第47話 別れは次の出会いへの出発点……昔の人はいいこと言うねえ。

「じゃあ、俺っちはここまでだ。アンタらにゃ余計な心配だろうがな……体に気を付けるんだぜ?」


「ハイ、オ世話ニナリマシタ!」「ありあと~!」


 ラバンシやガラッドに比べると、ずうっとこじんまりとした街……いや、村。

【ラバーバ】というそこで、ボクら3人はドラウドさんを見送っている。


 急な通り雨に遭遇したり、美味しくない魔物に襲撃されたりしているうちにここへ到着した。

結局、湿地蜥蜴くんは二度と出てきませんでした……ぐすん。

お肉、大事に食べよう……

 

 で、今は一泊した後ってわーけ。

仕入れを終えたドラウドさんは、これからラバンシへ帰る所だ。


「こっちに来ることがあったら必ず顔を出せよな。俺っちがいなくっても宿に泊まれるように、話はつけとくからよ」


「何がら何まで、ありがとうござりやんす!」


 ロロンのお礼に恥ずかしそうに手を振り、ドラウドさんは手綱を引く。


「へっへへ……いいってことよ!それから、何か困ったら町々の商会に顔出しなァ!そっちの話も通しておくからよォ」


 うひゃあ……本当に何から何まで申し訳ない!

なんて……なんていい人なんだ!

護衛の代金も『この先何かといるだろ』なんて言いながら1500ガルももらっちゃったし!

湿地蜥蜴の革も一匹分くれたし!!


「ギャウ、ギャルゥ!」「さいなら~!またね、またねぇ?」


 アカは走竜ちゃんの顔に抱き着き、べろんべろんと舐められている。

キミたち本当に仲良くなったよね……


「じゃあな!生肉と生水にゃあくれぐれも気を付けるんだぜ~!」


 竜車が方向を変え、街から出るルートへ。


「ハーイ!サヨウナラ~!」


 ボクらは、竜車が見えなくなるまで手を振り続けた。

……いい人だったなあ、ドラウドさん。

これからもあんないい人に巡り合えるといいね。


 異世界、意外と優しい人が多い。

その事実に、ボクはとっても嬉しくなるのだった。


『魔物的な意味では厳しいですが』


 それは!そう!!

本当に!そう!!



・・☆・・



「サテ、グッスリ寝テ明日ニ備エヨウカ」


「あ~い」


 ドラウドさんを見送った後、宿のお部屋で早目の夕食をとった。

【憩いの太陽亭】という名前のこじんまりした宿屋である。

まあ、街の規模が小さいから仕方ないんだけど……どうしても前に泊まった宿屋と比べちゃうよね。

お部屋も掃除されてるけど、結構狭いし……ベッドも硬い。


『あらまあ、むっくんも贅沢虫になりましたね』


 贅沢虫!?

いやいやいや……雨露が凌げるだけで十分なんですよ?

今までが恵まれ過ぎていたんだって、そこは承知しております!


『ふふ。はい、よろしい……です』


 最近トモさんが結構砕けてきたような気がする!

ちょっとは仲良くなれたみたいで、ボクとしてはとっても嬉しい!


『夕暮れ時でも女神を口説くのはちょっと……』


 だから口説いてないやい!

恐れ多すぎるんですわ!?


「おやびん、おやび~ん……」


 肩に乗ったアカが頬をつついてきた。

ほほう、また拗ねて……ない!なんか悲しそうな顔しとる!!

……あ~、ドラウドさんたちと別れたからかな、これは。

寂しいんだろうねえ。


「オヤビンハ、イッツモ一緒ダカラネ~。アカガ嫌ッテ言ウマデ一緒ダカラネ~」


 思う存分頭を撫でてあげる。

よーしよし、よーしよしよし!

前世の動物キングさんも真っ青なくらいよーしよしよし!!


「えへへぇ……アカ、おやびんとずうっといっしょ!えへへぇ!」


 おっと、一瞬で機嫌が直ったぞ。

いい子だねえ……摩擦熱で発火するくらい撫でちゃろ!!


「イイコ、イイコ」


「あははぁ!あはは!あははは~!」


 キャッキャッしていると扉が開いた。


「じゃじゃじゃ……お2人はいづも仲がよろしくて、微笑ましがんす~♪」


 夕食後、別室で体を拭いていたロロンだ。

サッパリした顔をしている。

……ここ、お風呂も公衆浴場もないんだよねえ。

生身?のロロンには辛かろうなあ。


「ロロンも!ロロンも~!」「じゃじゃじゃ!?」


 テンションの上がったアカがロロンに飛びつき、手を引いてこちらへ連れてきた。


「ロロンもいいこ!いいこぉ!」


 そしてずい、と差し出される頭。

……よかろう、任せておきたまえ。


「イイコイイコ、無茶苦茶イイコ」


「はひゃああっ!?ま、まだ濡れておりやんすぅ!?」


 ちょっと湿ってるけど、ロロンの頭は暖かかった。

うんうん、我がパーティはいい子しかいないなあ。


 しばらく和気あいあいとした後、ボクらは3人並んで就寝した。

明日はここを出発するから、しっかり寝溜めしておくんだ~……


『寝溜めというのはできませんよ。毎日しっかりと睡眠を取るのです、むっくん』


 ……そうなん!?



・・☆・・



「イイ天気!」「てんき!てんきぃ!」


 一夜明けて、翌日。

空はカラッと快晴。

雲一つない青空だ。


「この時期の空模様は変わりやすいでがんす。気を付けて行ぎやんしょ」


 うん、そうしよう。

それでは……特に見るところもなかったラバーハに別れを告げよう!

いや、ここ無茶苦茶小規模だし。

ドラウドさんの仕入れてた、トウモロコシの化け物みたいな野菜の畑しかないし。

ちなみに薬の材料になるらしく、食べても全然美味しくないどころかお腹壊すんだって。

……本当に商人さんたちが寄るだけの街って感じだった。


「デハ、出発」「しゅっぱ~つ!」


 申し訳程度の門を出て、ボクらは再び街道へ出るのだった。

……規模も小さければ防壁も小さいぞ、ここ。

こんなんで魔物の襲撃とかあったらどうするんだろ……



「ソウイエバ、首ノ街ッテ何テ名前ダッケ」


 朝に出発し、若干ぬかるんだ街道を歩くことしばらく。

お日様が頭上に登った頃、ロロンに聞いた。

なんかド忘れしちゃった。

トモさんに聞けばいいんだけど、仲間とも会話しないとねえ。


「【ガラハリ】でやんす。【鎮めの街ガラハリ】とも呼ばれておりやんすね」


「ホムホム」


 ほう、なるほど。

鎮めってのは……首が封印してあるからか。

ハハハ、そんな言い方だとまだ首が生きてるみたいだね。


『生きていますが?』


 なんて!?

今なんて言いましたトモさん!?


『首はまだ生きていますよ、むっくん』


 え、だってあのお話って無茶苦茶昔でっしゃろ?

マージで!?


『まーじ、です。この西国中に散らばる12の【鎮めの街】……その全てで、現在も封印された首は魔力の胎動を続けています』


 く、首だけになって何千年も生きてるなんて……その異世界ドラゴンってとんでもない生命力なんだね。


『そもそも、巫女の巡礼というものは首の封印を確認・修復するために行われているのです。途方もない数の封印魔法を重ね掛けされても、まだ首は滅んでいないのです』


……でも、ボクが首なら嫌だなあ。

身動きできないままずうっと土の中なんてさあ。

いっそ一思いに……!とか懇願しちゃうね、ボクなら。


『生きとし生けるすべてのものを破壊し、捕食すると言われている邪竜です。そこまで潔くはないでしょうね』


 こわいなあ……っていうかその街に住んでいる人すごいね?

いつ爆発するかわかんない爆弾の上に家建ててるようなもんじゃん?


『元々、首の封印を維持するために術者が住み始めたのですよ。出発点が違います……現在もほとんどの住人が封印関係者ですよ?』


 あ、そういう由来なんだ。


『残りは観光客相手の商売人ですね。ちなみにこれも当初からそうです』


 こ、古代から商魂たくましい!!

商人さんってすごいなあ……!!

見習わ……なくてもいいか、ボク商人虫じゃないし。


「……楽シミダナア、早ク見タイネェ」


「間違いなぐ、ラーガリの南では一等大きい街でがんす!ワダスも楽しみでやんす!」


「アカも!アカも~!」


 道はぬかるんでるけど、ボクの心は弾む。

こんな風に仲良く旅ができるのっていいなあ、体にも心にもいいね!とっても!!


『ハイ油断しない!前方、街道脇の草むらから魔力反応!向かって右!』


 ――速射衝撃波を喰らえっ!!


「ギエピー!?!?!?」


 衝撃波を打ち込んだ草むらから、名状しがたい悲鳴。

なに、今の珍妙なの……?


「じゃじゃじゃ!今の悲鳴は……!!」


 ロロンが槍を構え、急いで走り出した。

え、ちょっと待って。

ボクなんか撃っちゃ駄目なモノとか撃っちゃった!?


「――どっせい!!」


 草むらに突撃したロロンが、その何かにトドメを刺したようだ。

あ、じゃあ撃ってもいい相手だったんだ……


『私がそんな指示をするとでも?』


 誠に申し訳ありません……


「ナンダロネ」「ね~?」


 アカと相談していると、草むらから喜色満面のロロンが戻ってきた。


「ムーク様ァ~!」


 その手に持たれてるのは……首を落とされて、ドバドバ血を出しているでっかい鳥!

地球の七面鳥みたいだけど、むっちゃ大きいな!

全身が紫色だけど!


「草原アホウドリでやんす~!今日はご馳走でやんすよ~!!」


 何ィ!?

あの美味しかった鳥なの!?

とても美味しそうな見た目じゃないけど!!


「ワーイ!」「わはーい!!」


 とりあえずアカとハイタッチした!

いいねいいね!ご馳走いいね!

ボク、ご馳走大好き!!

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