第41話 洞窟を出たら空気が美味しい!

「あ、そうそう。コレよかったら貰ってぇ」


 ボクらにネタバラシ?をし終わった後。

ラーヤはそう言って……虚空に指を振った。

すると、そこが歪んでドサドサと何かが落ちてきた。


「ウワッ!?」


 それは、ゴブリンの耳の山だった。

ひいい……あれ、でも全然血に汚れてないぞ?ナンデ?

っていうか!今のどうやったの!?


『空間歪曲魔法……むっくんが持っているポーチの魔法版ですよ。かなり高度な魔力制御を要求される、超高難易度の魔法ですね……彼女は本当に底が知れません』


 ワープするし、ポーチも魔法で代用できちゃうし……

もう一般謎虫からしたら凄すぎて凄さが認識できないや。

仮にボクが一般的魔術師の端くれだったら『そ、それは空間魔法!?』とかってリアクションもできるんだろうけどさ。


「貴方たちを待っている間にねぇ、近くに群れがあったからちょぉっと狩ってきたのぉ。冒険者ってこういうの集めるの、好きなんでしょぉ?」


「イヤ、別ニ好キデ収集シテルワケジャナイケド……デモ、アリガト」


 ゴブリンの耳フェチ集団とか絶対に近付きたくないや。

でも、モノ自体は換金できるからありがたいよね……たしか依頼にはいくらでもいいって書かれてたし。

ゴブリン、人間世界から嫌われてるなあ……転生先がゴブリンじゃなくて本当によかったよ、ボク。


「あら、そうなのぉ?」


 どうやらラーヤは人間世界にはちょっと疎いみたい。

あ、そうだ。


「ラーヤ、エルフノ国ニ住ンデルノ?」


 色々バタバタして聞きそびれてたんだ。

なんか、向こうの妖精伝いでボクらのことを聞いたんだろうな。


「ううん、私はいつもフラフラしてるだけぇ。たまたま耳長の子たちの国にいるおチビちゃんから聞いたのよぉ」


 あー……そういえばワープできるんだ、この人。

そりゃ、どこでも行けるか。


「そうそう、ムークちゃぁん」


 ラーヤが肩に乗って、頬にもたれかかってきた。


『貴方たちがされたことを考えたら、耳長の子にイーッ!ってなるのも無理はないけどぉ。あそこに住んでるおチビちゃんたちは幸せに暮らしてるし、閉じ込められてるってワケでもないのよぉ?今回はアカちゃんが本当に珍しい妖精だったから、向こうもムキになっちゃったのよねぇ?』


 苦笑い、って感じの念話が飛んできた。

うん……まあ、それはそうなんだろうけど。


『大丈夫、教会とかいう所以外のエルフにはよくしてもらったし。ボク、エルフさん好きだから、基本的に』


 色々貰ったし、助けてもらったし。

例のアーマードエルフ陣営以外はもう許した!


『あらよかったぁ、いい子、いい子ぉ♪』


 ほっぺたがくすぐったい……ボクの皮膚感覚どうなってるんだ。


「今日はこごで泊まりやんしょ。ワダス、夕ご飯の用意ばするのす!」


 耳の山を見て周辺が安全だと確信したのか、ロロンが言った。

おっと、じゃあポーチから炊事道具とテント出さなきゃ。


「今日のご飯はなあにぃ?」


「んだなっす……オオムシクイドリの肉が残っておりやんす。野菜も水もあっし、スープでやすかね」


「あらぁ~、素敵ぃ!」


 ラーヤ的にもロロンの料理は好きらしい。

ボクの肩で、ウキウキと揺れている。

たぶん凄い妖精さんだとは思うんだけど……根はアカみたいな感じなんだよね。


 ここは景色もいいし、キャンプにはもってこいだね……

依頼も終わったし、ぐっすり寝て帰ろう。



『アカちゃんなんだけど』


 テントを展開し、ロロンが料理に取り掛かった頃。

ずっと肩に座っていたラーヤが念話を飛ばしてきた。


『耳長の子たちには注意しておくから大丈夫よぉ。だけど、妖精は魔物に狙われやすいから気を付けてねぇ』


『おいしいの?』


 あのセキセイインコさんも捕まってたし。


『おいしいかどうかは知らないけどぉ、妖精は魔力の塊だからぁ。言ってみればとぉっても大きい魔石みたいなものなのぉ』


 そうなんだ!?

なるほど……そりゃあ狙われるわけだ。

ボクは絶対に食べないけど、魔物にとってはご馳走なんだねえ。


『あと、人族しか住んでない国ではお金で取引されることもあるわぁ。獣人ちゃんとか虫人ちゃん、亜人ちゃんはあまりそういうことはしないけどぉ、気を付けてあげてね』


『そりゃ勿論、ボクはアカのおやびんですから』


 ああまでボクを慕ってくれるカワイイ子分なんだ。

しっかり守らないと男が廃るってもんですよ。

ボクの性別はまだ不詳なんですけどもね。


『……素晴らしい、トモさんポイントを進呈します』


 また謎ポイントが付与された!?

だからそれはいったい何に使えるんですか!?


『……あと、アカってそんなに珍しいの?』


『そうよぉ、人型の妖精ですもの。ムークちゃんは疎いようだけど、私やアカちゃんみたいなのって本当に珍しいのよぉ』


 ……その割には獣人の皆さん、特に反応してなかったけどな。


『妖精自体が珍しいですから。見慣れていないし、妖精を取引するようなこともないでしょうからね、普通の獣人さんは』


 あー、そうなんだ。

やっぱり、西の国を目指して正解だったってことだね。

さっきラーヤが言ってたのって、北や東の国だろうし。

トモさんのおかげですなあ。


『あら、いくら褒めてもトモさんポイントの付与は一日一回ですからね』


 そうじゃないよ!

っていうかそんなルールあったんだ!?



「ただーいま!ただいま!」


「オカエリ~」


 スープのいい匂いがしてきた頃。

夕暮れになりつつある空から、アカが帰ってきた。

後ろにはインコさんの姿もある。

ずっと飛んでたなこの2人……スタミナ凄いですね。

いや、1人と1羽かな?まあいいか。


『筋がいいわ!アカちゃん!』


 インコさんがボクの頭に止まりながら興奮している。

そこ滑らない?


 でも、そうなんだ。

インコさんのお墨付きとはありがたいねえ。


「おかえりなさぁい。アカちゃんが随分気に入ったのね、ピーちゃん」


 インコさんが本当にインコみたいな名前だった!?

もう完全に、ちょっと光ってるセキセイインコにしか見えない!


「おやびん、すてちゃう?これぇ?」


 アカの方は、ボクが地面に並べた骨棍棒の成れの果てを見つめている。

話が一段落したから確認してたんだ。


 ううむ……そうなんだよね。

ロロンにも見てもらったんだけど、こうまで砕けると棍棒としての再利用は無理なんだってさ。


 折れた長さ的には剣に加工することもできるらしいんだけど……ボク、使えないし。

ロロンには長すぎるし、なにより槍もあるし……ポーチに入れといてどこかで売るかなあ。


「ソソソ……シバラクハ素手ダネ」


 折れたところが鋭いのでアカが触れて怪我したらいけないし、ポーチに入れておこう。

今までありがとうね、骨棍棒くん……


「くろいのは?おっきーくろいの」


「大キイ黒イノ?」


 ……もしかしてあの鎧が持ってた棍棒かな?

今の今まで忘れてた!!

確かにアレならいい武器になりそうだけど……今から取って来ようかな。

走れば晩御飯までに戻って来れるでしょ、魔物いないし。


「あ、待っててぇ」


 ウワォ!?ラーヤが急に消えた!!

いったいなに……ああ!今のがワープ魔法ね!!


『空間跳躍魔法、ですね』


 こだわるね、トモさん……

しかし、いきなり消えるからビックリしたよ。

アカなんか目をまん丸にしてるし。


「――はい、ただいまぁ」


 ウワーッ!?なんで目の前に出てくるの!?

さっきの場所でいいじゃん!ビックリしたぁ!!


「コレねぇ。サービスで臭いも消しといたわぁ」


 空間が歪んで、ずどんと棍棒が落ちてきた。

うわあ……重そう、衝撃でアカが跳ねたし。

臭い消しまでしてくれるとは!


「アリガト!」


 戻らなくって済んだのはありがたい……いいなあ、ワープ。

ボクも使えないかなあ、いつか。


『現状の魔力量で使用した場合、準備詠唱の時点で餓死しますよ』


 そんなに魔力使うんだ……結構気軽にやってる感じだったのに。

ハイ・フェアリーってすごいんだなあ。 


 さて、棍棒だけど……こうして明るい日の下で見ると、結構綺麗。

見た目は黒い謎金属の塊で、長さは……ボクの身長と同じくらいかな。

表面にはなんかこう……細かい謎文字がいくつも刻んである。

古代文字かなにか?ボク読めないけど、こういうのなんか格好いいよね。

トモさん読める?


『ふむ……少々お待ちを。辞書を引きますので』


 辞書とかあるんだ。

トモさんのいる所、オフィスみたいになってるのかなあ。


「じゃじゃじゃ!これはいい棍棒でがんす!」


 鍋を持ってきたロロンが目を丸くしている。

さすが、目利きはボクよりも上だね。


「ゴメンネ、ロロン。折角作ッテクレタ棍棒、壊レチャッテ」


 そう言うと、鍋を置いたロロンは笑った。


「なんのなんの!武器は壊れるもんでがんす!ムーク様のお命の為に砕けだなら、あの棍棒も本望でやんしょう!」


 なんという男前だ。

ボクよりも肝が据わってるんじゃない?この子。


 いい匂いの鍋を置き、近付いてきたロロン。

まじまじと興味深そうに棍棒を見つめている。


「ふぅむ……あの様子がら、ただの金属ではねがんしょ。街に戻っだら武器屋ででも調べてもらった方が良いのす」


「ノ、呪ワレテルトカ?」


 ゾンビ鎧が持ってた棍棒だし、ありえるかも……


「あら、大丈夫よぉ。それには何の呪いも付いてないわぁ」


 肩のラーヤが断言してくれた。

それならいいかな……


「さ、ご飯にしやんしょ!今日のスープは自信作でやんすよ~!」


「わはーい!」「おいしそうねぇ」『ずっと臭い所にいたから腹ペコ!』


 ……ピーちゃん、スープ飲むんだ。


『むっくん、一部の翻訳が終了しました。【全ての慈悲なき者に死を】と書かれていますね』


 ご飯前に!ご飯前に恐ろしい事実!!

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