第35話 こんばんわ、妖精さん。

「ね、ね。別に何かしようって気はないのよぉ?だからそんな怖い顔しないでってばぁ」


 アカよりも大分大人びた妖精さん。

彼女は、そう言ってボクにウインクした。


「怖イ顔ハ仕様デス……」


「あら、そうなのぉ?ごめんなさぁい、虫人さんなんて久しぶりに見たからぁ」


 けらけら、と妖精さんが笑う。

むう……大人っぽいけど、根が明るいのはアカと一緒か。

妖精さんってみんなこうなのかね?


「ムーク様、どうやら害意は無ぇようでがんす。『黒く』もねし」


 黒い?

いや、この人黒いドレス着てるけど?


『不浄のオーラのことです。また今度説明しますが、それを纏っている妖精は強力な魔物なのですよ』


 ひえっ……

妖精さんにもそんなのがいるの!?

くわばらくわばら……


「アー……ジャア、トリアエズ焚火マデドウゾ」


 ボク、まだ川に浸かってるしね。

ぶるる、寒い。

あったまろう。


「ジャアロロン、コノ人モ一緒ニ……」


 振り向いたら、ロロンは、うん、その……限界ギリギリの薄着だった。

ああ~……かなり急いで駆けつけてくれたんだぁ……えっと、その……具体的に言うと裸エプロン凄いですね。


「はえ?あ、う……じゃ、じゃじゃじゃ!?!?!?」


 自分の状態に気付いて……ロロンはトマトくらい真っ赤になってテントの方へ消えていった。

ううむ……ボク、悪くないよね?


『むっくん……めっ!ですよ?』


 ギルティなようだ。

理不尽……理不尽じゃない?



・・☆・・



「あら~、気配が薄いとは思ってたけど、進化の途中だったのねぇ」


 焚火を再点火し、体を温めている。

妖精さんはテントを覗き込み、うすぼんやり光っているアカを楽しそうに眺めている。

へえ、気配なんてわかるんだ。

だから寄ってきたのかな?


「アノ……ムークデス」


 とりあえず、自己紹介だ。

円滑な人間関係は自己紹介から!だし!


「【跳ね橋】のロロン、でやんす……」


 ボクに色々見られたロロンは、毛布をかぶって体を温めている。

うん、服も濡れてるもんね……あの、そんなに気にしないでね?

ホラ、ボク性別不詳の謎虫だしさ。

野良犬に噛まれたとでも思ってさ!


『それを口に出したら私は怒りますよ』


 ムゥウン……未来永劫黙っていよう。

女心と秋雨前線……


『なんですかそれは』


 ふと気が付くと、妖精さんが目の前にいた。

うわびっくりしたァ!?


「ふんふん、ふんふん……ああ、なるほど」


 何事か納得したような彼女は、念話を飛ばしてきた。


『貴方、神の使徒さんねぇ。こうして見るのは400年ぶりかしら?』


 はへぇ!?


「ああ忘れてた、私はラーヤルーラよぉ。長いからラーヤでいいわぁ、さん付けもいらないわよぉ?」


 ボクに爆弾を落としつつ、彼女……ラーヤは自己紹介するのだった。


『むっくんに薄く纏わりついている神気を察知しましたか。ラーヤさんはかなり年を経た妖精種ですね……アカちゃんのようなデミ・フェアリーではなく【真なる妖精】ハイ・フェアリーという存在でしょう』


 結構なレアキャラですかね?


『かなりのものです。普通の人間が一生に一度見れるか見れないか、という程度かと』


 SSRくらいじゃろか?


「醜態をば、お見せしやんした……」


「こちらこそごめんねぇ?大丈夫よぉ、とっても綺麗だったわぁ」


 そういう問題じゃないと思うんだけど、とにかくラーヤはロロンの肩に乗って頭を撫でている。

スケール差を感じさせない、年長者の態度だ。

まあ、妖精さんなんだから長生きなんだろうけど。


「デ、ボクラニ何カ用デスカ?」


「ああ、敬語もいらないわよぉ。私、偉くもなんともないからぁ」


 いつぞやのボクみたいなこと言ってるな……


「おチビちゃんの気配を感じたから来てみたのぉ」


 アカのことか、なるほどねえ。


「私くらいになると大丈夫なんだけどぉ、おチビちゃんの頃はよく只人に捕まっちゃう子がいるのよねぇ。もしそんなことになってたら可哀そうじゃなぁい?」


 あ、そういうこともやっぱりあるんだねえ。

ってことは、ラーヤは捕まってる妖精を助けられるくらいの力量はあるってことか。


『デミ・フェアリーのアカちゃんの時点であれほどの魔法を使うのです。それが年を経たハイ・フェアリーともなると……』


 絶対に、絶対にないけど……戦ったとしたら、ボクって?


『チリが残ればいいくらいでしょうか』


 知 っ て た 。

この世界、強い人ばっかりだよ……


「でもでも、見た感じかなり大事にされてるみたいじゃなぁい?ふふ、貴方……顔の割りにとぉってもいい人なのねぇ」


 だから顔が怖いのは仕様だってば!

ボクとしては格好よくて気に入ってるんだよォ!!


「ソ、ソデスカ」


「んだなっす!ムーク様は三国一の親分でがんす!」


 背中が痒くなるからやめてください!

その全幅の信頼感はどこからやってくるの、ロロン!

そして急に元気になったね!いいことだ!!


「ふふふぅ、やぁっぱりいい人ねぇ。いい子いい子ぉ♪」


 ラーヤが飛んできて肩に乗り、頬を撫でてきた。

そんな子供にするみたいに……ボク生後一年未満だった!なら仕方ないか!


「それで……ええと、なんだったかしら、う~んとぉ……ああ、そう、冒険者!」


 冒険者?


「貴方達、狼の毛皮なんて集めてるから冒険者なんでしょぉ?」


 ……何故、背嚢に入っている狼の毛皮がわかるんだろうね。

たぶんアレでしょ、透視魔法とかそういう感じのやーつでしょ?


「ウン、ソウダヨ」


「やっぱりぃ!」


 ラーヤは手を叩いて喜んでいる。


「じゃあねえ……お仕事、頼みたいのぉ♪」


 ……お仕事?

妖精の依頼……全く想像できないなあ。

とりあえず聞いてみよっか。

今見たら、ロロンも頷いたし。


「ジャア、説明シテクレル?」


 どうせ、しばらくはここにいるんだ。

聞いてから判断しよう。


 そう言うと、ラーヤは肩に座ったまま話し始めた。


「えっとねぇ、ここから南に歩いて……小さな山を越えた所に洞窟があるのぉ」


 ほう、洞窟。

例のなんとか草も生えてるかな?


「そこにねぇ、おチビちゃんが捕まってるのぉ」


 ……おチビちゃんって妖精だよね?

え、それ結構大変なんじゃ?


「だからぁ、貴方達に助けてほしいのよぉ」


「……イヤ、ソレハイインダケドサ?アノ、自分デ助ケナイノ?」


 トモさんが言うことから察するに、無茶苦茶強いんでしょ?

なら自分でやればいいんじゃないのかな?


「駄目なのぉ、あそこってオバケばっかりだからぁ。私、オバケって苦手なのぉ」


 ……オバケ?

幽霊的なサムシングがいるのかしら?


「でもでもぉ、おチビちゃんは可哀そうだから無理して助けようかって思ってたのぉ。そこに、貴方達がいたってわけぇ」


「ナルホドォ……」


 いい所に来た!って感じかな?

ふむ……それなら。


「今カラ行ッタ方ガイイヨネ?」


 暗くなりつつあるけど、暗視も明かりもあるし。

妖精が危ないんならすぐに行かなきゃ……あ、アカどうしよ。

ロロンに留守番してもらおうかな?


「いいえぇ、明るくなってからでいいわよぉ?夜のオバケは力も強いし、おチビちゃんも捕まってるだけですぐに食べられちゃう感じじゃないからぁ」


 あ、そうなんだ。


『ゴーストやゾンビなどのアンデッドは、夜に力を増す傾向があります。余裕があるなら、明るくなってから行動した方がいいでしょうね』


 言われてみればそうか……


「んだなっす」


 ロロンも同意見みたい。


「妖精ハ、本当ニ大丈夫ナンダヨネ?」


「大丈夫よぉ、閉じ込められてるっていうか、出られないっていうか……そんな感じだからぁ」


 そんな感じなんですか。

まったく想像もできない状態ですな。


「ナラ、シッカリ寝テ準備スルカナ……ラーヤハドウスル?」


「明日になったら、近くまで案内するわぁ。あと……」


 ボクの肩から下り、焚火に近寄るラーヤ。


「美味しそうな匂いがするわぁ。後でお返しするからぁ、何か食べさせてぇ?」


 身構えて損した。

そんなことでいいなら……


「干シリンゴ、イル?」


「あらぁ!素敵ぃ!」


 やっぱり、アカと一緒で果物は好きなようだ。

さて……妖精の依頼かぁ。

……腕が鳴るね!

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