第34話 アカ、進化……なんだけどォ!今度はなんですか!?


「んにゃむ……ねむいの、ねむ~い」


「ハイハイハイ!」


 ポーチから布を取り出し、ふらつき始めたアカを包む。

うおお!もう発光が始まった!!


「ロロン!アカノ進化ダ!テントヲ張ロウ!!」


「合点承知でやんす!オーム・ロゴス・ソゴス・スヴァーハ!」


 ずもも、と地面が動き。

大蛇の死体が地面に吸い込まれた。

そのまま土がめくれ、あっという間に土饅頭の完成だ。

魔法って便利!


 後始末を済ませ、ボクは眠り始めたアカを抱えて林を移動し始めた。

さーて、いいキャンプ地はあるかなっと!



 しばらく歩いていると、ちょっとした川の横に空き地を見つけた。

ここなら見晴らしもいいし、周囲の確認もしやすいね。

まだ夕暮れにはちょっと時間があるけど……早めにキャンプを始めようか。


「アカヲオ願イネ」


「お任せくださっしゃい!」


 アカの包みをロロンに渡し、ポーチから新品の魔力テントを取り出す。

さーて、試運転だ。


 十分な広さの地面に箱状態のテントを置き、横のホルダーに小さい魔石を嵌める。

すると、箱が振動して……上の部分が展開、ぶわっと布が出てきた!

あれよあれよという間に布の展開は続き、1分も経たないうちにモンゴルっぽい三角錐型?のテントになった。

ふおおおお!凄い!買ってよかった!!

……あ、感動してる場合じゃないや。

ポーチから魔物避けと消音装置を取り出し、周辺に配置する。

よーし、これでいい。


 ポーチから取り出した掛布団を持って、テントに入る。

おー、何もないけど広くて綺麗な空間だ。

布団を敷いておこう。


「アカヲ寝カセテアゲテ。ボクラハ休憩シヨッカ」


「はい!これタオルでやんす!ご休憩なすって下さい!」


「イヤ、ロロンモ休憩ヲネ……」


 ああ、駄目だ。

無茶苦茶素早く竈を作り始めている。

この子、働き者すぎるわ……

とりあえず、大蛇の血と肉片まみれになったマントを拭k……先に川下の方で水浴びしてこよっと。

これじゃあタオルが駄目になっちゃうや。



・・☆・・



「妖精さんの進化、見るのは初めてでやんす!」


 日が暮れ初めた森の中、焚火を挟んでロロンが嬉しそうに呟いた。

焚火の周辺では、金串に刺さったお肉と野菜がじゅうじゅうと音を立てている。

街で買っておいてよかった、調理器具があるとロロンの負担も減るしね。


「マア、今日ノ所ハココデ寝ヨウカ。進化ガイツ終ワルカワカンナイシ」


 前の時は大分かかったからなあ……今度はどうだろ?


『あの時は虫から妖精への進化でしたから時間がかかったんでしょうね。今回はそれほどのことはないと思いますが……』


 ふむん。

まあそれにしたって一晩はかかるでしょ。

ゆっくり待つとしようか。


「ムーク様、焼げやんした……どんぞ!」


「アリガト」


 本日の夕食、オオムシクイドリの串焼き。

長持ちするんだよねえ、このお肉。

ただ、そろそろヤバいらしいから干し肉っていうか燻製に加工するかな~……それか売るか。


「イタダキマス……ンマイ!」


 ん~!肉汁たっぷりで美味しい!

間に挟んだマルモもシャクシャクだし、いいねいいね!

オオムシクイドリ……こんなに美味しいんだから、今までの蛮行はちょっと許してやろう。


「はも……んぐ、んめめなっす!」


 ロロンも大満足の模様。

塩に香辛料もかかってるし、料理って最高だよねえ……

今ロロンがいなくなったら、食的な意味で我がパーティは崩壊しちゃうよ。


「ロロン様々ダネ、アリガタヤ~!」


「んべほふ!?も、ももももっだいね……」


 あああ!土の上で丸まったら汚いよ!?

すぐ丸まるね!この子は!!



「ホヘー……」


 夕食後、岩に腰かけて川を見ている。

自然豊かな光景って、いくら見ても飽きないなあ。

日本ではこんな風景残ってな……いや、記憶ないからわかんないや。

でも、心が癒される光景ですねえ。


『魔物避けの魔法具もきちんと作動していますね。これなら今晩はぐっすり眠れるでしょう』


 ダンジョンのおかげだねえ。

この辺は街の近くだから盗賊もいないだろうし、安心して眠れそうだ。


「ムーク様、ムーク様ぁ」


「ハイハイ」


 桶を抱えたロロンがやってきた。

むむむ!桶……ということはつまり、水浴び!


「オット、ジャアボクハテントニ入ッテルカラ。何カアッタラ呼ンデネ」


「あ、は、はい!」


 ふふふ、空気の読める虫こと、むっくんですよ!


『覗いちゃ駄目ですよ?』


 ボクをそんな特殊なHENTAI扱いしないでくださいよ!

昔のラブコメじゃないんだから!

……昔のラブコメってなんだ?


 焚火が消えていることを確認し、テントに入った。

おお、暗くなったからアカの輝きがむっちゃわかる……申し訳ないけどもう一枚お布団かけとこ。


 ごろん、と仰向けになる。

ふい~……いい買い物したなあ。

キャンプする場所を選ばない、いいものだこれは。

急な雨にも対応できるしね。

片付けも、天井のてっぺんに触れて魔力を流せば元の形に戻るらしいしね。

いやあ、これに関しては地球よりも便利だ。

向こうで売り出したら大人気になるぞ、これ。


「フワア……」


 なんかちょと眠くなってきた。

魔物の心配はないし、ひと眠りしようかな……この世界に来てから早寝早起きするようになったなあ……

前世の記憶ないけど、絶対に早く寝てると思う。

テレビとかPCないもんね、ここ。


 それでは、ぽやしみなしあ………



「――じゃじゃじゃ!?」



 ムワッ!?

今のはロロンの悲鳴!!

待ってろ、おやびんが行くぞ~!!


 テントを飛び出し、悲鳴が聞こえた方向へ走る。

小川の方角だな!……小川?

あの、今行くのまずくない……いやいやいや!

そんなこと言ってる場合じゃない!!

ロロンは武器も持ってないんだから!


「ロローン!大丈夫カーッ!?!?」


「――ひゃわあああああああああ!?!?」


 そこには、首まで川に浸かってボクを真っ赤な顔で見るロロンと……その近くに浮いている光の玉があった。

ひ、ひ、ひ、人魂だァ!?!?

異世界ゴースト!異世界ゴースト!!


『不浄な魔力は感じないので、そんなものではないと思いますが……』


 そうなの!?

と、とにかく割って入るぞ!


 じゃばじゃばと川に入り、ロロンと光の玉の間に立つ!

むむむ……本当に光の玉だ、熱くもない。


 じゃぎ、とチェーンソーを展開して同時に魔力を流す。

ビュンビュンと棘が旋回する中、玉はすうっと後退した。

よしよし……


「ロロン!服着テ武器用意シテ!」「は、はひゃぁい!」


 ばちゃん、と水音。

大丈夫!大事な所は全然見えてないし!ボクは虫だから!!


『虫、関係ありますか……?』


 わかんない!


「ウルルルル、ギチギチギチ……!!」


 唸り、歯をガチガチ鳴らす。

この玉がどんな魔物かはわかんないけど、親分を差し置いて子分に手を出すなんて許さないぞ!

……そういえば、魔物避けあったのに来たんだよな、コイツ。

つ、強い魔物かもしれない……だけど、逃げられないから戦うしかないや!


 しばし、睨み合い。

森の中には、棘が旋回する音と川のせせらぎだけが響いている。


『――ん、あ、ああ、こう、こうかしらぁ?』


 ……トモさん、なんか声変わりしました?

いきなりなんかこう、セクシーになったんですけど?


『私は普段から流麗で素敵な声ですよ……そして、今のは私ではありません。目の前の存在から、むっくんに念話が発信されました』


 ちょっとムッとしてない?トモさん。

え?目の前の……この謎玉?


『驚かせちゃってごめんなさいねえ、ねね、その怖いの下ろしてくれない?なんにもしないから、さ』


『……は、はあ』


 玉が、ふよふよと左右に揺れている。

危険はない……のかな?

とりあえず、回転を止めてチェーンソーをしまった。

だけど、速射衝撃波がいつでも出せるように準備だけはしておこう。


「お、お待たせしやんしたァ!……え?」


 あ、ロロンも帰って来たみたい。


『お嬢ちゃん、ごめんなさいねぇ?先に声をかけたらよかったわねぇ』


「こ、声が……?」


 ロロンが狼狽する中、空中の玉が一瞬強く光った。

うお、まぶし――!!


『――久しぶりに人に話しかけたから、色々忘れちゃってたわぁ』


 その光が収まると、そこには……アカよりも少し背の高い、妖精が飛んでいた。

あの玉って妖精だったんだ!?


「んっ、んっ……んん、声を出すのも久しぶりだわぁ。こっちの方がいいのよね?只人さんたちはぁ」


 金色の綺麗な長い髪。

背中にはなんとかアゲハみたいな蝶々の羽。

そして、キラキラ輝く黒いドレスを着た妖艶な妖精さんが……ボクらに向って微笑みかけていた。

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