過や煮沸すれば地球でも問題なく使えたし、この世界は大気汚染なんかはまだ無縁だろうから沸かすだけでいいだろう。
いざとなればボクが毒見すればすむ事だし。
『水筒に詰めれば背嚢に入れておけますしね。むっくんやアカちゃんはともかく、獣人のロロンさんに飲用水は必須ですから』
そそそ。
それに、一々水を買ってたら結構お金かかるしね。
いくら魔法があるとは言っても、綺麗な水って結構お高いのだ。
あ~、水が出る魔法とかないかなあ。
もしくは魔法具。
『両方ありますね。魔法は【創水】というもので……さほど高度な魔法でもありませんよ、大気中の水分を凝縮するので、天候には左右されますが』
……それ、一番水が飲みたい乾いたカラッカラの環境とかだと厳しくない?
『はい、ですからこういう雨の時に水を作って溜めておくのがコツ……らしいですね』
なるほどお。
そうそう美味い話ってないものですなあ。
『ちなみに魔法具の方も同じような感じですね。行軍する兵士や冒険者などがよく使います』
便利だもんねえ。
いつか見かけて、お手頃価格だったら一つくらいは欲しいなあ。
緊急用とかに。
あ、お湯が沸騰してきた。
よーし、何らかの魔物の革で作った水筒に入れちゃうぞ~!
「アッヅイ!?!?」
『冷まさないからですよ、ふふ』
トモさんが楽しそうで何よりですよ!
は~……あっつい。
「はい、どんぞ」
「アリガト」
ロロンが木皿を渡してくれた。
そこには、湯気が立つスープがいっぱい入っている。
うーん、この深いお皿便利よねえ。
冷めにくいし、持っても熱くないしね。
「アカちゃんも、どんぞ~」
「わはーい!」
ちなみにアカ用は小さなお皿です。
スプーンはボクが隠形刃腕で頑張って作りました!
何回か木くずを量産し、指も刻んだけどね!
そのおかげで手先?も器用になったし……着々とおひいさまフィギュアも完成に近付きつつあるんだ!
顔は最後に作ると決めてるから、まだのっぺらぼうだけども。
いかんいかん、スープが冷めちゃう!
それではズズズ……
「ンマーイ!」「んま!んーま!」
ゴロゴロのお肉!しんなりした野菜!そして謎の香辛料!
出汁も美味しいし、これにかったいパンを浸して食べるともう……たまんない!
このお肉、オオムシクイドリだね!
在庫も尽きそうだし、大事に噛み締めようっと。
「ロロン、アリガタヤ~」「ありがたや~!」
ボクと、真似したアカが手を合わせる。
「へへへ……もったいながんすぅ……えへへ」
最近は褒められ慣れてきたらしいロロンは、丸まることなく顔を赤くして照れている。
手に持ったパンをバリバリと齧りながらね。
……獣人さんは歯が丈夫でいいなあ。
「ング……明日ハ晴レルカナア?」
スープを飲み切って呟くと、すぐさまお代わりが注がれる。
何という早業……ボクじゃなきゃ見逃しちゃうね。
「急ぐ旅ではながんすし、もうすぐ雨外套ば完成しやんす。ゆっくり行ぎやんしょ」
そうそう、あの蜥蜴くんの皮でカッパを作ってくれてるんだった。
ボクは濡れてもいいし、面積も大きいからって遠慮したんだけど……真っ先にボクのを作るんだ!って決めてるみたいなんだよね。
なんじゃろ、このいい子は。
アルマードの女の人ってみんなこうなのかな?
だとしたら、旦那さんは幸せだよねえ。
『砂漠は厳しい土地です。そこを生き抜くためには、なんでも自分たちでできるようにする必要があるのでしょうね……』
ふむん、なるほどねぇ。
大したもんだなあ、頭が下がるよ。
「アカ、雨ハ好キ?」
「むめももも……ももむ」
あ、ハムスターの化身みたいになってる。
聞くタイミング間違えた。
「んくん……あめ、しゅき!でもはれ、もっとしゅき!」
「ナルホド」
「おやびん、いちばんしゅき!しゅき!」
こら!お食事中に飛びつくんじゃないの!
あーもう!かわいいから全部許すけどね!ね!
「ナ、ナルホド」
でも、さすがに天候のランキングにまで食い込ませるのはやめてくれないか。
そのうち万物の上位ランクにボクがお邪魔しそうだよ。
背中が痒くなっちゃう。
「じゃじゃじゃ……ムーク様は好かれておりやんすねぇ」
「ロロンも!ロロンもしゅき!」
「むわわわ」
おっと、今度はロロンに飛びついた。
ちょっと驚いた顔をしたロロンも、すぐに顔をほころばせて頬と頬をくっつけて笑っている。
微笑ましいねえ、とっても。
「マルデ姉妹ミタイダネエ、仲良キ事ハ美シキ哉……」
体のスケールは全然違うけど、それを差し引いてもね。
やっぱり一緒に旅する仲間だもん、空気がいいのはいいことだ!
ギスギスしながら過ごすのなんて……考えただけでも切なくなるもんね。
キャッキャしている2人を見ながら、ボクはお代わりのスープを啜るのだった。
うーん、美味しい!
『女性陣をオカズにスープを……』
そんなんじゃないやい!!
とても!人聞きが!悪い!!
・・☆・・
「すう……うにゃむ……おやびぃん……えへぇ……」
今日の寝床はボクの胸と決めたのか、体に布を巻き付けて巻き寿司みたいになったアカが眠っている。
いい夢でも見てるんだろうね、嬉しそうな声がよく漏れてくる。
ちょっとしたカイロくらいあったかいや。
「ロロン、モウ寝タラ?」
「眠れませんか?おもさげながんす……」
天井で光玉が小さめの明かりを灯していて、それを頼りにロロンが針仕事をしている。
「違ウ違ウ、疲レルデショ。寝不足ハ体ニ悪インダヨ?」
「じゃじゃじゃ、この程度はなんともねがんす。もう少しでやんすから、お先にお休みなっせ」
まるで夜なべをするお母さんみたいな顔で、ロロンはふわりと笑うのだった。
ううむ……母性を感じる、とても。
ロロンはいっつも頑張ってるからなあ……おやびんとしてはねぎらってあげたいなあ。
「ワカッタヨ、デモ無理シチャ駄目ダヨ?ソレジャ、オヤスミナサイ……」
「はい、お休みなっせ」
急に眠気が来たので、ボクは目を閉じることにした。
このボディ、実質生後一年未満だから寝つきがよくって困らないけど困るなあ……スヤリ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます