第18話 ダンジョンまで徒歩約15分、壊滅済み物件。


「しぇば、どんぞ!」


「オオ~……」


 目の前に、どんっとお出しされた深皿。

そこには、具沢山のスープが入っている。

野菜もお肉もゴロゴロ入った、シチューのようなものだ。


「井戸がまだ使えたのがえがったのす!」


「おいしそ!おいしそぉ!」


 ドヤ顔のロロンが胸を張って、アカは喜びの舞いの真っ最中だ。


「こいつはたまげた。専属の護衛にしてえぐらいだな……ほれ、パンだ」


 ドラウドさんは、見るからに硬そうなパンを提供してくれた。

スープに浸して柔らかくして食べるんだね、街で出るパンは大体これだったなあ。

ちょっと酸味があるけど、歯ごたえがあって美味しいんだ。


 ちなみに、この護衛のお給料は400ガル。

道中の食事は、ドラウドさんの商品を使ってみんなで食べる。

控えめに言って、無茶苦茶恵まれている。

まあ、お肉に関してはボクのポーチからも提供するけどね。

腐っちゃうし。


 護衛料金が初めの時よりも高いのは、目的地が遠いからだ。


「イタダキマス」「いただきやんす!」「いたらき、ましゅ!」


「ソイツは虫人の風習か?聞き馴れねえ文句だなあ……テリファスよ、日々の糧に感謝を」


 ボクからすればドラウドさんの方が効き馴れないけどね~?

異世界いただきます、なかなか多種多様で面白い!


『ドラウドさんは商売神テリファス様の信徒ですね。気さくでとてもよい方ですよ』


 親戚みたいなコメントだね……

神様との距離感がバグっちゃう。

今更だけど。

神様の神託、なんてこと……地球なら大変なことだけど、ボクは四六時中神託受けてるようなもんだし。


「はも、むぐ、おいし!おいしぃ!」


 アカはなんでも食べられていい子だなあ。

この子が不味いって言うとこ見たことないや。


 ボクも食べよっと。

スープをズズズ……いろんな味がして美味しい!美味しい!!


「ウマウマ」


「野営でこんなに美味いもん食えるたあなあ……コレだけで護衛に雇った価値があるってもんだ、がはは」


 雇い主にも高評価である。

いやほんと、よかったよかったよ。


「ロロン様様ダナア、アリガタヤ~……」「ありがたやぁ~!」


「みゃあっ!?も、ももももっだいね……もっだいね……」


 ロロンは赤くなってパンをそのまま齧っている。

丈夫な歯だなあ、バキバキ音がしてる。

教会で出たお茶菓子もそうだったけど、獣人さんはみんな歯がいいんだろうねえ。



「けぷぅ……」


 温かくて美味しい最高の夕食だった。

アカは、お腹をまんまるに膨らませて走竜の上で寝ていた。

微笑ましい光景だったね……異世界カメラが欲しいところだ。


 ボクは、今晩の寝床にできそうな廃屋を探している。


 ここはつい最近まで村だったから、小規模とはいえ結構家がある。

あるんだけど、コボルト津波の影響でボロボロなんだよね。

屋根が落ちたり、壁に穴が空いたり……それどころか家がぺしゃんこになってるのも多い。


 さっき夕焼けも見たし、明日も晴れるんだろうから屋根は優先度低めだけど……壁はちゃんとしている家で寝たい。

といわけで、周囲を探索してるってわけ。

いいおうちないかな~?


『ドラウドさんが言ったように、ここの住人達はすぐに避難したようですね。スタンピードに対して下手に籠城すると家が軒並み粉々になりますから』


 怖いなあ、スタンピード。

ガラッドみたいにしっかりした城壁がないといけないんだな。

まあ、あっても力技で突破されたワケなんですけども。


『スタンピードはそうそう起こるものではないですからね……運が悪かった、としか言いようがありません』


 いやあ、異世界も世知辛いんだねえ。


「ムーク様ぁ、どちらにおいででやんすか~?」


 あ、ロロンだ。


「コッチコッチ」


 声をかけると、半壊した壁の向こうからひょいっと顔を出すロロン。


「ドシタノ?」


「こちらでやんしたか、お客様でがんす」


 お客さん?

ボク、この世界で極めて知り合いが少ないんだけど……誰だろう。

なんとなくわかってるけどさ。



「よお、奇遇だなあ」


 やっぱり、アロンゾさんだった。

赤錆がこの遺跡を調査してるって聞いてたしね。


 ドラウドさんとご飯を食べた広場の近くに……アロンゾさんと、10人ほどの傭兵さん達がいる。

ボクが家を探している間に戻ってきたようだ。

当たり前だけど、皆さんは全員強そう。

鎧をバッチリ着込み、思い思いの武器で武装している。


「コンバンワ、調査デスカ?」


「ああ、くじ引きで当たっちまってな……遺跡の中にゃあまだ生き残りがいやがるしよ、面倒だ」


 木箱に腰を下ろし、頭をかくアロンゾさん。

くじ引き……なんか決め方が面白いな。


「オリガサンハ、ココニイナインデスカ?」


「姐さんは帝国方面に行ったよ。あっちで仕事があったんでな……俺もそっちの方がよかったぜ、ダンジョンは暗いし狭いし、性に合わねえんだ」


 人には向き不向きがあるって言うしねえ。

ボクとしては謎のダンジョンの方が気になるけどね!


「ソレデ、ナンノ御用デス?」


「ああ、そうだったな……ムークさんよ、ちょいと小遣いを稼がねえか?」


 小遣い、とな?


「まあ座りなよ」


 首をかしげていると、木箱を勧められる。

座ると、金属製のコップを差し出された。

この匂い……ケマか。

有難くいただこう。


「実はよ、今調べてるダンジョンなんだが……さっき言った通り生き残りが多くってな。本隊に応援を頼むことになったんだ」


 ほほう。


「それでよ、アンタらは腕も確かだし……応援が来るまで少し助太刀して欲しいんだよ。勿論給金も払うし、いい遺物が出りゃあ山分けにする」


 ほほう!!

ダンジョンアタック!!

興味はある。

ものすごーくある!

でも……


「ボクラハ、ドラウドサンニ雇ワレテイル身ナノデ……」


 やるやるー!とは簡単に言えないんだ。

契約は大事!!


「おう、それについちゃ問題ねえよ。なあドラウドさん!」


 暗がりから、ぬっとドラウドさんが出てくる。

うわびっくりした。


「ああ、ここで3日ばかり調査に付き合ったらラバンシまで一緒に行ってくれるって言うもんでな。ここで傭兵相手に商売しつつ待たせてもらうよ、おっつけ逃げた連中も何割か戻ってくるだろうしよ」


 あ、なるほど。

そりゃあそうだよね、雇い主を飛び越えてボクに話がくるわけないか~。


「で、どうだい?」


 お膳立てが整ってるんなら、ボクに文句はない。


「(ムーク様ァ!)」「オワワ」 

 

 ロロンがボクの手を引き……目を、それはもうギラギラさせている。

目は口ほどにモノを言う……これがそうかあ。

『無茶苦茶行きたいです!デス!』って感じ。


「ヨロシク、オ願イシマス」


 まあ、ボクとしても許可が出たなら断る気はないけども。

ウヒョー!ダンジョンだ、ダンジョン!!


「おおそうか、ありがてえ!今は1人でも戦力が欲しかったんだよ、ハハハ!!」


「ウグググ」


 肩を!肩をバンバン叩きすぎですよ!?

平手なのになんちゅう衝撃じゃい!肩が爆発しちゃう!!


「ワダスも一層!戦働きいたしやんす!!」


 おお、ロロンが燃えている。

やる気は十分だね……


「そうと決まれば今日の所はとっとと寝ちまおう!おうお前ら、明日は朝から潜るぞ!酒は無しだ!!」


 うぇええ~?みたいな悲鳴が上がった。

みんな飲みたいんだね……ボクにはよくわかんないや。


「ムーク様、ムーク様!こちらも寝床の準備でやんす!ささ!さあさあ!」


「ハ、ハイハイ……」


 ギラギラした目のロロンに促され、早々と眠りにつくことにした。

ちなみに寝床は荷車になった。

ドラウドさんが提供してくれたんだよ……じゃあ、ボクの苦労は一体……うごごごご……



・・☆・・



「おーし!装備の確認は終わったな!?行くぞ野郎ども!!」


「「「オー!!」」」


 翌朝。

日が昇る頃に起床し、身支度を整え……ボクらは赤錆の一団に続いて村を出発した。

オフの時はちょっとダラ~ッとしていた皆さんだけど、今朝はキビキビとしていて油断はない。

これが実力派傭兵団かあ、すごいや。


「準備は万端でやんす!ささ、行ぎやんしょ!!」


 骨槍を振り上げ、ロロンもやる気満々だ。

ボクもしっかりしなきゃ。


「むにゅ……あさぁ?」


 肩の上で寝息を立てていたアカはいつも通りだけどね。

この平常心も見習いたい、とても!



「さ、ここが入口だ」「オオオ……」


 歩くことしばし。

村からほど近い小高い丘。

そこの側面に、大きい穴が空いている。

入口の周囲は、いつかあの森で見たように石組みで補強されていた。


「これから潜るワケだが、ムークさんたちは俺の組に入ってもらう」


 そういうアロンゾさんの周囲には、3人の獣人さんがいた。

ぜ、全員ボクよりも背が高い……圧倒的!身長格差!!

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