第19話 アタック・ザ・ダンジョン!!



「ムークデス」「アカ、でしゅ!」「ロロンと申しやんす!」


 アロンゾさんに紹介された、3人の傭兵さん。

彼らに向って、ボクらは自己紹介した。


「腕っこきだって聞いてるよ、よろしくね。ボクはロイド」


 まずは向かって右端、ゴールデンレトリバーみたいな犬の獣人さんがそう言った。

優しそうだし、実際声もとっても優しい。

……でも一番ムキムキだし、とんでもない大きさの盾を持ってる。

なにあれ、ドアの親戚?

武器は、ロロンと同じような骨っぽい槍。

じゃあ、片手でアレを持つの……ヒェエ……


「……バリトンだ、よろしく」


 続いての1人。

黒くて重そうな鎧を着て、両腰には斧を吊っている。

斧二刀流……!すごいや!!

声も渋くて、まさに歴戦の傭兵さんって感じ!!

顔は兜で見えないけど、たぶん熊の獣人さんとかじゃない?


「アタシはパライ。援護は任せてね」


 最後の1人は女性。

体の急所だけを金属の板で覆い、その他は革鎧だ。

この人はアレだね、猫……ロシアンブルーっぽい獣人さんだ。

まんまるの目が可愛らしい……けどボクより背が高い……

武器は、背中に背負った大きいクロスボウだ。

矢筒にはぎっしりと矢が詰まっている。


 バランスの取れた3人だね。

アロンゾさんとバリトンさんが前衛で、ロイドさんがタンク役?

そしてパライさんが後衛って感じか~。


「このメンバーで潜る。残りは後詰と浅い場所の調査だな、いいか?」


「ハイ」


 ボクはダンジョン初心者なので、指示には絶対従おう。


「よし、ムークさんたちは俺達について来てくれ。何かあれば、その都度指示を出す」


「了解デス」「あーいっ!」「わがりやんした!」


 それぞれ返事を返す。

邪魔だけはしないようにしないとねえ。


「よし、出発だ!」


 アロンゾさんの号令に続き、ボクらは足を進めた。



・・☆・・



「ムークさんも光石を持ってたか、準備がいいな」


「タマタマデス、タマタマ」


 アロンゾさんの腰のあたりに、魔法具が釣られている。

ロドリンド商会で見た、ランタンのやつによく似ているね。


 ボクの光玉は、アカが胴体に巻き付けている。

これで、ボクらの周囲はかなり明るく照らされている。


「さて……このダンジョンはな、入り口から3方向に分かれてる。右側は別の組が調査に、左はすぐの所で崩落してる……俺らは、真っ直ぐ奥に向かって進むってワケだ」


 ほうほう、わかりやす……くっさ!?!?

奥の方から、風に乗って血生臭さと動物園臭が襲い掛かってくる。

そうこうしていると、照らされた範囲に……コボルトの死体が浮かび上がってきた。


「ホラな?スタンピードに参加しなかったコボルト連中が結構残ってんだよ。奥に行けば行くほど増えてな……まだまだ先は長いし、暗いしでよ……」


 昨日言ってたように、アロンゾさんは本当にダンジョンが嫌いみたい。

心底うんざりした顔をしている。


「ここ、どれぐらい深いんでやんすか?」


「踏破したって話は聞かないのよ。特に貴重な遺物も鉱石もそれほど出ないし、これまではコボルトも多くなかったしね……あの村に常駐していた冒険者が定期的に間引いているって感じの、しょぼくれたダンジョンだったんだけど……」


 後ろの方で、ロロンがパライさんと話している。

ふむふむ、それは変だな。


「そうなんだよねえ、なんで急にこんなに増えたんだか……」


 ロイドさんも同意している。


「ここへ来ての2日で大分減らしたんだが、どうにもまだ奥が深ぇんだ。今日は半日前進して帰還する」


 へえ、そんなにきっちりしてるのか。

あ、でも……


「時間ハ、ドウヤッテ確認スルンデス?」


「ああ、コレよコレ」


 パライさんがボクに向って左手を持ち上げた。

そこには、革のバンドで止められた小さな砂時計がある。


「『時砂』っていう魔法具なの。1日を大まかに測れるってわけ」


 へええ~……どういう仕組みなんだろ!?

やっぱり魔法の力なのかな?


『そうですね、説明が少し難しいのでこの場ではそう思っておいてください。ちなみに平均的なお値段は4000ガル前後です』


 お高い!?

やっぱり魔法具ってお高いなあ……


「あ」


 ボクに話していたパライさんが目を細め、素早くクロスボウを前方に向けて構えた。

え、何も見えないんだけど……?

暗視とか使えるのかな、パライさん。


「来たか、どんな具合だ?」


「数8、全部コボルト、武器は剣と槍……撃つ?」


「ああ、頼む」


 アロンゾさんが指示を出した瞬間、矢が放たれた。

矢が暗がりに消えてすぐ、遠くで悲鳴。

それが聞こえた時には、もう装填が終わった第2射が飛ぶ。

は、はっや……!


 悲鳴、発射、悲鳴、発射、悲鳴。

まるで機械のように正確に、矢は放たれている。


「残り4、走り出したわ」


「よし、そこまで。ロイド、前」「はいよ~」


 がちゃん、と盾を鳴らしたロイドさんが最前列に。

右手で盾を持ち、前方に構えた。


「ギャン!」「ルオオオ!!」


 しばらくすると、奥の方からコボルトの声と足音が響いてきた。

他の人は特に動く様子はない。


「ワオ――」


 初めの1匹が、闇から出てきた瞬間。


「――っふ!!」


 鋭く踏み込んだロイドさんが、盾を前に突き出す。

走り込んだコボルトは盾に嫌な音を立てて激突し、そのまま奥の方へ吹き飛ばされた。

一瞬見えたけど、顔の厚みが半分以下になってる……ヒェエ。


「ほい、ほい、ほいっと」「ッベ!?」「ッギャ!?」「ギャヒッ!?」


 そして次。

ロイドさんは巨大な盾を――まるで棒切れみたいに振り回した。

首がもげ、頭が縦に潰れ、胸を潰されたコボルトたちは、もちろん即死。

……とんでもない早業だよ、この人の筋力どうなってんの?


「あーあ、面倒臭い。数だけは多いんだもん……魔石取る?」


「帰りにな。今は進む」


「了~解」


 散歩に行きますよ~くらいの気軽さで、皆さんは奥へ向かっての移動を再開した。

……ボクら、いる?



・・☆・・



「左右に展開、周辺に気を配れ」


 パライさんが機械的に狙撃し、特にかわいそうでもないコボルトを成仏させながら進んだ。

そうしてしばらく歩くと、急に広い空間に出た。

照明が照らしきれないくらい広い……足音の反響からもかなり広い空間っぽいや。


『かつては大広間のような空間だったのでしょうね』


 ほむり。

ダンジョンは昔の遺跡だったって言うもんね。

元々の建物が気になるねえ。

こんな広くて長い地下空間、何のために使っていたんだろうか。

トモさんって神様なんでしょ?過去に何があったのか……そこらへん知ってる?


『申し訳ありませんがお教えできません』


 あっふーん……(察し)

じゃあ聞かなくてもいいや!


「すんすん……ムーク様、お気をつけを。妙な臭いがしやんす」


「了解」『アカ、上で注意しといてね』


『あいっ』


 ロロンの勘と鼻は今まで外れたことがないからね。

魔力、充填開始……!


 アロンゾさんたちも、それぞれの武器を一斉に構える。

邪魔にならないように立ち回らないと……お?


「左斜メ前!撃チマス!!」


 暗闇の中で何かが光ったので、そこへ向かって衝撃波を撃ち込んだ。


「――ァガ!?!?」


 衝突音と、悲鳴、そして何かが倒れる音。

よーしよし!……だけど今の声、コボルトじゃなかったような……?


「パライ!照明!」「はいはい」


 後方から、パライさんが何かを放り投げた。

ソフトボールくらいのそれは、放物線を描いて闇の中に。


「ムークさん達、目を閉じて! 3、2、1……今!」


 ぱりん、とガラスが割れたような音。

合図に合わせて閉じためを開けると……おお!明るい!

アレは手投げ式の照明弾みたいな感じだったのか――ふぁああああ!?!?


「嫌な予感はしてたがな、畜生!全員構えろ!来るぞォ!!」


 アロンゾさんが少し焦って吠える。

照明弾で照らされた空間には――見たことのない魔物が、少なくとも10体はいる!!

ちょっとコボルトに似ている感じだけど……やっぱり違う!!


 ――だってさあ!でっかいもん!!

あいつら2メートル以上あるもん!!


「『母体』か」


「間引きを恐れて奥に引っ込んでたんだね。随分頭が回る……『子供』が軒並み死んだんだから、空気読んで死んどいてよ」


 斧を両手に構えたバリトンさんに、うんざりした様子で返すロイドさん。

母体?え、何あの連中全部メスなの!?


『そうです、コボルトは一度の妊娠で20から30の子供を産みます。元々メスの方が大きい種族ですよ』


 産み過ぎ!?少子高齢化とは無縁の種族だァ!!

いや、でも今までボクあんなでっかいコボルト見たことないんだけど!森でも!


『コボルトのメスは人生の大半を巣で過ごすので、表に出てくることが稀なのです』


 あー……そうなん?じゃああんまり強くな……いわけないじゃん!

あんなでっかいのに!!


『はい、油断しない。来ますよ!』


 ひぎい!

こんなんばっかだ!ボクの虫生!!

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