第20話 母は強し……いやいや、強すぎ。
「ハルルルル……!!」「グオルルル……!!」「ウゥウウウ……!!」
謎照明弾によって照らされた広い空間。
そこには、コボルトのメスがひしめいてこちらを睨んだり唸ったりしている。
……あ、ボクの衝撃波が直撃した個体がむっちゃ元気そうに起きた。
ぜんっぜん効いた様子がない……!
こんなんばっかりだよ!もう!!
「……ランド、下がって迎え撃つぞ」
「はいよ」
ここはちょっと広すぎる。
一斉に来られたら大変だもんね。
「ムークさんよ、さっきの魔法……合図したら正面にブチ込んでくれ。それを機に一斉に下がる」
「ハイ……!」
出し惜しみは無しだ。
ありったけぶち込んでやるぞお……ボクだってそこそこ強くなったはずなんだ。
ちょっとくらい大きいコボルトだからって、調子に乗ってんじゃないよォ!!
精神を集中。
お腹の下から発生した魔力を、額に!
触角の先端から魔力をギュッと凝縮して放つ、そんなイメージ!!
むん……むん、むん、むん!!
魔力が湧き、触角に集まる。
震える触角に、ヒビが入り始めた。
「――やれェ!!」
――オーバーチャージ衝撃波、発射ァア!!
かおん、と硬質的な音。
同時に、ボクの体が反動で後ろへ跳ぶ。
「――ッゲ!?!?」
現状最高峰の威力で放たれた衝撃波は、コボルトの顔面に着弾。
口から露出していた牙が残らず折れ、鼻面が折れ曲がった。
そして、そいつは血を吐きながら吹き飛ぶ。
「――やぁっ!!」
アカも、ほぼ同時に雷撃魔法。
吹き飛んだコボルトに空中で直撃。
まるで避雷針になったみたいに、ソイツを中心に周囲へ稲妻が拡散。
「ギャ!?」「ォガ!?」「ッギ!?」
3匹を巻き込んで、動きを阻害する。
「後退!後退!でかしたぜ、ムークさん、アカちゃん!!」
ボクは反動に逆らわず、アカと一緒に後方へ跳んでいる。
すぐ前に、骨槍を構えたロロンが続いている。
動きが速いね!
「オーム・ラオ・フウド・スヴァーハ!」
駄目押しのつもりか、ロロンの槍先から細かい石の刃が飛んでいく。
威力よりも足止めを重視した感じね!
「ガアアアアアッ!!」
無事だったコボルトたちが、一斉に動き始めた。
でも、アロンゾさんたちは無駄なく後退をしている。
ランドさんだけ後ろ走りだけど、なんて速度だ!
そうこうするうちに、広場の入口まで撤退が完了した。
通路の幅は3~4メートルくらいだから、さっきよりは戦いやすいだろうね。
「ロイドッ!受けて押せッ!!」「応よ!!」
最前列に残ったロイドさんが、盾を両手で持って――へぇえ!?盾が3倍くらいの面積に膨らんだよ!?
「おうっ――!!」
追いついたコボルトたちが、その盾に突撃。
だけど、ロイドさんは3匹同時の突撃を受け止めて――
「――りゃああああああああっ!!!!」
勢いを付けて、押し返した。
すっごーい!古代ローマ時代のムキムキ盾兵みたい!!
「しゃがめ!」
押し返したロイドさんの後ろに、バリトンさんが立つ。
「――ヌンッ!!!!」
ロイドさんがしゃがむと同時に、バリトンさんは左手に持った斧を――投げた!!
恐ろしい音を立てて回転している斧の刃が、今しがた吹き飛ばされたコボルト1匹の額に食い込んだ。
うわわ、半分くらい割れてる!頭!!
「――フンッ!!!!」
バリトンさんはもう1方の斧も投擲。
横向きで回転した斧は、別のコボルトの喉に直撃。
こっちも半分以上食い込んだ。
す、すごい!でも思い切りのいい使い方だなあ。
予備の斧とか持ってないでしょ?
「――戻す!」
と、思ったんだけど。
バリトンさんは両手をばっと伸ばすと、掌から斧に向けて糸のように魔力が走って――引くような動作をした。
血の糸を引きながら、2本の斧が逆再生みたいに両手に戻っていく!?
あっという間に、斧はバリトンさんの元へ。
さっきのロイドさんといい、この人たちの武器ってすごいや!
「ロイド!」「はいはいっ!」
アロンゾさんの指示に、またロイドさんを盾を構える。
2匹の同族を失っても、コボルトたちはやる気満々。
再び、吠えながら突っ込んできた。
「ぁよい――しょぉッ!!」
またもロイドさんは防御。
掛け声は面白いけど、インパクトの瞬間にとんでもない音がした。
「どっせい!!」
そして、再びの突き放し。
群がっていた3匹のコボルトが、体勢を崩してたたらをふむ。
「そのままァ!!」
アロンゾさんがそう言い、ジャンプ。
斜めの軌道で壁を蹴り付け、三角跳び!
へっ!?
空中で振り上げた剣が――バラけた!?
「らっあぁあああ!!」
魔力の糸で繋がった剣の破片が、鞭みたいに振り回された。
目で追えないくらい速いその一連の斬撃は、3匹のうち2匹を切りつける。
2匹とも、まず目を潰されて――翻った剣先が喉を薙いだ。
「っち、届かねえ――パライッ!!」「あいよ」
そして残った1匹の額には、パライさんが放った矢が根元までめり込んだ。
うめき声を上げ、3匹はその場に崩れ落ちる。
「……じゃじゃじゃ」「スッゴ……」
ボクとロロンは、彼らの鮮やかすぎる連携にそう呟くしかできなかったのだった。
あ、赤錆……強すぎ。
「――グルオオオオオオオオオオン!!!!」
だけど、まだ残ってる!
こちらの勢いに足を止めたコボルトの……後ろにいた1匹が吠え、猛然と走り出した!
なんか……なんか違わない?アレ!?
遠近法の関係かな?一回りくらい大きく見えるんだけど!?
タダでさえ大きいのに!?
「ヤベえ!マジか!? パライ!!虎の子ぶち込めッ!!」
「はい――よっ!!」
それを見たアロンゾさんは焦った声を上げ――パライさんは、さっきまでとは違う銀色の矢を装填。
そのまま、瞬時に放った。
『――むっくん!棘をッ!!』
トモさんの声に、半分反射的に右腕を向けて棘を発射した。
「むぎゅん!?」
ああ、ゴメンロロン!?後ろにいたんだ!?
ともかく、ボクの放った棘は銀色の矢を追うように飛んだ。
そして、向かう先のコボルトは――なんと、飛んでる矢を掴んだ!?
とんでもない動体視力だ!?
だけど――
「――ギャンッ!?!?」
遅れて到達した棘が、首元に浅く突き刺さった。
浅くゥ!?
アイツ、オオムシクイドリよりも硬いのか!?
「ありがと、ムークさん!【弾けろ】ォ!!」
パライさんが声に魔力を乗せた感じで叫び――銀色の矢は、コボルトが握ったまま爆発した。
ウワー!?!?眩しい!?!?
閃光と爆風が過ぎ去って目を開けた時には……もうそこには何もいなかった。
血と、肉片が地面に散らばっている。
「……スゴイ!消シ飛ンダ!!」
虎の子って言うだけあって凄い威力!
爆弾付きの矢なんて、地球にも負けてない兵器じゃないか!!
「……違う、逃げやがった」
アロンゾさんが、忌々しそうに呟いた。
……へ?逃げた?
嘘でしょ、握ってからそんな時間なかったよ?
「他の奴らは片付けられたが……参ったな、まさか【エンシェント】が出やがるとは」
アロンゾさんは、そう言いながら前に出ていく。
バリトンさん、ロイドさんも続く。
確かに周囲には、コボルトの成れの果てが転がってるけど……あのでっかいのはいないや。
えんしぇんと?
『年を経た魔物の総称ですね。【エンシェント・コボルト】というのが先程の魔物の正体です』
あ、前にグリフォンがどうとか言ってたね、たしか。
「えらいことでがんす、ムーク様」
ロロンがボクのマントを掴んでいる。
その顔には冷や汗が浮かび、顔色は悪い。
そ、そんなにヤバい魔物なんですか?
『ええ、それはもう。赤錆の彼らは強者ですが……その強者が死を覚悟して立ち向かうのがエンシェント種です』
ひええ……
と、とりあえずアロンゾさんたちを追いかけよう。
「まさか、こげな所でエンシェントに出くわすとは……う、腕が鳴りやんす、ね」
威勢がいい発言だけど、ロロンの顔はまだ青い。
それほどヤバい相手なんだね、あのコボルト。
「ハッハッハ、オヤビンニ任セナサイ。ロロンニモ、アカニモ、指1本触レサセヤシナイヨ」
かすかに震えるロロンの頭を撫でる。
ついでに、肩に乗っていたアカも。
「わ、わわわ……」「えへへぇ、えへぇ」
そうだ、ボクは親分。
相手がいくら強そうだって、子分を不安にさせちゃいけないよねえ。
『それでこそむっくんです、ふふふ』
そうですよ!ボクは立派なおやびんムーブをしないといけないので!
「やっぱりね、奥へ逃げてる。コレ見て、アロンゾ」
パライさんが地面を指でなぞっている。
そこには、血痕と……焼け焦げた毛皮、そして2本の指が落ちていた。
あの爆発で、指2本しかダメージ受けてないんだ……
「こりゃあ……面倒になりそうだな。他のメスどもの魔石を回収したら、一旦退くぞ」
アロンゾさんは参ったね……と呟いて肩を回した。
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