第37話 洞窟は、暗くて狭くてその上臭い!

「ここよぉ」


「ウゲ……」「んんん……」「ふにゅ……」


 何度かゴブリンと遭遇し、問題なく蹴散らしつつ山を越えた。

お昼ご飯の時間かな、なんてお腹の具合で判断しつつあった頃……ボクらは今回の依頼の目的地へと到着した。


 小さな山と山の間の、谷。

薄暗く、肌寒いように感じるそこに……洞窟はあった。

あったんだけど……


「くしゃい!くしゃぁい!!」


 今まさに鼻をつまんだアカが言うように……くっさい!

洞窟の入口から、こちらに向かって風と一緒に悪臭がガンッガン流れてくる!!


「はううぅう……」


 ロロンは素早く懐からタオルを取り出し、顔に巻いた。

鼻がいい獣人は辛いよねえ……


 し、しかしこの臭いは……間違いない!

懐かしきクソデカ森林で!芋虫時代に散々嗅いだ臭い……!!

生き物が腐った臭いだ!!


『――なるほど、ここにいるのはアンデッド……ゾンビですね』


 ゾンビ!ゾンビだ!!

日本、いや世界の一部で絶大な人気を誇っていたモンスター界のスター選手!

こんな所でお目にかかるとは……!!


「ハイアカ、ドウゾ」


「くしゃぁあい……むいむいむい……」


 小さなハンカチ大の布を渡す。

アカはすぐさまそれを装着した。


「この中よぉ、一番奥に捕まってるわぁ」


 臭いが気にならないのか、ラーヤは悠然としている。

……いや違う!体の周辺に魔力を纏ってる!

あれで悪臭を散らしてるのかな?

ボクにもできるかも……むんむんmくっさい!?!?

悪臭が渦巻いてるだけだコレェ!?

慣れないことはするもんじゃないなぁ……


「ジャ、行コウカ……!」


 首から下げた光玉に魔力を流す。

ぼわ、と光が発生した。


「むむむもごご」


 たぶん『お供しやんす』って言ってるのかな?

こういう時に念話が使えたらなあ……って思うけど、生えてないのよねソレ。


「あいっ!」


「ごめんねぇ、いってらっしゃぁい」


 涙目で肩にしがみつくアカの頭を撫で、ラーヤの激励を背に……気合を込めて足を踏み出した。

うぐぐ、バッドスメル……!!



・・☆・・



 洞窟は、前に潜ったダンジョンくらいの横幅だった。

ここに至るまで5分ほど歩いてきたけど……ゆるーく下方向に下りている感覚がある。

かなり大規模な感じだ。

今の所、分かれ道が無いのが救いだね。


「慣レタ」


 臭いは臭いけど、しばらく歩いていると慣れてきた。

というか、ボクの鼻って悪臭シャットダウン機能的なやーつが付いてる気がする。

気のせいかもしんないけど。


『全くの無臭にすると索敵で不便ですからね、そこは少し嗅覚をいじりました』


 気のせいじゃなかった!

ありがとう女神様!愛してる!!


『ふふふ、どういたしまして――来ますよ、正面!』


 おおっと、お出ましか!

さて、いったいどんなゾンビが出てくるのかな……?

オーソドックスな歩くタイプかな?それとも走るやーつかな?

まあいい、肉体があるタイプならぶん殴ればいけるでしょ!


「ミンナ、来タヨ‥‥‥ハ?」


 がちゃり、と音を立てて。

暗がりから出てきたのは……赤茶けた古い鎧だった。

全身ボロボロだけど、確かに鎧だ。

ゾンビじゃ……ない!?


「えぇいっ!!」


 ボクの動揺をよそに、アカがミサイルを放った。

左右一発ずつに分かれた光弾は、一瞬で鎧に到達。

閃光を上げて吹き飛ばした。

うお眩しっ!?


 鎧は倒れて地面にぶつかり……べしゃあ、と嫌な音を立てる。

べしゃあ?


『あれは……リビングメイル、ですね』


 なんか前に聞いたことがあるような……うわっ!?

地面に倒れた鎧のパーツが分かれて、その隙間から腐った肉と形容しがたい汁が染み出してる!


『前に言ったでしょう?中枢神経を乗っ取る鎧型の魔物ですよ。普通は中身が枯渇すると休眠しますが……どういったわけか、中の死体がゾンビ化しているようです』


 リビングメイル+ゾンビってこと!?

そんな欲張りセットはいらないよォ!


『新手ですよ』


 わわわ!また新しいのが来た!

今度はボクが――衝撃波、発射!!


 ボクの衝撃波が新手の腹に直撃。

古くてボロボロになった鎧は崩壊し……胴体に大穴が開いた!


「もごごご!?」


 ロロンが驚愕したように、大穴の中には何もない!

え!?ゾンビが入ってるんじゃないの!?

なんでがらんどうで動いてるの!?


『レイスです!ゾンビと違い、肉体を持たない魂だけの魔物!』


 幽霊が鎧を着込んでるのォ!?

いや、幽霊をエネルギーにして鎧が動いてるの!?

ああもう滅茶苦茶だ!!


「ももも!むがぐ!むっむむ!むー!!」


 ロロンが槍を突き出すと、その先端に土の塊が出現。

まるでショットガンみたいに、細かくなった土片が射出された!!

今のももも!て呪文詠唱だったんだ……!


 土片が鎧に着弾。

少しずつ鎧が千切り取られ、バラバラになって地面に散らばった。

……動かないってことは、やっぱり魔法が効くんだね!


「ロロンノ格言、心ニ刻ムヨ……ボク!」


「ももっもも……もごご……」


 あ、今のはなんとなくわかった。

『もっだいね……』って言った!


 とにかく、これから先は魔力を通した攻撃なり魔法なりを意識するようにしよう。

魔力を込めて殴れば死ぬ……ふふ、至言ッ!!


『……お元気そうでなによりです』


 おおっと!ジト目をしていらっしゃるな?



「ムゥ……」


 またも暗闇の中を進む。

あー、視界が悪い。

暗視を使えばいいんだろうけどさ……それすると光玉の明るさでギャッてなるのよ。

じゃあ光玉を消せば……そうだね、ボク以外が何も見えなくなるよね!

コレが帯に短したすきに長しというやーつであるか……また一つ賢くなってしまった。


「……!ももっも!」


 横のロロンが槍を構えた。

うん、ボクにもわかる。

この先の空間に、何かが沢山いる!


『反響から察するに広い空間があるようですね』


 トモさんの声を聞きながらポーチに手を突っ込み、適当な木の棒とボロ布で作った使い捨て松明を出す。


「ヨロシク」「あいっ!」


 アカが先端に魔法を撃ち、発火させた。

そしてその松明を振り上げる。


「アカ、コレ投ゲタラ魔法ヨロシク、雷ネ」「あーい!」


 よっこい……しょらァ!!

闇を切り裂きながら松明が飛んでいき……先の空間に落ちた。

炎の明るさが、そこに立っている何者かを浮かび上がらせる。

いや、何者『たち』をだ!


 ――そこには、死んだように立っている鎧の群れがいた!


「――えぇえ~いッ!!」


 アカの稲妻が発射され、地面で拡散しつつ群れに殺到した。

何体かの鎧が、感電してガクガクと震えた。

よし、ボクも続くぞ!

遠距離戦、開始だァ!!


「もごご、ももふ、もんもん……もも!ももっご!!」


 ロロンの槍からマシンガンのように岩弾が発射された。

それに遅れること数瞬、ボクも速射衝撃波――発射ァ!!


 並んでいる鎧たちはさほど強度はないらしく、的当て状態だ。

速射程度の魔力でも、表面はバキバキ破壊できてる!

ははーん、経年劣化かな?

そりゃ、手入れしてないと鎧もボロくなるよね!


『あら、あの鎧に見えるものはリビングメイルの皮膚ですよ?鎧に寄生するのではなく、鎧によく似た魔物なのです』


 そうなのォ!?

こ、この世界の魔物を〇ーウィン先生が見たら泡吹いて倒れそうだよ!

どんな進化すりゃそうなるんだ!!

ボクも現在進行形で若干頭が痛い!!


「ウオオオオオオッ!クタバレーッ!!」


 内心の葛藤を声に出し、ボクは衝撃波を乱射することにした。

これはこれでストレス解消になっていいかもしんない!

ストレス、特にないけど!!



「スッキリ」


「しゅっきりぃ?」


 しばし後、その広い空間には散らばった鎧……もといリビングメイルのバラバラ死体だけが残されている。

いや~、撃った撃った。

こんなに撃ちやすい魔物だったら楽でいいよね……魔石ボリボリ。

ふう、充電完了。


「もふ……もふ……」


 あ、ロロンが疲れてる。

魔石チャージできない獣人さんは大変だなあ……

トモさん、魔力回復ポーションとかあるの?


『ありますが、お高いですよ?1本最低2万ガル程度かと。需要に供給が追い付いていないので、常に品薄なのです』


 ……お金持ちになりたいなあ。

それはそれとして、ちょっとここで休憩していこっか。

ここで終点かと思ったケド、まだまだ先は長そうだし……


 視線の先には、まだ奥へ続く穴が見えていた。

……それについても臭すぎるなあ。

アロンゾさんがダンジョン嫌いって言ったの、今ならちょっとわかるかもしんない。

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