第45話 出発!目的地は首の街!……この言い方やめとこ。

「ムークのおじちゃ!またね!またきてね~!」「アカちゃん、またね~!」「ロロンちゃーん!気を付けるのよ~!」


「さいなら!さいなら~!」「オ世話ニナリマシタ~!」「お世話になりやんしたぁ~!」


 宿屋の前に勢ぞろいした皆さんに手を振られ、見送られた。

別れはちょっと寂しいけど……永遠に会えないってわけじゃないしね!


「すまねえなあ、ガラハリまでじゃなくってよ」


 ボクは、ドラウドさんの竜車の御者席に座っている。

アカたちは荷台だ。


「イエイエ、途中マデデモ有難イデス」


 ゆっくりと竜車が動き、宿がだんだん見えなくなった。

うん、また絶対に来よう!

ボクはもう一度大きく手を振った。



・・☆・・



 4日前にタルコフさんから聞いた巫女さんの巡礼を見るために、ボクらはラバンシを出発することにした。

宿も街も満喫できたし、リビングメイル戦の疲れも取れたからね!

でも洞窟はしばらくいいや!


 目的地の【ガラハリ】までは馬車で2週間ほどの距離だそうだ。

歩きならほぼ1ヶ月だけど、ラバンシの隣にある小さな街まではドラウドさんの馬車に乗っけてもらうことになった。

なんでも、帝国に行商に持っていくものを仕入れに行くらしい。

それで、護衛として同乗させてもらうことになったんだ。


「こっからは魔物もちょいちょい出るからな、頼むぜムークさんよ」


「ハイ。頑張リマス」


 赤錆さんたちが掃除した区間は過ぎた。

これからは、あんなにのんびりとはいかないだろうねえ。


「みはる!みはるぅ~!」


 アカは荷台の屋根に上って、さながらなんちゃって偵察兵だ。 

ラバンシを出るなりすぐに陣取ったからね……頼もしいや。

そういえばアカって日焼けするのかな?


「腕が鳴りやんす……!」


 荷台のロロンも骨槍を磨きながら、やる気満々って感じだ。

こりゃあ、ボクも負けてられないね。


「エンシェント・コボルトを転がしちまうような護衛が付いてんだ!楽な道行になりそうだぜ、なあ?」

 

「ギャッ!ギャッ!」


 ドラウドさんの声に、元気に相槌を打つ走竜ちゃん。

ふふふ……その信頼にはキチンと答えましょう!

でも!厳密に言えばボクらだけの力じゃないからね!アレは!!



・・☆・・



「ギイイイイイイッ!!」


 走りかかってくるゴブリンが、粗末な斧を振り上げた。

木は無理でも、人間ならザクっといけそうなそれを――棍棒で受け止める!


「ギャガ!?」


 新たな相棒である黒棍棒は、一瞬も拮抗することもなく斧を破壊。

――隙ありッ!!

手応えに驚愕しているゴブリンの腹にヤクザキック!


「ヌンッ――!!」


 たたらを踏んだゴブリンに向けて――棍棒フルスイング!!

お、おお!?なんか……棍棒が勝手に加速したァ!?


「ギャボ!?」


 明らかに謎の加速をした棍棒がゴブリンの腹にめり込み――内臓を破壊して背骨をへし折った。

そして、そのまま吹き飛ばす!

空中で絶命したっぽいゴブリンは、それに逆らわずボロキレみたいに飛んでいった。

ど、どういうこと!?

ああでも、今考えてる暇はない!


「ギギャ!?ギャッ!ギャーッ!!」


 やべえ!逃げるぞ!みたいな感じに遠くで叫ぶゴブリン。

見た感じリーダーっぽいね!

だけど――


「――スヴァーハッ!!」


 視認できないほどの速度で放たれた岩の塊が、その頭を潰す。

そのリーダーは立ったまま、首だけがなくなった。

おおお……グロい!


「いっ……けぇえ!」


 ぱぱぱしゅ、とカワイイ音。

でも、全然かわいくない威力を誇るアカの思念ミサイル。

それが、逃げようと背を向けたゴブリンたちの後頭部に続々と突き刺さった。

……マルチロックとはやりおる!


『ふむ、今ので周辺の魔物は全滅です。問題ありませんでしたね』


 ハーッハッハッハ!謎虫パーティ、絶好調!!


『むっくん?』


 はい!油断しませぇん!!

ボクは気を抜くとすぐ油断するな!ウカツ!!


「耳を削ぎやんす~!」


 聞き方によっては猟奇的な発言をしつつ、ナイフを持って飛び出すロロン。

頼りになり過ぎる……


 ……で、トモさん。

さっきの棍棒くんの挙動、見てたよね?


『はい、確認していましたよ。あの瞬間、その棍棒は確かにむっくんの力以外で加速しました』


 だよね!?だよね!?

振りの途中くらいから明らかに加速したもん!

それに見た!?あの威力!

棍棒の軽さと釣り合ってなかったし!


『むっくん、お忘れですか。その棍棒に刻んである言葉を』


 あ。

【全ての慈悲なきものに死を】!!

じゃあアレって……棍棒くん的にはゴブリンはギルティ判定なんだ!?


『そしてですね、それ以外に……その棍棒、むっくんが振る時には軽いですが明らかにインパクト時に重くなっていましたよ?』


 え、そうなん?

それは気付かなかったなあ、加速に意識を持ってかれてた。

つまりアレね?

この棍棒くんは敵に激突する時に重くもなるってこと?


『加速時に獲得したエネルギーを重さに変換したようですね。相変わらず私には魔力を探知できませんでしたが……どうやら、我々が考えるよりもその棍棒は貴重なようです』


 なんという素敵なドロップアイテムだろうか……

殉職した骨棍棒くんの代わりのつもりだったけど、これはなかなかどうしていい拾いものだったと言うべきだね。

で、やっぱり呪いとかは大丈夫なんですか?


『呪いとは、魔法です。ヒトの心身に強い影響を及ぼすほどの呪いともなれば、気付かないほどの魔力ということはありえません……そこに関しては、心配ないかと』


 ふむ……それなら大丈夫、かな?


『他の部分に書かれている文字にヒントがあるのかもしれませんが、現状解読は不可能ですね』


 そう、この黒棍棒。

例の文言以外はまた別の言語で書かれていて、それはトモさんにも解読できないのだという。

何らかの古代文字だとは推測されるんだけど、それ以上のことはわかんないんだって。

開示されているトモさんの知識では。

こればっかりはボクがレベルアップしないとねえ……トモさんの情報には色々制限がかかってるみたいだし。


『ですね。それと、何も私にすべて頼らずとも研究者を頼ってもいいかもしれません』


 あ、たしかに。


『もっとも、この国では望むべくもありませんが……その、獣人の皆様はいわば脳筋気質ですので』


 ああ、うん……今までの経験からなんとなくそんな気はしてた。

じゃあトルゴーンにいるかな、研究者さん。


『この国よりかは希望が持てますが……ルドマリンの方が確実かと』


 ほほう、人魚さんの国ってそうなん?


『いえ、ルドマリンの北に【ルキスーク】という国がありまして。そこは魔法研究が盛んな所なのですよ、北方の【ジェマ】の方は歴史的な研究が盛んですので、そちらも期待できますがいかんせん遠いですね』


 にゃるほろ……つまり現状ではどうにもならんということですな!

それなら、今はいいや。

というかどうにもできない。

呪い発症でボクが即死しないんなら別にいいや……今は。


『そうですね、今はそれしかありません』


 強くて便利な武器ってことでいいね、じゃあ!

さて、すっきりしたところでボクもゴブリンイヤーを……


「ムーク様、どんぞ!」「どぞ~!」


 ロロンとアカが全部やってくれてる!!

あるかどうかわかんないおやびんの威厳が!威厳が地に落ちたァ!!



・・☆・・



「やっぱり護衛がいっと楽でいいぜ。思ってたよりも進みがいいやな!」


 周囲はすっかり夜。

街道脇の空き地で、ドラウドさんは上機嫌に煙草をふかしている。


「あーん!あーん!」「ギャルルゥ……」


 アカは走竜ちゃんに干し草を与え、ロロンは火にかけた鍋をかき混ぜている。

ムム!今味見したけど……その顔が美味しさを表している!

お夕飯は期待できそうだ!別に心配してないけども!


「街マデ、ドノクライデス?」


「この分ならまあ、3日だろうなぁ。いや、5日か」


 なんか急に2日増えたね?


「湿っぽい気配がしやがる、明日から降るかもしんねえ」


 すんすん、と嗅ぐドラウドさん。

さすが獣人さん……そんな臭いもわかるんだ!


「ムークさんよ、スマンが手伝ってくんな。今のうちに荷台の幕にかぶせちまおう」


「ハイ、アノ緑ノデスネ」


 荷台に畳んであったんだよね。

地球のビニールシートみたいなのが。


「おう、湿地蜥蜴って魔物の革をなめしたモンだ。水をよく弾くぜ」


「ホヘ~」


 科学が発展してないけど、魔物素材は地球よりも多種多様だよねえ。

魔法もあるし、そこら辺の理由で進歩しないのかな、たぶん。

異世界ってすごいな~。


「どっこい……せ。ほい、そっちを頼むな」


「ハイハイ」


 荷台から出したシートを広げ、骨組みに乗せる。

その状態で紐を渡し、荷台へ縛り付けて固定……っと。


「今回はいいんだがよ、湿気が大敵な荷物の時は使えねえんだよなあ」


「ア、ソウナンデスカ」


 湿気がこもるんだね……良し悪しだなあ。

商人さんも大変だね、地球よりもよっぽど。


「よし……と。明日は降る前に出発してえから、今晩は飯食ってとっとと寝ちまおう」


「ハイ」


 転生してから規則正しい生活だなあ。

基本的に夜更かしとかしないもんね、現状。

遅くまで起きてやることもないし。


「スープができやんした~!」


 ロロンの声に、ドラウドさんのお腹がぐうと鳴った。 

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