第17話 さらば!城塞都市!!

「じゃあ、頼むぜ?」


「ハイ」


「まあ大丈夫とは思うけどよ、何か気付いたら言ってくれよな……よし、行くか」


「ギュルル……」


 ぎしり、と竜車が軋んで進み始めた。

さあ、出発だ。



・・☆・・



 下水道でのアレコレから、3日後。

ついに周辺の安全が確保されて、門が開くことになった。

それに合わせて、ボクたちはガラッドを出発することにした。

ここは居心地がよかったけど……主目的は虫人の国、トルゴーンだ。

2人も同じ気持ちだったし、善は急げとばかりに出発することにした。


 マーサさんたちは別れを惜しみ、日持ちの効く乾パンみたいなものを持たせてくれた。

『きっとまた来てね』と言われたので、いつかまた来たいとは思う。

色々旅した結果、ひょっとしたら永住するかもしれないし。

それくらい、ここは気に入った。


 お世話になった人たちに別れを告げていると、丁度ドラウドさんが行商に出るところに出くわした。

彼の目的地は『ラバンシ』

ここガラッドと、この前溢れたダンジョンを挟んだ向こうにある街だそう。

それで……同じ方向だから、護衛も兼ねて一緒に行かないかと誘われたんだ。


 勿論、ボクらは渡りに船と同行させてもらうことにした。

冒険者登録もしていないのに、冒険者ムーブをしているなあ……テンションが上がる!!



・・☆・・



「イイ天気ダネ~」


「ぽかぽか!おやびん、ぽかぽか~」


 ガラッドを出発してから数時間くらい。

お日様はポカポカで、それによって温められた毛皮もポカポカである。

ドラウドさんと並んで御者台に座ったボクの肩には、その暖かさを全身で堪能しているアカがいる。

平和だ……


「なんとも……いい陽気で……やんすぅ……」


 面積の問題で荷台に乗っているロロン。

差し込むポカポカにやられ、振動に合わせてメトロノームみたいに揺れている。

平和だ……


「ははは、ここいらは『赤錆』がキッチリ掃除してくれたからなァ。平和なもんだ」


 ドラウドさんもちょっと眠そう。

へえ、赤錆……ボクはアロンゾさんとオリガさんしか見てないけど、どれくらいの規模で来てくれたんだろ。


「アノ、援軍ノ規模ッテ?」


「ん?おお……俺っちも詳しくは知らねえけど確か……100人規模、だったな?」


 結構来てた!


「『斬鉄』のアロンゾ、『豪嵐』のオリガ、それに『雷神』アファーマの揃い踏みだ。たとえその3人だけでも問題にならんかったろうさ!たまたま近くにいてよかったよなあ!」


 ……その中の2人をよく知ってるんですけど!?

えええ……そんな、カッコいいあだ名が付いてる感じの有名人だったんだあ……


「そんなことよりよ、お前さんも大活躍したらしいじゃねえか?」


「ヘェ?」


 なにかしたっけ……ああ、下水道のアレかあ。


「まさか街の下にオオドブネズミモドキがいたなんてなあ……ぞっとするぜ」


 その呼び方面倒臭くない?

ボクはこの先もモドキで統一するよ、絶対に。


『あら、ですがこの世界にはモドキの名前が付く魔物は多いですよ?オオグソクムカデモドキ、リククジラモドキ、ランドボルボクスモドキ、トールトレントモドキ……』


 ぴぎいいいいいいい!!

やっぱり図鑑作った奴出て来い!出てこーい!!


「……デ、今日ハドコマデ?」


「ああ、例の遺跡までは到着しておきてえ。赤錆はもう昨日出発しちまったが、今は遺跡に潜って調べてるハズだ……アンタらも頼もしいが、こういうのは傭兵団の後ろをついてくのが一番安全だからよ、へへへ」


 なるほどねえ。

無料の大規模ボディガードみたいなもんかー。

遺跡の調査ねえ、ダンジョンアタックじゃん!

ファンタジーしてるなあ。


「今は壊滅したとは言え、遺跡の近くには村があったしな。野営場所にも苦労しねえ」


「ソウイエバ、ソウデシタネ……村人ハ?」


 遺跡から溢れたコボルトが殺到したんだよね……大丈夫なんかな。


「あそこは冒険者と予備兵しか住んでねえよ。全員逃げ出して無事さ」


「ホエー……」


 マジか。


『遺跡攻略の最前線でしょうしね。非戦闘員はいても少ないでしょう』


 あ、そういうことねえ。

遺跡攻略か~……浪漫!!


『暇な時に地球のサブカルチャーを調べてみましたが……この世界の遺跡には転移魔法陣やエレベーターのような施設はありませんよ?もちろん、魔物が無限に湧くこともありませんし、わかりやすい宝箱やボスフロア等も』


 トモさん無茶苦茶詳しくなってるじゃん!?

でも……そっか、ないのか。


『過去の遺跡ですから。前にも言ったように貴重な物品などはあると思いますが……基本的には古代遺跡ですよ』


 なるほど、リアル志向か!

考えてみれば、魔物無限湧きのダンジョンなんか怖すぎるもんね。

スタンピードが毎日起きそう。


「まあとにかく、今日と明日は何もねえだろ。それから先は赤錆の手は及んでねえからな、魔物が出るならそれからだ」


 よし、しっかり気を引き締めるか。


「んみゅう……んみゅう……」「んなぁ~……むにゃぁ~……」


 気が付いたらアカとロロンが揃って寝てる!?


「ス、スイマセン」


「いいんだよ、気にすんな。『子供は寝て育つ』って言うしな」


 異世界ことわざかあ、どこの世界にもあるもんだねえ。

まあ、依頼主がいいなら、いいかな?

その分ボクが頑張ればいいし。


「アカちゃんは見りゃわかるし、ロロンもまだ子供だろ?アンタも大変だなあ……親分さんよ」


「ハ、ハハハ……」


 すいません、ボクもどっちかといえば子供よりなんすけどね。

生後一年未満ですし?


「子供の寝顔はいいよなあ……俺っちも早く会いてえよ」


「ア、ドラウドサン、子供イルンデスネ」


 声からしたらおじさんだけど、顔は見えないからしっかりした年齢はわかんないんだよね。

子持ちさんかあ。


「『ラバンシ』に住んでんだよ。そこを起点に行商してんだ……今回は帝国まで足を伸ばしたからなあ、かれこれ3か月は旅暮らしさ」


 行商も大変だなあ。

地球で言う所の長距離ドライバー、いや遠洋漁業って感じかなあ?


「大変デスネエ。チナミニ何人ホド?」


「おう、12人だな。一番上なんかこの前、『親父と一緒に行商やりたい』なんて言ってたんだよなあ~?ハッハッハ!」


「……大家族デスネエ、イイナア」


 12人の子供と奥さんを養っているのか……!

す、凄い人だ、この人は!!

僕なんかよりもよっぽど立派な『おやびん』じゃないか!!

尊敬するなあ、男として!!

……ボクの性別はいまだにはっきりしないけど!!


「いいぜえ!家族はよお!」


「ギャルゥ!」


「おっ、おめえにもそろそろいいダンナを見繕ってやらんとなあ!ハハハ!!」


 相槌を打つように鳴いた走竜く……ちゃん!

キミ、メスだったのか!?


『走竜は一般的にメスの方が大きく、力もありますのでこういう仕事に向きます』


 ……ちなみにオスは?ヒモとかじゃないよね?


『オスは騎獣……軍馬と同じような扱いですね。動きが速いので、冒険者や傭兵に重宝されていますよ』


 ほほーう。

よかった、オスもちゃんと頑張ってるんだなあ。


『ちなみにですが、走竜は一生同じ相手としか子供を作りません。ドラウドさんが見繕うと言ったでしょう?自分の所有する走竜に最高の相手を見つける……それが、飼い主の大目標になっているケースも多いのですよ』


 せ、責任重大だ……!!

異世界ではペットの婚活も大変だろうねえ……でも、じゃあ名前くらいは付けてあげようよ、ドラウドさん。

可愛がってはいるようだけどさ……


「ギャウ!ギャウ!!」


「おいおい、旦那の話になったら急に元気になりやがったな……ハハハ!わかった、わかったよ!」


 未来の旦那さんを思ってやる気になったのか。

ぐん、と加速した走竜の勢いに……ボクは危うく振り落とされそうになるのだった。


「わひゃ~!?」


 どうやらロロンはまた綺麗に転がったらしい。

頭とか打ってないといいんだけど。



・・☆・・



「ムーク様!ドラウドさん!何から何までワダスにお任せを!!」


「ハイ……」「おう……」


 半壊した、小規模な村の跡地。

夕暮れにさしかかるかな~?ってくらいの時間に、ボクらは到着した。

道中は平和そのもので、魔物のまの字も出ないくらいだった。

一回だけ道端に蛇が出てきたくらい。


 で、到着したんだけど……ロロンが、道中に寝てしまったのを無茶苦茶気に病んでいたんだよね。

気にしなくていいし、変な気配でもあれば起こすから大丈夫だよなんてフォローしたんだけど……

頑固だからなあ、ロロン。

いい子だけど。


「はい、どうぞ、どうぞぉ」


 もう1人スヤスヤ寝ていたアカ。

彼女はいつも通りに、牧草を抱えて走竜に餌付けしている。

走竜はアカのことを気に入ったようで、もりもりと機嫌よく草を頬張っている。


「竈クライ……」


「――お構いなぐ!!お任せくだしゃっさい!!」


「ハイ……」


 凄い迫力だ……


「まあ、なんだな……あの子はいい嫁さんになるな、ウン」


 懐からパイプを取り出したドラウドさん。

指先から小さい炎を出現させ、ゆっくりと煙を楽しみだした。

魔法使えるんですね……


「こういう場面じゃ、男ってのはできることねえしな……やるかい?」


「ア、結構デス……ソノ、種族的ナアレデ」


「ああ、虫人だもんなあ……」


 いえ、本当は生後一年未満だからです。

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