第16話 苦労にはそれに見合った報酬があるべき!あった!!


「よし、こっちだ。そう……そこに下ろしてくれ」


「ドッコイ……ショ!」


 モドキの死体を、指定された台車の上に置く。

ふう、重かったあ。


 ここは、ムガタさんのお店の裏手にある倉庫?簡易解体所?みたいな場所だ。

軽く体を拭いた後、衛兵さんたちに状況説明をして……すぐにこちらへ移動してきた。


「ふいい……」


 体に続いて、ロロンも首を横に置く。

ボクの棘が刺さりまくったからか、結構無茶苦茶になってる。

あの場合はああするしかなかったけど、もうちょっと綺麗に倒せばよかったかなあ。


「それで、コイツは丸ごと俺に売ってくれるんだよな?」


 ムガタさんが、念を押すように聞いてきた。


「他ニ伝手モアリマセンシ、問題アリマセンヨ」


 このモドキを全部引き取ってくれるなら、願ったりかなったりだよ。


「よし!商品も戻って来たし、今日はいい日だ……この出会いに感謝、だな!!」


 がはは、とムガタさんが笑う。


「さて……まずは報酬の話だな。約束通り、あの鎧はムーク……アンタに100ガルで売ってやる」


 うひょお!?

4500ガルが100ガルになっちゃった!?

やったぜ!大安売りじゃん!!


「そしてコイツの金額なんだが……」


 今まで黙っていたロロンが、ずいっと前に出た。

目がギラギラ輝いている。

超頼もしい!


「それにつぎましては……ワダスが!」


「……お手柔らかに頼むぜ、オイ」


 そして、2人は小声で話しながら離れて行った。


「おう、そこの井戸は自由に使っていいぞ!」


「アリガトウゴザイマス」


 やったね、毛皮も汚水まみれだったから早く洗濯したかったんだ!

宿に戻る前に、汚れだけでも落としておきたいからね……それにもう一度しっかり体を洗っておこう。


「アカ、アカ」


「うにゃむ……あさぁ?」


 肩の上で寝ていたアカが、大きく伸びをする。


「水浴ビシヨッカ」「しゅる!しゅるぅ!」


 マントを脱ぎ、井戸のポンプに……手押しポンプじゃんこれェ!?

ハイテクだ!ハイテク!!


『ハイテクでしょうか……?』


 トモさんの声を聞きながら、大きなバケツに向かってポンプを操作した。


「あはは!あははは!たのし!たのし!」


「オワァーッ!?」


 アカ!なんで直撃する位置に……楽しそうだからいいや!

しっかり洗うんだよ~?



・・☆・・



「ぴかぴか、おやびん、ぴかぴかぁ!」


『アカもね、やっぱり綺麗になると気持ちいいね~』


 アカと一緒に水浴びし、マントを洗濯するついでに体を拭いた。

なんかこう……ボクの体ってアレね。

車にワックスかけるみたいな感じでキレイになるね。

胸の装甲なんか、光りを反射してとても格好いい。

兜の部分もしっかり磨いておいたよ、なんたってボクのセールスポイントですから!


「じゃじゃじゃ!お2人ともお綺麗でがんす~!ただいま戻りやんした!」


 どことなくホクホクした顔でロロンが戻ってきた。

上手い事まとまったんだね、商談が。


「末恐ろしい……帝国の1級商人になれるぜ、この嬢ちゃんはよォ……」


 なんかちょっと萎れた感のあるムガタさんも帰ってきた。

大分疲れたお顔をしていらっしゃる……


「まずはコイツだな、ホレ」


 あの変形鎧のベルトを差し出される。


「アリガトウゴザイマス」


「代金はモドキを買った中から出しとくぞ」


 やったね。

早速巻いておこう……これで防御力がアップしたぞォ!


「それで……コイツがモドキの代金だ。受け取ってくんな」


 お、おおお!?

かなりの大きさの革袋だ!?


「素材の買い取り代金、しめて5000ガルだ。ちゃんロロンと一緒に数えたからな、間違いねぇ」


 ご せ ん が る ! ?

す、凄いや!一気に大金持ちだ!!


「本当は7000ガルなんだが……魔石はそっちで使うんだって?解体が終わったら宿まで届けるから、それまで待ってな」


 ふうん、そうなんだ……コイツの魔石2000ガルもすんの!?!?

魔石って高いんだねえ……


 あ、言わなきゃいけないこと忘れてた。 


「ムガタサン、オ願イガアルンデスケド」


「なんだ?流石にこれ以上の金額は出せねえぞ?」


 この期に及んで値段を釣りあげたりしないってば。

そうじゃなくて……


「ソノオ金カラ、アカトロロンニ防具ヲ見繕ッテホシインデスケド」


「じゃじゃじゃ!?」「なに、なぁに?」


 ここに来た当初は素寒貧だったけど、今は小金がある。

それなら、2人の安全の為にも防具があった方がいい。

攻撃力に関しては申し分ないけどねえ。

前のアカみたいな大怪我でもされたら大変だ、特にロロンはパスがつながってないんだし。


「む、ムーク様ぁ……わだ、ワダス、嬉しいのす!!」


 ロロンが涙目になっている。

感動しているらしい。


「イイノイイノ、ロロンハ色々大活躍シタンダカラネ、勿論アカモ」


「わはーい!おやびん、ありあと、ありあとぉ!」


 ビターン!!とアカが頬に突撃してきた。

これだけ喜んでもらえただけで十分だよ、ほんと。


「そういうことなら……麗しいパーティ愛に免じて勉強させてもらうぜ、ハハハ!」


 ムガタさんは本当に嬉しそうに笑うと、ボクたちを店へと導いた。



・・☆・・



「はぁあ~……いい手触りでやんす!いづかワダスが一家を興した時は、必ず家宝にしやんす!!」


「ひらひら、しゅき!おやびんといっしょ、いっしょぉ!!」


 ロロンは街中を半分スキップしながら満面の笑みで歩いている。

アカは、ボクの頬に張り付いたままとっても嬉しそうだ。

ほっぺたがくすぐったい!


 ロロンは緑色の、アカは黒色のマントをそれぞれ羽織っている。

ムガタさんの店で買ったものだ。


 アカの方は、『トール・トゥース』という魔物の革を加工したもの。

ロロンは『ラウドバッフ』という、これも魔物由来の革を使用したものだ。

双方とも、魔法に対して高い防御性を発揮するらしい。


「あはは!あははは!」


 アカの方は、羽を邪魔しないようにマントの背中側をムガタさんが加工してくれた。

あんなに大きい手なのに、むっちゃ繊細だった……流石はドワーフさんといったところかな!

ちなみに、お値段は2人分で1000ガルぽっきり。

面積的に大きいのはロロンの方だけど、お値段としてはアカの方が高い。

対魔法に高い防御効果があるらしくって、仮にロロンのマントをそれにしたら4000ガル以上になるんだとさ、ヒエエ~!


「ボクモ大満足!」


 ベルトも貰えたし、それに……ボクのマントもちょこっと加工してもらって留め金を付けてもらったんだ!

前は端っこを首もとで縛ってたから、これだけでもかなり便利になった!


『いい防具が手に入りましたね』


 旅の軍資金もね!

あとは武器だけど……今はロロン作の骨棍棒で困ってないからいいや!

これむっちゃ頑丈だし!適当に振り回しても大ダメージになるし!

いつか余裕が出来たら武術でも習いたいねえ。


 あ、そうだ。


「ゴハン食ベニイコ!猪ノ地獄焼キ!!」


「行ぎやんす!」「ごはん、ごはん~!」


 名物に美味いものがアリナシかどうか……!確かめてやる!!



・・☆・・



「へいお待ち!地獄焼き一丁!!」


 店員さんが、テーブルの中央に塊肉をどんっと置く。

綺麗な焦げ目と、すり込んだ香辛料の匂いがなんとも食欲をそそる!!


 ムガタさんに紹介してもらったけど、どうやらこのお店は当たりだね!!

あらかじめ聞いておいてよかった!

こじんまりとしてるけど綺麗なお店だし、値段もお手ごろだし!


「コイツで切り分けて、パンに挟んで食ってくんな!美味いゾ!!」


 大き目のナイフを置いた……小さなウサギっぽい獣人さんが二カっと笑う。

……声は渋くて格好いいオジサンなのに、見た目が完全に小さい女の子向けアニメのマスコットみたい……

獣人さんってよくわかんないなあ、まあいいけど。


「切り分けまっす!!」


 やろうと思った瞬間にはもうロロンが手際よく始めていたので、ボクは大人しく飲み物を配る。

中身は果実を絞ったものだそうです、お酒は美味しくないのでいらないや。

この世界のお酒が美味しくないのか、はたまたホクが子供舌なのかは定かではないけど。


 あっという間にお肉は切り分けられ、それぞれの取り皿に移される。

これだけでも十分な量だねえ!


「ジャア……無事ヲ祝ッテ、乾杯!」


「かんぱい、かんぱ~い!」「乾杯!」


 木のコップを打ち鳴らし、ささやかな宴会が始まった。



「ンマ!ンマーイ!!」


 噛み締めると肉汁が溢れる!

歯ごたえもあるけど、適度に柔らかい!!

お肉自体も美味しいけど……この!脳天を突き抜ける香辛料のアクセント!!

黒胡椒みたいだけど、ハーブっぽい爽やかさもある!!

ボクの虫脳味噌では語彙が足りないけど……とにかく美味しい!辛くて美味しい!!


「はもももも!ももも!もももも!!」


 アカは……自分よりも大きな肉塊に猛然と戦いを挑んでいる。

もう夢中って感じ、すごい食いつきだ。

気に入ったみたいでよかったあ。


「んめめなっす、んめめなっす~!」


 ロロンも大満足のようである。

アルマジロじゃなくて、ハムスターの獣人みたいになってるし。


 いやあ、ここはいい街だなあ。

即定住!とはならないけど……また来たい!

こんな風に、旅を続けながら色んな街を巡りたいね、トモさん!


『ふふ、そうですね。むっくんが嬉しいと私も嬉しいです』


 これがwin-winってやーつ!

爽やかな果汁を堪能しつつ、ボクはお代わりを注文した。

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