第42話 棍棒との出会い、そして妖精との別れ。


『コレに書かれているのは古代エラム語。はるか昔に、南の砂漠地帯で栄えたエラム魔法帝国で使用されていた言語です』


 スープと乾パンに複雑ながらも舌鼓を打ち、お腹がいっぱいになったころ。

ボクは例の黒棍棒を抱えて、トモさんの説明を受けている。


 ちなみにロロンは片付け、アカと妖精2人は食べ過ぎた結果テントの中で寝ている。

どうやら妖精は今晩も泊っていくみたい。

別にいいけども。


 しかし、古代魔法帝国か……急に浪漫をお出しされたなあ。

今は残ってないの?その帝国って。


『ロロンさんの一族が暮らしている場所、エラム砂漠全域がその跡地です』


 そういえば砂漠と名前が一緒だった!

……跡地が砂漠って、まさか。


『ええ、滅びました。今では砂漠の各所にダンジョンとして残っていますね』


 やっぱり。

砂漠に消えた幻の帝国……なんか、映画みたい!

じゃ、じゃあこの棍棒くんもなにか凄い魔法武器だったりするの!?

魔力を流したらビームが刃になるとか!!


『それ、本当にそうでしたら扱えますか?』


 無理ィ……敵より先にボクが真っ二つになる未来しか見えないィ……


『残念ながら、その棍棒には魔法的な変形機能はありませんね。ただ、とても頑丈だというだけです』


 地味ィ……役には立つけどさ。

たしかに、あの鎧とチャンバラした時にはすっごく硬かったな……この棍棒。


『しかしながら比重の軽い金属で作られているようですね、見た目の割りに重くないでしょう?』


 それはある。

こうして持ってみても、明らかに前の骨棍棒よりも軽い。

見た目は無茶苦茶重そうなのに、不思議な金属だね。


『ただ、ハッキリとはわかりませんが……その文言が示すように、特定の相手に対しては威力にブーストがかかるようですね。呪いではなく、刻まれた薄い意志を感じます』


 黒棍棒に沿って書かれている、謎文字。

『全ての慈悲なきものに死を』って書かれてるらしい……怖い。

なんだろこれ。


『むっくん相手の時は発動していませんでしたよ? むっくんは慈悲ある虫ですからね』


 慈悲ある虫!?

……まあ、無慈悲なつもりはないけどさあ。


『それ以外は変わった様子はないようです。むっくんがお好きなRPGの戦利品のようなものですよ、遠慮なく使えばよろしいかと』


 むぅん……それなら、まあいいかな?

素手バトル虫は敵との距離が近いし、攻撃も貰いやすいからねえ。

つまりこいつは……悪い敵に対しては威力がアップする棍棒くんってことね!

それくらいのイメージでいいか、うん。


「ムーク様ぁ、暗くなってきやんした。そろそろ寝なっせ~」


「ハァイ」


 最近、ロロンの母性が凄い気がしてきた。

実際に今のボクよりは年上なんだけどね……なんか、釈然としないような気がする。

別に困ってないけども!


 とりあえず寝よ寝よ。



・・☆・・



「ンニャム……」


 寝るぞい!って思ったらもう朝ぞい!

この体、ホントに寝つきがよくて助かるねえ。


「んみゅう……にゅう、へへぇ」


 いい夢を見てそうなアカは、ボクの胸の上。

おかしいな、ボクが寝るときはラーヤたちと一緒に寝てたのに。

寝ながら移動してきたのかな。


「おはよぉ」「オハヨ」


 ラーヤはボクの動く音で起きたのか、ピーちゃんの横で寝ながら手を上げている。

ピーちゃんは……羽を大きく広げて仰向けになって寝ている。

鳥ってああやって寝たっけ?


「いい匂いがするわぁ、ロロンちゃんは早起きさんねぇ」


 テントの外から、火の跳ねる音といい匂いがする。

ロロンは働き者だなあ、もうちょっとダラダラしてもいいのに。


「ロロン、オハヨ」


 アカを横に寝かせて、テントから出る。

そこには、楽しそうにフライパンで何かを炒めるロロンがいた。

この匂い……タマネギとお肉、かな?


「おはようござりやんす!朝ご飯はマルモ肉炒めとパンでやんす!」


 朝から贅沢だなあ……とりあえず拝んでおこう。

ありがたや~、ありがたや~!


「じゃじゃじゃ!?」


 びっくりさせてしまったようだ。

申し訳ない。



「おいし!おいし!」


 アカは今日も元気だなあ。

肩の上で盛大にパンくずをこぼしている。

マント着てないからいいけども。

指でほっぺを拭ってあげよう。


「むいむいむい……えへぇ、えへへ」


 なんじゃこのかわいい生き物は。

ボクの父性メーターがぐんぐん上昇していくよ。


『謎虫に、謎メーター……』


 いいでしょ別に!


「ラーヤノオ陰デ依頼品モ集マッタシ、今日ハ街ニ戻レソウダネ」


 狼の毛皮もヨシ!ゴブリンの耳もヨシ!

これで……あああ!なんとか草を採集するの完全に忘れてた!!


「ムーク様、こちらがモモロ草でやんす。風呂敷に入れておいてくなっせ」


 すっとロロンが出してきたのは……紫がかったヨモギの親戚みたいな草の束。

えええ!?いつの間に!?


「今朝方洞窟まで行って取ってきやんした!」


 フンス!という顔のロロン。

あ~、むっちゃ助かる。

助かるけど……


「アリガトウ。デモボクラハ仲間ダカラネ?ロロンバッカリ働クノハNG!1人ハ危険ダシネ!」


「えぬ?じー?」


 アカが首をかしげているけど、ここはしっかり言っておかねば!

ロロンは頼りになる凄い仲間だけど!なんでもかんでも頼りっぱなしなのは駄目だ!

なんでかって!?ボクがどんどんどんどん駄目虫になっちゃうからね!!


「し、しつれいをば……」「ノウ!」


 慌てて頭を下げようとしているロロンを手で制し、その頭をそうっと撫でた。


「トッテモ助カッテルシ、感謝ハシテルンダヨ?タダ……ヤレルコトハミンナデヤロウ、子分バッカリ働カセルナンテ、立派ナ親分ジャナイカラネ!」


 これはボクの意地でもある!

なにより……アカの教育にもよくない!!


「ちがうぅ!おやびん!りっぱ!かっこよ!えらい!」


「ア、今ハチョットヤメムグググググ!!」


 アカが頬にぐいぐい体を押し付けてくる。

あの!嬉しいけど話がややこしくなるから今はヤメテ!!


『ほう……早朝からトモさんポイントを稼ぎましたね、むっくん。やりますね……』


 稼いでないやい!

そっちも今はチョットお口チャックしてて!!


「……ロロンモサ、モットボクヲ頼ッテネ?親分ナンダカラ」


「は、はいぃ……も、もっだいね……おもさげながんすぅう……へへへ」


 ボクに頭を撫でられ、ロロンは少し顔を赤くしていたけど……ちょっと、恥ずかしそうに微笑むのだった。

わかってもらえたかな?

この子だってまだ子供なんだ。

全部おぶさるのは、やっぱり駄目だよねえ。


『コマし虫……』


 人聞きの悪い!!!!

とても!!人聞きの悪い!!!!


 こそばゆい気持ちを抱えながら、ボクは硬いパンを齧るのだった。

……アカ、撫でるからボクの片手に抱き着くのはやめんさい!

こぼれる!こぼれる!!



・・☆・・



「さて、私達はここでお別れねぇ。ピーちゃんを送っていかなくちゃ」


 朝食を終えてテントを片付け、街へ帰還し始めてからしばし。

山を下り、平野になったあたりでラーヤはそう言った。


「ア、ソウナノ」


 もうちょっと一緒にいるのかと思ってた。


「おわかれ?おわかれぇ?」

 

 初めて同族に会ったアカは少し寂しそうだ。

そりゃそうだろうね……ボクは出自の段階で天涯孤独虫が確定しているけども。


「うふふ、じゃあ一緒に行くぅ?」


 え、マジで!?

あ、アカ!アカが巣立っちゃう!?


「いかなぁい!アカ、おやびんといっしょ!」「だろうと思ったぁ、ふふふ」


 アカは慌ててボクの兜に抱き着いた。

よかった……びっくりしちゃった。

あとね、そこ触角があるから危ないよ。


「お立ちでやんすか。しぇば、これを……干しリンゴでやんす、糧食にどんぞ」


「まぁ!ありがとぉう!」『ありがと!これ好き!』


 ロロンは気が利くなあ!


「アカちゃん、心配しなくってもまた会えるわぁ。空はどこでも繋がってるんですものぉ」


 なんとも誌的な言葉を残し、ラーヤとピーちゃんは空へ舞い上がった。


「そうそう、冒険者に報酬は付き物よねぇ。ムークちゃん、貴方の背嚢に報酬を入れておいたからぁ」


 えぇ!?あのゴブリンイヤーで十分なんだけど!?

っていうかポーチにボク以外の人が物入れられるの!?

初めて知った!!


『普通は無理ですよ……空間魔法の応用でしょうね、本当に凄い……』


 トモさんが驚愕している。

そうなんか……ボク、魔法に疎いもんで。


『ありがとね!皆さん!またね!』


 ピュイ!と鳴き声を上げて。

まずピーちゃんが勢いよく羽ばたいて飛び上った。


「うふふ、またねぇ!ご飯、美味しかったわぁ!」


 それを追うように、ラーヤが優雅に飛び去った。


「マタネ~!」「道中、お気をつけなっせ~!」「さいなら!さいならぁ!!」


 ボクらの声に応えるように、空に花の幻影が見事に咲いた。

凄いなあ、あの魔法……


「サ、帰ロッカ」


「あい~!」「んだなっす!」


 それを見ながら、ボクらは街に向って足を踏み出した。

妖精さん……また会えるといいね!

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