蛇足 魔物図鑑 ②

【大地竜】


・生態

 地面の下に巣を作り、普段はそこで過ごしている竜。

幼体は体長5メートル前後で、成長にしたがって最大で2、30メーターに達する。

その巨大な体躯に似合わず、食事は1ヶ月に2~3度と小食。

研究者の間では『食物からの魔力変換効率が極めて優れているのではないか』と推測されている。

捕食対象は魔物なら何でも、口に入れば摂食してしまう。

体内に強力な解毒器官があり、他の魔物では摂食できないような魔物を問題なく消化することができる。


 縄張り意識が強く、食事のためでない戦闘も積極的に行う。

体表面には岩に見える強固な装甲があるが、それは魔力を帯びた皮膚が変化したものである。

口から放つ赤黒いブレスは、体内で高密度に凝縮された可燃性の胃液のようなものだとされている。

鋼鉄の鎧をやすやすと貫通するほどの驚異的な威力を持つ。


 人間にとって脅威となる魔物の一つであり、成長しきった個体に対しては冒険者はもとより、軍隊が派遣されることもある。

その場合は付呪された大盾を装備した重装兵を前面に配置し、後方から飛び道具と魔法の波状攻撃で仕留める戦法が一般的である。


 全身が貴重な素材の宝庫であるため、かなりの高額で取引される。

特に装甲は、加工することで並の魔法金属を超える強度となる。

そのため、自らの腕前を過信して挑む命知らずの冒険者が後を絶たない。


 かつて、神に祝福されたドワーフがこの装甲を用いて打った槍は、山ほどの大きさの竜種を屠ったという。


・味

むっくん『いつか食べてみたい!』

アカ『アカも!アカもぉ!』


※体長が10メーターを超えるくらいまで、肉に劇毒を多量に含んでいる。

成体の肉は、王侯貴族がこぞって求めるほどの美味だという。

 



【水晶竜】


・生態

 全身を青く美しい水晶に覆われた竜。

高い木に囲まれた場所に巣を作り、球状の水晶で構成された卵を産む。

普段はさほど好戦的ではないが、巣に卵がある状態だと周辺に近付くもの全てを攻撃対象とする。

その縄張りは長大であるので、その過程で他の強力な魔物と交戦することが多々あり、その場合は周辺地域に甚大な被害をもたらすこととなる。


 こちらも大地竜同様討伐対象となる魔物であるが、基本的に地面の上で生活する大地竜と違い空を飛ぶので討伐の難易度はさらに跳ね上がる。

装甲の防御力は大地竜と同程度であるので、こちらも攻撃を引き付けて魔法と飛び道具の波状攻撃で仕留める形となる。

大地竜とは機動力に大きい差があるので、より高い練度の魔法使いを用意する必要がある。

口から放つブレスは、圧縮され可視化された純粋な魔力の結晶体である。


 全身の水晶は美しく貴重であり、大地竜の装甲よりも高額で取引される。

その水晶は加工することで、魔力伝導率の高い優れた素材となる。


 エルフの国で特に流通している、標準的な魔法剣の素材の一つ。

むっくん『ボクの腕とか色々斬った剣ってこれかあ!おにょれ水晶竜ゥ!!』


・味

むっくん『こっちもいつか食べてみたいね~?』

アカ『ね~?』




【苔猪】


・生態

 背中にこんもりと苔を生やした、地球の猪によく似た魔物。

食性は雑食で、どちらかと言えば草食を好む。

背中の苔は生まれた時から生え始め、成長する頃には背中を覆いつくす。

苔は一種の魔法生物であり、猪とは共生関係にある。

稀にその苔に生える茸は、いくつかの手順を踏むと強力な毒となる。

即効性に優れ、対象が死亡すると体内から消えるという特性からかなりの需要がある。

そのため、冒険者たちにとってはかなり『美味しい』獲物である。

だが、それ以外の部位は全く需要がない。


・味

むっくん『生臭くて固くて筋張ってて、なおかつ苦かったり謎の臭みがある!特に背中の苔を剥いだあたりがもう信じられないくらい不味い!!』

アカ『おいし!おいし!』




【地底蜘蛛】


・生態

 地下深くに巣を作り、そこで2~3メートルまで成長する巨大な蜘蛛の魔物。

地面近くまで細い穴を掘り、そこを通る動物を捕食する。

食性は肉食で、太く強靭な顎と強力な溶解液で基本的になんでも消化してしまう。

個々としての脅威はそこまででもないが、問題なのは数である。

地底蜘蛛の習性として、巣の中で子蜘蛛が十分に成長した時に一斉に地表に出て巣別れをする。

それは並のスタンピードの規模を超え、もはや災害と呼ばれるレベルの甚大な被害をもたらす。


 成体が尻から放つ糸は、鎧を着込んだ人体をも両断するほどの威力を持つ。 

また、外骨格も強靭なため近接戦闘では容易ならざる相手となる。


『森の中で小さく、そして底が見えない穴を見つけた時には注意しろ。お前さんが長生きしたいのなら』――森の民に伝わる寓話の一説。


・味

むっくん『実はあの後残骸を見つけて、足を齧ったんだよね!……塩味が薄いカニみたいな味だった!ちょっと興味はあるけどあの空間には二度と戻りたくない!!』

アカ『ずるい!おやびん、ずるーい!』

むっくん『ゆるして』 

 


【深淵猿】


・生態

 黒い森に生息する、猿型の魔物。

体表面は黒い毛に覆われており、通常の猿よりも強靭。

食性は肉食で、集団での狩りを得意とする。

体内に魔石を有し、初歩的な魔法を行使することができる。

逃げるふりをして背後から仲間に襲い掛からせる、瀕死を偽装して油断を誘う等の戦法を駆使するため、犠牲になる冒険者が後を絶たない。

子猿を群れ全体で守り育てるという習性を持ち、それを害した相手をどこまでも追いかけるという。

知能が高く、危険度の高い魔物。


・味

むっくん『調理したことがないから血生臭い生肉って印象しかない。かといってこれをちゃんと調理したいとも思わない!』

アカ『おいし!おいし!』


【深層ナメクジ】


・生態

 成長すると大型バス程の巨体に育つ、ナメクジ型の魔物

食性は草食で、他の魔物に襲い掛かることもない。

しかし、問題なのはその巨体とそれから染み出す分泌液である。

這った後に残った粘液は、強い毒性を持っている。

土壌に対する被害はさほどでもないが、その粘液が蒸発する過程において毒ガスが発生する。

人間はもとより、毒に対して高い耐性を持つ魔物ですら長時間吸い込むと死に至る。

その全身は毒に満たされており、さらに死亡してもその毒は消えない。

よって、戦闘能力とは別の側面で脅威となる魔物の一種である。


 なお、その毒はある種の方法で年単位の発酵を経ることで無毒化する。

一部の地域において、長期保存可能な保存食とされている。

また、その味は筆舌に尽くしがたいほど不味いのだという。


・味

むっくん『年単位……フグの卵巣を食べるようなもんかな?そしてそれでも不味いなんて……ううう、ご飯がいっぱいある地域に生まれてよかったよォ!』

アカ『おいし?』

むっくん『おいしかろうはずもない!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る