第40話 ハイ・フェアリーの底知れなさがコワイ。


「……ヤッタ、ナ!」


 危ない!またフラグとやらを建てるところだった!!


 地面に倒れたリビングアーマーの親玉。

その顔面に突き入れたチェーンソーを全力で回転させ続けて、しばらく。

ボクの全身に腐肉をぶちまけて、鎧は完全に沈黙した。


「おやびん!おやび~ん!!」


 しばらく待っても鎧が復活しないと安心したころ。

空中から涙目のアカが飛んできた。

あ、コレ抱き着く感じですね?


「キチャナイカラダメ~」「むむ~!!やー!やー!!」


 ボクの全身は名状しがたい肉片に覆われてるからやめてほしかったんだけど……アカはそんなものを気にせず顔にビターン!!

そのまま、全身を使って抱き着いてきた。

心配してくれるのは嬉しいけど、言うこと聞いてよお。


「ムーク様、ムーク様ァ!!」


 おっと、今度はロロンか。

流石に彼女は自重してくれるとありがた――腕持っとる!?

さっき吹き飛んだボクの腕だ!?


『あら、気が効きますね。アレがあれば寿命の消費を抑えられますよ、受け取ってください』


 そ、そうなんだ……今まで無から回復したことしかなかったんだけど……


「どんぞ!」「アリガト」


 左手を受け取り……痛む切断面に押し付ける。


『接合面、急速修復開始――』


 トモさんの声に続いて、痛みが引き……失った腕の感覚が戻ってきた。

うわああ……なんか、違和感!

今更だけどボクの体って滅茶苦茶だよ。


「ムーク様、アカちゃんと一緒にご休憩をばしてくなんせ。こ奴の解体はワダスがやりやんす!」


「イヤ、大丈夫――」


「ご休憩しなんせェ!!」


「ハイ」


 ロロンの目がマジだ。

ここは甘んじて受けよう……

トモさん、リビングアーマーってお金になるの?


『なりませんね。一部の個体を除いてリビングアーマーは死ぬと脆くなります、加えて今回の個体は中身が……』


 ああ、うん、そうだよね。

中身は腐った何かの死体だもんね……臭いもすっごいし。


「アカ、臭イデショ。離レタ方ガイイヨ」「やー!」


 この強情なアカも臭くなっちゃうな……この洞窟から出れたら、一緒に水浴びしよっか。

相変わらず貼り付くアカの背中を撫でつつ、そんなことを考えた。



・・☆・・



「デッカイ魔石ダナア……コレ売ロウカ?」


「何をご無体な!ムーク様のお体の為にお使いくだんせ!!」


「ハイ」


 リビングアーマーから取られた魔石は、謎の汁でテカテカしてるけど……ソフトボールくらいあった。

今までで最大!ってワケじゃないけど、売ればいいお金になるかと思ったんだけど……ロロンには受け入れられなかった。

アレ?ウチのパーティの女性陣……2人とも頑固じゃない?


 まあいいか、とりあえずポーチにしまっとこ。

今回は左腕の修復にそれほど使わなかったから、寿命はまだあるみたいだし。

……寿命はまだあるって言い方、なんか変だね?


ちなみに鎧の中身は腐りすぎてて判別不能でした。


「おやびん、くしゃい!けど、アカもくしゃぁい!」


 何が嬉しいのか、アカは肩の上で笑っている。

臭いって言わないでよ……アカは抱き着いたんだから仕方ないじゃん。

まったくもう……言うこと聞かないカワイイ子分ですよ、ほんと。


「ア、ソウダ妖精!」


 完全に忘れてた!

ええっと……いた!来た時と同じ場所でぼんやり光ってる!

アカはしないけど、妖精さんってあの光玉状態がデフォなの?


『あの状態では一切の物理・魔力干渉を受け付けません。いわば妖精の防御形態ですね……ちなみにアカちゃんができないのは純粋に幼いからです、修練が必要ですからね』


 そういえばアカもボクとどっこいどっこいの年齢だった……そうか、防御形態ね。

え?じゃあボクら別に助けに来なくてもよかったの!?

攻撃無効なんでしょ!?


『あの状態では動きが鈍くなりますし、動けば魔力消費量もグンと増えるのです。このような洞窟の奥底では、脱出するまで持続は不可能でしょうね……あの妖精はそうやってジワジワ追い詰められていたのですよ、周囲をアンデッドに囲まれて』


 あー、そういうことね。

ラーヤが『すぐに食べられることはない』って言ってたのは。

すぐにどうこうはないけど、このままじゃジリ貧ってことだったのか。

まあなんにせよ……声くらいかけておこおうか。


「アノ、妖精サーン。モウ大丈夫デスヨ、ボクラハ、ラーヤカラ言ワレテ……」


『ありがと!ありがと!!』


 ウワーッ!?!?

光玉が突進してきた!?

今の声って、この玉……じゃない、妖精さんから!?


『暗い!狭い!怖かった!ありがと!ありがと虫の人!』


 そのまま念話を放ちつつ、妖精さんはボクの周囲をグルグル回っている。

おー……なんというか、アカよりも語彙が豊かな感じ。


『よかた!よかたね~!』『おチビちゃんもありがと!アルマードさんも!』


 アカは肩から飛び立ち、空中で妖精さんと喜びの謎ダンスを披露している。

そうするうちに妖精さんの纏っていた光は弱くなり、じわじわとその下の本体が見えてきた。

アカよりも大人っぽいのかn……えぇえ!?


『あんなに臭いのに食べられなくてよかった!よかったあ!!』


 アカと嬉しそうに旋回しているその妖精さんは……うん、その……

どう見てもセキセイインコです、ありがとうございました。

――じゃない!?


え、なにアレ!?妖精さんってみんなアカとかラーヤみたいな感じじゃないの!?


『あら、むしろ人型の妖精の方が少数派なのですよ?』


 そうなんだ!?

ええ~……なんかイメージが違うな……

なるほど、だから念話で話してたんだ。

インコの口だと発音難しそうだもんね。

ボクなんか現在進行形で苦労してるし!虫の口のせいで!



『よかったわぁ、元気そうで』



 ……なんで普通にボクの横にいるの、ラーヤ。

え?全然気配とか感じなかったんですけお!?

ロロンもびっくりしたのか飛びついてきた!

今ボク臭いからやめてェ!!


『……空間跳躍魔法ですか、さすがハイ・フェアリー』


 ワープとかそういうやーつ!?

すっご……妖精ってすっごいや。


『……っていうかもう来て大丈夫なの?苦手だって言ってたんじゃ?』


 魔物はいなくなったけど、ここに来て大丈夫なん?


「うふ、オバケの件はね。全部う・そ♪」


「……ハ?」「じゃじゃ……じゃ?」


 なんじゃとて?

呆気にとられるボクとロロンの前で、ラーヤはクスクス笑いながら舌を出した。


「ああ、勘違いしないでねぇ?あのおチビちゃんが捕まってたのは本当よぉ?」


 え、じゃあ……ナンデ?


「ムークちゃんには悪いと思ったんだけどねぇ、すこぉし、貴方を観察させてもらったのぉ」


 観察?

だめだ、なにもわかんない。


「そもそも……むぅ、汚れちゃったわねぇ。はいっと」


 ラーヤが指を振ると、さっきまでの激臭が消えた。

正確には、ボクの体とマントに付着していた腐肉と汁が消えた!

ふわー!魔法だ!すごい!

洗濯いらずじゃん!いいないいな~!


『妙な所に食いつきますね、むっくんは』


 だって便利でしょ!?


「すんすん……うん、良いわぁ。ここで説明してもいいんだけど……入口まで戻らなぁい?」


 と、そういうことになった。

こんな暗くて臭くて狭い所はとっとと出たいしね!!


あ、砕けちゃったけど棍棒持って帰ろう……くすん、さらばボクの初武器……

再利用できるかなあ……



・・☆・・



「耳長の子たちの所にいる仲間から、貴方たちの話は聞いてたのぉ」


 もはや無人となった洞窟を引き返し、山を少し登り……開けた場所までボクたちは帰ってきた。

そこにみんなで腰を下ろし、ロロンの淹れてくれたケマで喉を潤した。

アカはさっきのセキセイインコと一緒に上空を飛び回っている。

上手な飛び方を教わっているようだ。

そして人心地ついたころ、ラーヤはそう言った。


 ……耳長の子たち?


『エルフのことですね、恐らく』


 あ!そうか!

……じゃあなに、ラーヤはエルフの国から来たってこと?


「教会が無理やり『保護』しようとして手酷いしっぺ返しを食らった、てねぇ」


 食らわせました!主に水晶竜とレクテスさんが!!

ボクはほぼボコボコにされたり逃げたりボコボコにされたりしてました!!


『何故胸を張るのですか……』


 生きてれば勝ちなので!


「それでねぇ、確かに教会のやり方は滅茶苦茶だったけどぉ?アカちゃんがとっても珍しい妖精っていうのもあって……ムークちゃんが本当に悪い虫さんじゃないかどうか、この目で確かめようと思ったのぉ」


「フムフム」


 アカ、やっぱりそんなに珍しいのか……

いや、妖精って時点で珍しいとは思うんだけども。


「それでね、ずうっと近くで見てたんだけどぉ……あのおチビちゃんが捕まってるのも同時にわかったから、言い方は悪いけど利用させてもらうことにしたのぉ」


 無茶苦茶強いらしいラーヤが、オバケが苦手なんて理由を言ってたのはそういうことか。

っていうかずっと見てた!?全然気づかなかったんだけど!?


『私の方でも一切察知できませんでした。全ての権能を発揮できないとは言え、なんという隠蔽スキル……!』


 トモさんも驚愕している。

女神様にもわかんないなら、ボク如きがわかるもんじゃないね~。


「デ、ボクハ合格?」


 アカのそばにいるのが変なにんげ……むしんちゅじゃないかどうか調べてたんでしょ?

さて、判定はいかに……?


「うふ、合ぉ格ぅ~♪」


 魔力が走り、空中に花の幻影がぶわっと広がった。

こった演出だぁ……


「耳長の子たちには、私がしっかりと釘を刺しておくわぁ。『無茶な手出しはメッ!』てね」


 ニッコリと笑ったラーヤは、何故だか少し迫力があった。



・・☆・・



 余談。


 某日、エルフ本国の教会総本山……その壁に大きく、


『かの妖精、並びにその保護者に対する攻撃・無用な保護は妖精族全体への挑発とみなす』


という、文字が出現した。


 それを目にした教皇は泡を吹いて失神した。


 現王の末子である姫君は、何故か腹を抱えて笑ったという。


「あやつやりおった!やりおったわい!フワハハハハハハ!愉快!愉快じゃあ!!」

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