第36話 アカの進化、そして依頼へ……!


 もこもこもこ……と、布団が動いた。

お、進化が終わったのかな?


「ロロン、進化ガ終ワッタヨ」「おお~!」


 朝の陽ざしの中、さっきまで横で寝息を立てていたロロンも、興味津々な顔で寄ってきて……何故かボクを見て顔を赤くした。

……昨日のことが尾を引いているな。

時間が解決してくれるよ、ロロン。


『謎の上から目線虫ですね、むっくん』


 上から目線虫!?

なにその新ジャンル!?


「あらぁ、楽しみねえ」


 リンゴを平らげたあと、アカの横で寝ていたラーヤ。

彼女も後輩?が気になるようだ。


「んむにゅ、んん~……おやびん、おやびぃん。でれない、でれなぁい!」


 どうやら布団の出口がわからないようだ。

そっと布団をめくってやる。


「オハヨ、アカ」「おはよぉ、おやびん!」


 眩しそうに目を細めながら、アカが這い出してきた。

お、おおお~!

……そんなに、変わってない、かな?


「おなかすいた、すいたあ!」


「ハイハイ、ドウゾ」


 とりあえず干しリンゴを渡しつつ、ボクの体をよじ登ってきたアカの全身を観察した。


 ……身長は、たぶん変わってない。

羽が増えたり、手が増えたりもしていない。


『性癖……』


 せ、性癖じゃないやい!人聞きの悪い!!


 ともかく、見た目に大きな変化はない……いや違う!?

アカのアーマーになんかこう、パーツが追加されてる!

羽の下と、背中、それに太腿あたりに、筒のようなパーツがちょこちょこある!

……なんか、アレだ。

ちょっと、ミサイルに見える?

中に弾丸は装填されてないけど、戦闘機にくっ付いてるやつによく似てるな~?


「おいし、おいし!」


 肩に乗り、夢中で干しリンゴを頬ばるアカ。

トモさ~ん、この隙にスキル表示よろよろで~す。


『了解です』


 ぶん、とスキル表が表示された。

えーと、なになに……?



・個体名『アカ』

・保有スキル『念話』『念動力』『雷撃魔法』『火炎魔法』『衝撃・魔力反転装甲』『魔力吸収最適化』『思念誘導式魔力弾・多連装』『ハイ=マニューバ』



 お、おおお!?

魔力吸収が最適化に!?

それと……『剥離装甲刃』と『疑似撃発口吻』が消えてる!?

あと『ハイ=マニューバ』!?これってつまり……戦闘機みたいに高速飛行したり、急旋回したりできるってこと!?

アカは戦闘機だった……?


 そして……『思念誘導式魔力弾』?なにこれ。


『どうやら2つのスキルが統合されたようですね』


 そんなことあるんだ!ゲームみたい!

……で、このスキルってどんなんなの?


『ふむ……なるほど、簡単に言うと思念誘導式のミサイルですね。魔力を消費して、誘導弾を放つようです』


 無茶苦茶カッコいいじゃん……アカのスキルがどんどん格好よくなるじゃん……

そしてどんどん戦闘機になるじゃん……いいけど。


『アカちゃんは種族的にも接近戦が不得手ですので、より遠距離戦に特化した進化をしたのでしょう。本当に進化とは興味深い……』


 まあ、ボクとしてもアカに接近戦させるつもりはないけどさ。


「トリアエズ、オツカレサマ」


「んむぐ……にゅへへ、えへへぇ」


 リンゴに夢中なアカを撫でると、嬉しそうに頬を擦り付けてきた。 

ふふふ、進化しても我が子分の可愛さに一片の曇りなしだ!


「あらあら、本当に仲がいいのねぇ」


「ふぇ?」


 口に手をやり、アカの前に浮かぶラーヤ。

アカはリンゴを飲み込むと、目をしぱしぱさせて彼女に見入っている。


「だあれ?だあれ?」


「初めまして、アカちゃん。私はラーヤ……貴方のお仲間よぉ」


 空中でドレスを翻し、ラーヤは優雅に礼をした。

うーん、小さいのに小さく感じない。

これが強者のオーラという奴だろうか。


「ラーヤ!よろしく、よろしくぅ!」


「はぁい、よろしくねぇ?」


 空中に飛び出し、アカはラーヤの手を取って謎ダンス。

ラーヤの方も、楽しそうにそれに付き合っている。

なんともファンタジーな光景だ……!目の保養になる!!


「アカちゃん、よかったでやんすね……しぇば、朝ご飯の用意ばしてきやんす!」


 ロロンはブレないなあ。

ボクも手伝――あ、目で制された。

ああん。


 朝ご飯ができるまで、アカたちのダンスを眺めていることにした。

ああ~……ビデオカメラが欲しい今日この頃。


『動画も撮っておきましょうか……貴重ですので』


 それトモさんしか見れないじゃん!ズルいぞ~!



・・☆・・



「それじゃ、案内するわねぇ」


「しゅっぱつ!しゅっぱ~つ!!」


 パンとスープの朝食を平らげたボクらは、ラーヤの道案内に従って出発することにした。

オバケまみれだって言うし、明るいうちになるべく済ませたいからね。

どうせ洞窟の中は暗いだろうけども!


『あら、暗ければいいというわけではありませんよ。夜に力を増すのがゴーストですので、外の時間帯には大いに影響を受けます』


 ほええ~、そういうものなんだ。

なんだろう、体内時計とかが関係するんだろうか。 


「腕が鳴りやんすね!ムーク様!」


 槍を手にしたロロンは元気いっぱいだ。


「ロロン、ゴースト系トノ戦イ方ハ知ッテルノ?」


 そう聞くと、ロロンはちょっとドヤ顔をした。


「大丈夫でがんす!昔、故郷の大爺様に聞きやんした……曰く!『魔力を込めて殴れば死ぬ』!!」


「……ナルホドォ」


 アルマードさん、部族全体で脳筋なのかしら。


『まあ、間違いではないですね……こらむっくん、周囲にはしっかり気を配りなさい!』


 ハイ!すいませんした!!

そうだね!ここは魔物がいっぱいいるもんね!!


「しばらく真っ直ぐよぉ、そうすると山に突き当たるわぁ」


「まっすぐ!まっすぐう!」


 右肩にはラーヤ、そして左肩にはアカ。

サラウンドスピーカーみたいな感じになってるなあ。

耳が幸せってやーつ。

耳があるかどうかわかんないけど。


 それにしても、アカはすぐにラーヤと打ち解けたね。

流石のコミュ力よ……おやびんも見習おう、そうしよう。


 あ、そうだ。


『アカ、できることが増えたのわかる?』


『うん、わかる!』


『それじゃ、それを今度出た魔物に使ってもらってもいい?』


『あい!がんばゆー!』


 スキルが見れるってのはロロンにはわかんないしね。

念話で確認しておいてよかった。



 歩き続けること、しばらく。

前方に山が見えてきた。

おー、ソコソコ大きい。

あの向こう側に洞窟があるのかあ。


 ……ムムム!

なんか……魔物の気配がする!気がする!!

前方の草むらから!


『アカ、お願い!』『あいっ!』


 肩から飛び立ったアカが、上空で停止。

同じように気配を察知したっぽいロロンが槍を構えたと同時くらいに――アカの太腿に付いている筒が光った。


「……いっけぇ!!」


 ぽぽしゅ、と可愛い音がした。

左右の太腿の筒から、輝く光の玉が2つずつ発射された。


 発射された弾丸は、可愛らしい発射音とは裏腹に――目で追うのが不可能な程の速度で飛び出す!

うわ、光の軌跡がないと絶対に見えないや、夜に見ると綺麗そう!


「――ガ」「――ゴ」


 草むらから顔をのぞかせたのは、ゴブリンが2匹。

ボクらを視認し、牙を剥きだして何か吠えようとした。


 ――その頭に光が着弾。

両方の鼻から上が、閃光と一緒に吹き飛んだ。


「やた!やった~!」


 喜ぶアカの向こうで、グロくなったゴブリン2匹が崩れ落ちる。

お、おおお……つっよ。

思念ミサイル(ボク命名)つっよ!!

今までの魔法も威力はあったけど、これも凄い!

は~……アカが遠距離特化型妖精になる日も近いなあ!


「じゃじゃじゃ!凄いでがんす!」


「思念の練りが綺麗ねぇ、将来有望だわぁ」


 思念の練りってなんじゃろ……とにかく、アカが強くなったのはいいことだ。

取れる戦法が増えたってことだもん!

あ、でも今の威力じゃ至近距離だと危ないかな……ボクが頑張ればすむ事か。


『込める魔力量で威力は増減しますので、臨機応変に対応できると思いますよ。アカちゃんの思考は柔軟ですし……むっくんが教えてあげてください、バルカン砲のような運用もできるかと』


 ミサイルも撃ててバルカンも撃てて、しかもマニューバ飛行まで!!

……やっぱりアカって妖精ではなく戦闘機に進化するのでは……?


『戦闘妖精ですか』


 ……なんかそれ、聞き覚えがあるようなないような?

まあとにかく、強くなったのならいいや!

アカが安全だとボクも嬉しい!!


 仲間の力量に満足しつつ、ボクらはまた足を踏み出した。


おおっと!嫌だけどゴブリンの耳切り取らないと!

お仕事、お仕事!!

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