第38話 あの、それはいったい誰用の鎧ですか?
「ロロン、大丈夫?」「だいじょぶぅ?」
「ももふ!」
鎧集団をバラバラにした後、しばらく休憩した。
魔石ボリボリで魔力を回復できるボクやアカと違って、ロロンは自然回復を待たないといけないからね。
きつく口元に巻き付けた布のせいでくぐもってはいるけど、返事は元気。
目にも力が戻っているね。
『アンデッドが多い空間では、ロロンさんのような生きている人間は魔力回復にデバフがかかります。気を付けましょうね』
初耳!
そっか、それでいつもより回復が遅かったんだね……
魔法をあんまり使わないように!って直で言うとキズ付けそうだし……ここはボクが一生懸命暴れるしかないか!
「ジャア、イコッカ」
先頭に立ち、ボクはさらに洞窟の奥へと……あ!鎧の破片に混じって魔石が落ちてる!!
先に回収しとこ!魔石は大事!!
「おやびん、くしゃい、すくない!」
「ネ」
「ももも……ぷはっ!」
しばらく、同じように斜め下に歩き続けていくと……腐臭が少なくなってきた!
ボクの気のせいかと思ったケド、ロロンが顔の布を取ったことからわかる。
「ロロン、イケル?」
「……まだちくっと臭いが気になりやんすが、これっくらいなら問題無がんす」
アカも布を取って楽そうにしている。
「すぅ~……やっぱくしゃぁい!」
深呼吸は流石にしんどかったらしく、マントの中に退避してきた。
そのまま、ボクの首元から顔を出してるけど……それ無駄じゃない?
まあ、本人はニコニコしてるからいいけどさ。
「ゾンビ、打チ止メカナ?魔物、モウイナイカナ?」
「それは早計でやんしょう。さっぎのレイスの件もありやんす、死霊系の魔物に肉体ばありんせん」
あ、そっかレイス……オバケね。
腐る肉体がいないと、確かに臭いはないか。
油断しないようにしないと……!
『むっくんはすぐに調子に乗りますが、ロロンさんがいれば安心ですね』
むぐぐぐ……反論できぬゥ……!
いい仲間がいて大変良かった!
「おやびん、なんかくる!」
おっと!
アカが言った後すぐに、前方からガシャガシャと足音が響いてきた。
この音……鎧、それも一体じゃない!
「――撃ツヨ!」
魔力充填開始……なんか足音が速い?気がする!
『確かに、接近速度が速いです……上位種かもしれません!』
そんなのいるんだ!?
ええい、でも充填は十分……かかってこいやー!!
暗がりから走り出てくる影に――衝撃波、発射ァ!!
最大溜めで放たれた衝撃波は、薄汚れた銀色の鎧……その腹をぶち抜いた!
わわわ、色違い!
「えぇいっ!!」
アカの思念ミサイルが2発飛び、今しがた倒した鎧の後ろへ。
数瞬後、閃光が発生して新手の二体がバラバラになった。
「ロロン、今ノ鎧……速クナカッタ?」
「んだなっす、動きがえがんす!……中身はレイスでやすね」
地面に転がった鎧に、中身はない。
幽霊動力のリビングメイルか……!
トモさんトモさん、リビングメイルの変異種というか上位種ってどう違うの?色?
『今までの鎧は薄汚れていたでしょう?色は関係ありませんが、簡単に言うと綺麗な鎧ほど上位種となります。内包する魔力が上がれば上がる程、彼らの体表面は綺麗になるのです』
ほほう……なるほどね?
『あと、先程のように動きがよくなりますし……大きくもなりますね。もっとも、コボルト程ではないので……2メートル前後、でしょうか?』
ボクに比べりゃ十分大きいよ!
ふんふん……綺麗でシャカシャカ動くのが上位種ね、虫覚えた!
さっきのは汚れてたけど、若干シャカシャカだったのでちょい上位って感じね!
『一つアドバイスしておきましょう、骨棍棒に魔力を流して殴れば楽ですよ。物理で鎧に傷を付け、魔力で内部を破壊するのです』
ワオ!チュートリアル助かる!
「ロロン作ノ棍棒ガ役ニ立チソウダ……アリガトネ!」
「もっだいね!」
背中の棍棒を引き抜き、両手で持って魔力を流す……おお、ちょっと薄ぼんやり光って綺麗!
流す魔力も衝撃波より少ないし、コレで効くなら省エネできそうだ!
ってことを考えてたらまた新手。
銅色の鎧がガシャガシャやってくる!
「ヌオウリャーッ!!」
踏み込んで、思いっきり振りかぶって――頭をぶん殴る!!
兜にヒビが入り、造りの甘い頭部が砕けて胴体から中身がギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?
「オオン……」
鎧も中身も一撃でグシャッてなった……なんで中身入りなんですか。
恐らく獣人のゾンビさんが、四方八方に飛び散った……アカ、大丈夫?
あ、上空に避難してる……かしこい!
ま、まあ威力は十分だね……これからは中身が無いことを期待しつつぶん殴ろう……
「……」
デロデロになった成れの果てから魔石を取り、ボクは無言で歩き出した。
くそう、見た目で判別する方法はないものか……
・・☆・・
「――せいっ!!」
低い姿勢で走り込んだロロンが、伸びあがるように骨槍を突き出す。
人間で言えば鳩尾の辺りを貫通し、背中まで穂先が突き出た。
「――破ッ!!」
そして、さらに魔力を流す。
穂先を中心にして周囲に魔力の爆発が放たれ、鎧は粉々に吹き飛んだ!
ヒューッ!カッコイイ!!
飛び出してきた鎧は、あっという間にバラバラになった。
「ソレッテ、アルマードノ武術?」
残心っていうのかな?
油断なく構えを継続していたロロンに聞く。
前からその動きよくやってるよね。
「んだなっす。低い姿勢がら一気に突き上げる……【跳ね橋】お家流『昇竜』でがんす!」
むっちゃカッコいい名前だった!!
「あにさまや父上なら、もっと速く鋭いでがんす。地に沈んだ瞬間には敵の脳天が吹き飛びまっす」
……アルマードの大人って2メートル以上あるんだよね。
体、柔らかいなあ。
「転ガル技トカモ、アリソウダヨネ」
なんか、アルマジロ的にありそう。
なーんてさすがに冗談……
「じゃじゃじゃ!?『地獄車』をご存じとは……ムーク様は博識でがんす!!」
あるんだ!?
「ワダスはまだ精進ば足らず……ですが!いづの日か必ずお見せいたしやんす!!」
ぐっ、とガッツポーズを取るロロン。
そ、そんなに難しい技なんだ……ロロン、いっつも丸まってるけど。
じゃあ、アレって練習も兼ねてるんだろうか。
『ふむふむ、地方の情報にありましたね……今から150年ほど前、東の国と帝国との小競り合いでアルマードの一族が参戦したらしいです。その際には、丸まって突撃してきたアルマードの一群に、装甲騎兵が全滅させられたという……』
ひええ!?
見た目の可愛らしさからは想像もできないほどの強力な攻撃!
……いつか見てみたいねえ。
しかしまあ、まだ終点に到着しないなんてなあ。
長すぎでしょ、この洞窟。
『もうすぐ終点ですよ、この先にかなり広い空間があります』
トモさんレーダー助かる。
終点かあ……今までの経験から、絶対に何かがあるという確信がある。
だってラーヤに言われた妖精さん、まだ出てこないし……!
「コノ先ガ終点ダヨ。2人トモ、気ヲ付ケテ」
「合点!」「あいっ!」
まあ、ここにボクより油断する人はいないだろうけどね!HAHAHA!!
『誇ることですか』
ハイッ!スイマセン!
足音を極力立てないように注意しつつ、広場に足を踏み入れた。
今までのように真っ暗かと思いきや、そこには明かりがある。
いや、明かりっていうよりもアレは……
『妖精、ですね』
トモさんが言うように、その空間……学校の体育館ほどの広場の奥にぼんやり光が見える。
アレは、昨日ラーヤが出てきた時みたいな人魂?妖精玉?だろう。
『おやびん、おっきいのいる』
アカの念話。
うん……見えてるよ。
妖精由来の照明が、不自然に途切れている空間がある。
暗闇に慣れてきた目に見えたのは……明らかに今までの鎧よりも大型な、影。
角がカクカクしているから鎧には違いないだろうけど……それにしたって大きすぎる!
『アカ、炎』
ポーチから松明を4本取り出す。
「(ロロン、コレ投ゲタラ一気ニ行クヨ)」「(お任せくだんせ!)」
アカが魔法で先端に火を灯し……ボクはそれを、その大きな影に向って放り投げた!
それが地面に落ちる前に、一斉に踏み込む!
「オーム!ラーガ・ラーガ・ロムン・レムス……!!」
先頭のロロンが詠唱。
足元の土が、槍を握っていない左手に纏わりついていく!
「――スヴァーハッ!!」
ロロンの左腕から、ガトリングみたいな勢いで土の塊が断続的に飛び出す!
それに合わせ、ボクはまず衝撃波を放ち――同時に足の棘を展開!左腕のパイルをシュート!!
「――いっけぇえ!!」
上空のアカが、思念ミサイルを続けて4発発射!
ボクらの攻撃が、その影に殺到――空間に爆音や衝撃音が連続して響いた!!
――やったか!?
『あ~駄目です、フラグを立てましたね』
ナニソレ!?!?
――松明が落ち、空間の闇が払われる。
ボクらの攻撃によって生じた煙が……ゆっくり晴れていく。
「……デッカ……!!」
そこにいたのは……ちょっとだけ表面に傷が付いた、2メートル半くらいある真っ黒い鎧だった。
……強そう!!
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