第43話 望外の報酬と、望外の夕食……最高!!


「……ドウシヨ、コレ」


 ラーヤたちと別れ、ボクらは昼過ぎに何事もなくラバンシに帰還した。

まず冒険者ギルドに寄って依頼を完了し、公衆浴場で泥と埃を流した。


 ちなみに草原狼の毛皮は100ガル、モモロ草は200ガル、そして……ゴブリンの耳は500ガルになった。

ラーヤにもらった耳はむっちゃ多かったので、これでも半分以下にしたんだけど……

それでも数が無茶苦茶多くて、カウンターのオジサンに『どこにこれほどの数が!?』ってビックリされちゃった。

なので、群れ同士の抗争?戦争?みたいなのでいっぱい死んでました~!っていう報告をしておいた。

合わせて場所も(だいたい)知らせておいたので、信用はされたみたい。

そうだよね、街の近くにこれだけいたらパニックになるもんね……ラーヤ、どこまで狩りに行ってたのさ。

別の街に行った時にコッソリ出そうかな。

それか、もったいないけどいっそ埋めちゃうか。


 で。

お湯でサッパリして宿まで帰って来たんだけど……


 ボクらは、部屋で頭を抱えている。

正確には、ボクとロロンだけど。

アカは……


「きらきら!きらきらぁ!」


 『宝石』を光りに透かして無邪気に喜んでいる。

そう、『宝石』だ。


 ラーヤが言っていた『報酬』……それは、両手に乗せても余るような量の、綺麗な宝石の数々だった。

形は不ぞろいだけど、原石ってかんじ!


ほ、報酬が……!

報酬が!多すぎる!!


『妖精はほぼ経済活動をしませんからね……貨幣価値がいまいちわかっていなかったのでしょうが……これは大盤振る舞いですね』


 ラーヤ……いったい何者なんだ!!


「ま、まままままあ、ば、場所は取らねししししし、どごでも、捌けまっすすすすす!」


 ロロンがバグった!?

削岩機の親戚くらい震えてる!?

お、落ち着いてウワーッ!?振動がボクにも伝染した!!


『落ち着きなさい。何も一度に売らないといけない訳でもないでしょう……現金の持ち合わせもありますし、ポーチにさえ入れておけばいいでしょうに。まったく、小心者の虫ですね?』


 大体の人間はこれ見たらこうなると思うよ!!

前世が大富豪でもない限りさァ!!


「……シマットウカ、コノ先何ガアルカモワカンナイシ」


「ん、んだなっす……」


 食べるのに困ったり、何か急に大金が必要になった時に使おう……そうしよう。


『アカ、この石はとっても大事にしておこうね。ラーヤがくれたんだし』


『あいっ!だいじ、だいじ!』


 アカにとっては宝石もただの綺麗な石らしい。

特に執着することもなく手放し、ボクの肩に登ってきた。


「きらきらより、リンゴ、しゅき!」


「ハー……イイ子イイ子」


 撫でておこう。

撫でまくっておこう、いい子なので。


「うへぇへ、んへへぇ……これ、いちばんしゅきぃ!」


 世界一のカワイイ子分だよ……この子は……

癒されるわあ~……



「おじちゃ!ムークのおじちゃ!」


 どんどんどん、とノックの音がして目が覚めた。

ンンム……あ、そうか。

宝石の後、なんか疲れて寝ちゃったんだ。

ふわぁ……おお、夕焼け。

もう夕方かあ。


「ハイハイ……」


 毛布に包まって寝ているアカを起こさないようにベッドから下り、ドアへ。

ロロンはいないね……もう起きて洗濯にでも行ったんだろうか。


「ナンデショ」


 ドアを開けると……毛玉、じゃない。

ここの娘さん、ルーニちゃんがいた。

……たぶん!!

ドラウドさんの子供って、小さい子はみんなこの感じだから見分けがつかない!


「おゆーはん!じゅんびできましたぁ!」


「ハーイ、アリガトネ」


 頭を撫でると、ルーニちゃん(推定)は嬉しそうに笑った。

偉いねえ、こんなに小さいのにしっかりお手伝いしてさあ。


「ロロンハ?」


「おねーちゃ、したでおせんたく!」


 やっぱりそうか。

マントないし。

じゃ、ボクらもいこうか。


「アカヲ起コシタラ行クネ」「はーいっ!」


 ルーニちゃんは嬉しそうに走って行った。

あーあー、こけても知らないぞ。

さて、アカを起こなさいと。


「おやびん!ごはん?ごはん?」


 寝起きがいい子分ですこと!



「よぉ、無事に依頼を済ませたみてえだな」


 アカを肩に乗せて食堂に行くと、ドラウドさんが優雅にパイプをくゆらせていた。

この人はここで働いているワケじゃないけど、行商が休みの時はこの宿で寝泊まりしているみたい。

入り婿とか、そういうのかなあ?


「アッハイ、ナントカ」


 食堂には……ボクらの他に宿泊客が、3組ほどいた。

ここの宿、ガラッドで泊った所よりも大きいから食堂も広いや。


「ムーク様!こちらへどんぞ!」


 ドラウドさんの横のテーブルから、ロロンが手を上げた。

場所取りまでしてくれたのか……働きすぎじゃない?

もっとダラダラしてもいいのよ?


「ロロン、オ洗濯アリガトウネ?」


「じゃじゃじゃ……ワダスのついででやんすから!」


 はあ、いい子しかいないのかボクのパーティは。


「ロロンはいい嫁さんになりそうだなあ、ハハハ!」


 コラ!ドラウドさん!

そういうのは今時セクハラになりますのよ!?

……今時ってなんだろう?

ここ異世界だし。


「しょ、しょんな……わだ、ワダスはまだ背の青い半端者でぇ……」


 あああ!椅子の上で丸まらないで!

凄いバランス感覚だな!?


「はい、お待たせいたしました……義兄さん、姉が呼んでいましたよ」


 ルマンさんが大皿を満載したお盆を持ってきた。

牛の獣人さんってみんな力持ちだなあ……

そしてロロンの状態には何も突っ込まない、凄い人だぁ……


「はいよ、じゃあな」


 ドラウドさんが席を立つのと入れ違いに、ボクらのテーブルに皿が置かれていく。

今日の晩御飯は……小魚をカラッと揚げたのが入ったスープ!山盛りのサラダ!大盛のパン!

そして……黄色いトロッとしたソースのかかった焼いたお肉!!

ウヒョー!!なんですか今日はお祭りですか!!


「いいチーズと猪が入りましたので。パンとスープはお代わりも自由ですよ」


 なんて太っ腹!!

そして……チーズ!チーズか!この黄色いの!!

この世界にもあるんだァ!!


『いや、ありますよ……それは……』


 それもそうか!!

テンションが上がり過ぎて変なことしか考えてないな!ボク!!


「イタダキマス!!」「いたらきまー!」「い、いただきやんす!」


 とにかく!冷める前に頂かないとね!!

ウウウ!涎が出そう!!

テンションが上がり過ぎて口が全開になっちゃった!

控えめに言って化け物だから気を付けないと!!

まずはこんがり焼けた猪肉を……ガブーッ!!


 ――ボクの記憶は、ここで途切れている。

どうやらおいしすぎてブレーカーが落ちたようだ。



・・☆・・



「……長持チスルシ、チーズ買オウカ」


「アカ、とろとろ、しゅき!チーズ、しゅき!」


 食事の記憶がないけれど、お腹が全力で『余は満足じゃ』と主張しているのでいい食事だったのだろう。

気が付いたら部屋に戻ってたけど、次こそは味を楽しもう。

アカも大満足だし。


「んぐぐぐ……ふみゅう……」


 珍しいことに、ロロンはお腹をぽんぽこにしてベッドに横たわっている。

覚えてないけど、さぞ美味しかったのだろう。


『むっくんよりも食べていましたよ、彼女』


 マジで!?

ロロンの胃袋は化け物か……


「……ダイジョブ?」


「じ、じっさま曰く、『明日大戦が起こってもいいように、しっかり食え。それが美味いものなら猶更』ァ……」


 ロロンはプルプルしている。

お、おじいさん……殺伐とした日常だったのですねえ。


『アルマードの一族は傭兵としても有名です。きっと方々の戦で戦っていたのでしょう』


 丸まって突撃するんだっけ?

そんなに強力な技なのかな、『地獄車』って。

いや、ロロンを見ててもお強い一族だってのはわかるんですけど。


『まず全身に魔力を限界まで通わせ、背中の装甲を堅固に強化します。さらに、むっくんの衝撃波のような手段で急加速……突撃の最中は同時並行で土魔法を詠唱、鋭利な棘を展開させて攻撃力を底上げするのです』


 無 茶 苦 茶 強 そ う 。

アレか、鋭いスパイクの付いたタイヤが超高速で突っ込んでくるのか。

しかも複数で……恐ろしいすぎる。

ボクなら全身が細切れにされそう。

いつか、ロロンの必殺技として拝めるのが楽しみである。


 ボクも欲しいな、必殺技ってやーつが。


『電磁投射砲があるではないですか』


 あった!

たしかにアレは必殺技と言っていいかもしんない……今までに貫通しなかった敵いないし。

しかし、チャージに時間がかかるしその間はロクに動けないんだよね……

どうしたもんかねえ。


「おやびん、おやび~ん」


 つんつん、と頬を触られる。

見ると、アカが頬をぷっくり膨らませていた。

おやおや、お餅みたい。

トモさんと話し込んでたから、まさに焼餅を焼いたのだろうか?


「ドシタノ?」


 そのぷくぷくのほっぺたを突っつく。


「ぽひゅ!……あは!あははぁ!あははは!」


 息の出る音が面白かったのか、アカがころころと笑い出す。

一瞬で機嫌が直った……この子分ちょろカワイイすぎる。


「オ腹イッパイダシ、寝ヨッカ」


「ねゆ!ねゆ~!」


 ぽんぽこのお腹で唸るロロンの頭も撫で、寝ることにした。


「お、おやすみなっせ……うぐぐ」


 ……明日、異世界胃薬でも買ってきてあげようかな。

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