第44話 厳密にいえば違うけど、同族さんに会えるかも?
「ドラウド、あれ聞いたか?」
「どれだよ、俺っちは賢者様じゃねえよ」
ラーヤたちと別れた翌日、ボクらは朝食に舌鼓を打っていた。
昨日はどうなることかと思ったんだけど、ロロンのポッコリお腹は一晩寝るとぺったんこになっていた。
今も大喜びでジャム的なものを塗ったパンを頬張っている。
甘さは控えめだけど、それでも甘酸っぱくて美味しいなぁ。
「おいし!おいし!」「んめめなぁ~……」
アカはいつも通りだけど、ロロンもすごいね。
昨日無茶苦茶食べただろうに、胸やけした様子もない。
……コレが女体の神秘というやつかなあ?
『違うと思いますよ』
ですよね~?
で、香ばしく焼けたパンを齧ってるんだけど……隣のテーブルではドラウドさんが誰かと話し込んでいる。
3カ月もの間行商に出ていただけあって、しばらくは近場で働きつつノンビリするんだって。
うんうん、奥さんも子供たちも喜ぶだろうね。
ドラウドさん、いつ見ても子供たちの誰かしらにくっ付かれてるし。
家族仲がよくていいことだねえ。
「【ガラハリ】に巡礼者が来てるって話だよ、聞いてねえのか?」
前世の関西地方で絶大な人気を誇っていた球団のマスコットみたいな外見の……虎の獣人さんはそう言った。
バット持ってユニフォーム着たら、すぐさまあの応援歌が流れ出しそうな雰囲気だね……
この話しぶりから察するに、ご同僚の方なのかしら?
「あー……そういや、もうそんな時期だっけか。月日の過ぎるのは早ぇなあ」
「違いねえ、この歳になるとより一層そう感じるよなあ……」
虎の人が苦笑いしつつ、ケマをぐいっと煽った。
光陰矢の如しにして、行き交う人はみな旅人なりってやーつ?
『合体させないでください』
え?そうなん?
じゃあ本当はどんなのだったかな……
「しかし巡礼者ね……おい、ムークさんよ」
「ハヘ?」
ドラウドさんがこちらを振り向いた。
何故急にボクに話を振るんです?
「――アンタの同族、近くまで来てるってよ」
「……ドウ、ゾク?」
同族って……人間さん?
それなら鑑定士さんは見たことあるけども……?
あ、この国じゃ珍しいか。
『あら、むっくんは素敵なむしんちゅでしょう?』
そうでした!!
っていうかトモさん、今のむしんちゅ呼びカワイイね!
ボクが言ってもアレだけど、トモさんの声は綺麗だから映える!
『ふむ、朝から女神を口説くとは……むっくんも成長しましたね?』
そういうのじゃないから!!
そんな恐れ多い……異世界のドンファン虫じゃないんだからさあ。
「おうよ、恒例の……巫女様の巡礼だぜ?」
……みこさまのじゅんれい?
駄目だ、何一つわかんないや。
「アー……ボク、孤児ナモンデ。ソウイウノ、ヨクワカンナインデスヨ……物心ツイタ時カラ、森ニイマシタノデ」
厳密にはまだ生後一年なんだけども。
説明が難しいというかまず説明できないので、これからもこの設定で行くしかない。
トルゴーン出身です!とか言っても、国のことを何一つ知らないんだから一瞬で嘘がバレるし。
「なに!? そうだったんか……その、すまねえな?嫌な事思い出させちまったか?」
ドラウドさんのモフモフフェイスが、悲しそうにちょっと歪んだ。
優しい人が多いねえ、この国。
「イエイエ、生キテリャ大丈夫デスヨ」
「達観してんなあ……」
そうとしか言えないもんね!
「デ、巫女?サマッテイウノハ……?」
「おお、その話だったな。まず巫女ってのは――」
煙草に火をつけ、ドラウドさんは口を開いた。
「……駄目だ、よくよく考えたら俺ァ説明が苦手なんだった」
椅子から転がり落ちるところだった。
朝からやりおるね、ドラウドさん……!
『なんの戦慄なんですか、それは……』
「おいタルコフ、お前こういうの得意だろ?ムークさんに説明してやってくんな」
「お前……まあ、いいけどよ」
まさかのキラーパスに、虎の獣人……タルコフさんが苦笑いして懐から葉巻を取り出した。
お、異世界葉巻だ!始めて見た!
「ムークさん……だったか?やるかい?」
「ア、種族的ナアレデ……喫イ慣レテナイモンデ」
これも長い目で見れば毒みたいなもんだしねえ。
『あら、彼らの喫っているものは地球の煙草とは別ですよ。香草を混ぜたまあ……気分が高揚する不思議な煙を喫うのです』
……地球だとイリーガルなんじゃない?それ。
『地球にはない香草なのでご安心を。依存性や人体への悪影響はありません……もっとも、人族の国では普通の煙草も流通していますがね。獣人にとって通常の煙草は劇物ですから、まず喫いませんよ』
あ~、そういえば犬猫みたいなものだもんね。
じゃあ、この国の煙草は体にいいんだ……もうちょっと大人になったら試してみよ。
「そうかい、ええと……巫女の巡礼についてだったな? そもそもだな――」
そうしてタルコフさんは、昔話のようなモノを話し始めた。
・・☆・・
むかしむかし。
今は小国家が乱立しているこの場所には、大きな1つの国があった。
名を【ヴァグン】といったその国に、ある日【空と大地の狭間】が開いたという。
空間を裂いて現れたのは、この世界のモノとは似ても似つかない……異形の【龍】とその配下と思しき魔物たちであった。
山の上に山を重ねたほどに大きく、そして12の異なる首を持った異形の龍。
その龍は一切の意思疎通ができず……目につくもの全てを破壊し、殺戮し、貪り食った。
多くの民が死に、多くの兵が死に、多くの命が無残に散った。
――そこに、1人の虫人が現われた。
ただ【巫女】とだけ呼ばれた彼女は、混迷を極めた渦中で英雄たる仲間を集め、彼らを導いた。
巫女の導きによって、嘆くばかりだった国に希望が生まれ始めた。
類まれなる魔法の使い手だった巫女は、傷付いた民を癒し、魔物を葬った。
彼女に導かれた数多の英傑たちも、己が命を顧みることもなく戦った。
――長い、長い戦いだった。
英傑たちは1人、また1人と櫛の歯が欠けるようにその命を散らし。
膨大な数の魔物を、道連れに葬っていった。
その過程で、12あった龍の首も1つ、また1つと斬り落とされた。
そして、最後に残ったのは……巫女と、1人の男だったという。
【聖剣の振るい手】または【巫女の剣士】と呼ばれたその男は、仲間たちの犠牲の上に……ついに残った最後の首へと相対した。
大地は避け、雲は割れ、雷鳴が天地に響いた。
三日三晩に渡る激戦の果て。
彼は、満身創痍の体で聖剣【夜明けを呼ぶもの】を振り上げ――遂に龍の首を斬り落とした。
だが、精魂尽き果てた男もまた、倒れた。
巫女の腕の中で微笑みながら男は死に、彼女は大いに嘆き悲しんだという。
そして、切り落とされてなお魔力を放ち続ける龍の首は大地へ封印されることになった。
決して復活せぬように、当時の国土の隅々に分かれて。
その封印は、今もなおその場にある。
戦いが終わった後もなお、巫女は生涯をかけて国中を放浪した。
戦禍に泣く民を救い、道を作り、様々な知恵を授けた。
そして穏やかな死を迎えた後、剣士の眠る墓に葬られたのだという。
・・☆・・
「っとまあ、こういうワケだ」
「オオ~……!」
タルコフさんの語り、むっちゃ上手……臨場感がすごかった!
しかし、この広い広い西の国が1つの国だったなんて……スケールが大きすぎるね!!
あと、ドラゴンでかすぎ問題。
なんですか山に山を重ねたって。
逆にイメージが湧きにくい!
まあでも、神話?ってそういうもんだからね……実際はそんなに大きくなかったんだろうけど。
『現在の首が封印されている箇所で測定した結果、おおむねその通りだとわかっていますよ』
そんなに大きかった!?
こ、怖い……異世界怖い……
「それでな?今回の巡礼ってのは……その巫女の弟子の子孫って連中が国々を巡礼するんだよ」
「弟子、デスカ?」
巫女さん本人の子孫じゃないの?
「巫女は剣士の婚約者だったんだってよ。だから、本人は死ぬまで独身だったって話だぜ……泣かせるじゃねえか」
感動屋さんなのか、タルコフさんの目は潤んでいる。
そっか、恋人さんだったのね……だから一緒のお墓に……ビターエンドだなあ。
「ソレデ、今度巡礼ガ来ルッテ事ナンデスカ」
「おう、一度は見といたほうがいいぜ。そんなに大勢ってワケでもねえが、荘厳っちゅうかなんちゅうかな……」
へえ~……それは確かに見てみたい!
でも巫女さん役の人、全国回るの大変だねえ。
『子孫の方々は沢山いますからね、分業制です』
あ、そっか。
じゃあこの国担当の人~!とかが来るのか。
1人だけだったら巡礼だけで過労死しちゃうもんねえ。
「アノ、ソレデ【ガラハリ】ッテイウ街ハ……」
「ここからトルゴーンに向かって、次にある大きな街でやんす!」
うわビックリした!?
ロロン、いきなり脇から出てこないでよ……あ、パンくず付いてる。
拭いてあげよう。
「キレイキレイ……」「むひゃむわわわ!?」
そしてロロンの肩に乗ってるアカさん?
キミに至っては顔中パンくずまみれじゃないか。
顔で食べたの?まったくもう……
「キレイキレイ……」「めむむむ……あはは!あははぁ!」
一気に賑やかになって来たね。
「ムークさんたちはトルゴーンに行くんだろ?ついでに見てっちゃどうだい?」
話終わってケマを煽るタルコフさんの横で、ドラウドさんはそう言った。
ふむ……いいね!
ボクもボク以外のむしんちゅ見るの初めてだし!
旅の目的があるのっていいよね!
「2人トモ、行ッテモイイカナ?」
でもボクらはチーム。
いくら名目上親分だからって、独断で決めちゃ駄目だもんね~。
「いくー!おやびんといっしょ、いっしょ!」
アカはビターン!と兜に抱き着き。
「元より向かう方角は一緒でがんす!問題ねがんす!」
ロロンはフンス!と胸を張った。
いい子たちだぁ……!
よーし!目的地が決まったね!
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