第32話 冒険者ギルド、ファーストコンタクト!
「ここが冒険者ギルドでやんす」
「オオ……」
「いっぱい!ひと、いっぱい!」
宿から歩くこと、10分少々。
街の門からほど近い場所に、そこはあった。
『冒険者ギルド ラバンシ支所』そう書かれている、煉瓦造りのシンプルな建物だ。
この前行った公衆浴場と同じくらいの規模だね。
街の人とは違う、武器を持った強そうな人たちが出入りしている。
アレが冒険者か!
……なんか、こう、違和感。
アロンゾさんたちよりもその……薄汚れているというか?
いや、強そうではあるんだけどさ。
『前に言ったでしょう?冒険者は最底辺の日雇い業務ですよ。アロンゾさんたちは傭兵団の中でも上の方の方々です……比べるのは失礼ですよ?』
ああ、うん……そうだった。
ボクはまだ、ファンタジーに憧れを抱きすぎていたようだ。
もうちょっとキラキラしている感じだと思ってた。
皆さんギラギラはしてるけど。
『アカ、ボクのマントに隠れてて』『あ~い』
この国に来てから妖精関係でのトラブルはないけど、一応用心しておこう。
ここの人たちがチンピラばっかりってわけじゃないだろうけどね、一応。
「帝国と同じような感じでやんしょうが……とにかく、行ぎましょ」
「ハイ」
ロロンに促され、両開きのドアから中へ入った。
むむ……汗と血と鉄の臭いがする!くしゃい!!
「やっぱり、帝国と同じような感じでがんす。あすこの札を取って、受付で受領でやんすね」
中に入ると、がらんとした空間があった。
奥の方には受付っぽい空間があって……それ以外は椅子も机もない。
壁には何やら張り出された板と、その下に木札が下がっている。
ほほう……壁の依頼文?を見て、やるなら木札を受付に持っていけばいいのね。
「アノ、登録トカハ?」
「帝国と同じなら、特に無ぇでがんす」
おおん……身分証代わりになる冒険者カードとかはないのねえ。
『一部の国にはあるようですが、ここにはないですね』
ふむん、本当にただの日雇い斡旋所って感じか。
とにかく、依頼を見てみようか。
今回は冒険じゃなくって、買った野営用品その他の試運転が目的だからねえ。
汗臭い人ごみをかき分け、壁へ向かう。
えーっと、なになに……
・『下水掃除』
・『家屋撤去』
・『薪割り』
……街の御用聞きかな?
お給料も50~100ガル程度だし、子供のお手伝いっぽいねえ。
でも、無一文で街に来た時には役に立ちそうではある。
「外の依頼はこっちでやんすね」
あ、壁の場所でジャンル分けしてるのか。
ええっと、そちらは……
・『毛皮・草原狼』
・『駆除・コボルト』
・『採集・アガン草』
おお~!
イメージ通りの冒険者ミッションだ!
「街ノ外ニ出タイシ、ココラヘンノ依頼デイッカ」
「そうでやすね。日銭ば、稼がねと!」
うん?なんでそんなに声が大きく……ああ、周囲に聞かせるためね。
お金に困ってないですよ~、みたいな空気は出さない方がいいもんね。
じゃあ、いくつかできそうな木札を取って受付に行こうか。
「コレデ」
「おう……見慣れねえ顔だな、旅人か?」
受付に座っていたのは、眼帯をした猪っぽいオジサンだった。
体中傷だらけでむちゃくちゃ強そう。
引退した冒険者さんかな。
「ハイ、帝国カラ」
「虫人が珍しいな……確認した。5日以内に納品しねえと罰金だからな、気を付けろよ」
赤いハンコが押され、木札が戻された。
ふむん、依頼品と一緒にこれをもう一度出せばいいのね、了解。
なんとも簡単に終わったなあ……
『おや、フィクションみたいに絡まれたりするのを期待していたのですか?むっくんは過激ですね……』
そんなんじゃないやい!!
・・☆・・
「いーてんき!てんきぃ!」
アカが笑いながら飛んでいる。
今日も晴れて爽やかな天気だ。
あの後、宿まで戻って準備をして……門を出て草原へ戻った。
ちなみにボクは、棍棒の他に前に買った大きい背嚢を背負っている。
中身は見た目を大きく膨らませるための、木の枝しか入ってない。
これはポーチの存在を誤魔化すだけのものだ。
「今日は一泊しながらゆっぐり依頼消化しやんしょ」
「ウン」
宿には1~2泊するって言ってあるしね。
受けた依頼は、『草原狼の毛皮』『ゴブリンの駆除』そして『採集・モモロ草』の3つだ。
前半2つはともかく、草の種類なんて全く分からないけど……そこはそれ、頼りになるロロンがいるから問題ない。
この依頼を通して野営に慣れ、宿の連泊が終わり次第次の街へ出発するとしよう。
「モモロ草は、湿気た洞窟によぐ生えてやんす。そういうとごにはゴブリンも巣を作りやすいので、一挙両得でがんす」
はあ~、そういうわけね。
やっぱり頼りになるなあ、ロロンは。
「なので、ここがら……」
ロロンが懐から地図を取り出す。
これは、先程の冒険者ギルドで売っていたここ近辺の地図だ。
無茶苦茶大雑把だけど、お値段も10ガルとお安い。
ボクには方位魔石があるので、大まかな方角はわかるから大丈夫だ。
いざとなれば大ジャンプ&念動飛行で周囲の確認もできる。
やったことないけどね。
地図によると、ここから南……街道を外れた先にはちょっとした森や丘が乱立している。
『魔物に注意』という注意書きがあるが、こちらとしては望むところだ。
小川に沿って南下しつつ、魔物を探そうかな。
『お昼ご飯のついでに焼いたお肉を持つのもいいでしょう。今までなら考えられない事ですが、この場合は有用です』
今までは逃げてるだけだったもんね~。
それじゃあ、出発しますか!
ちなみにゴブリンの討伐だけど、殺した後に右耳を切り取るのが証拠になるんだってさ。
ヒエェエ……
・・☆・・
「セイヤアッ!!」「――ギャンッ!?!?」
草むらから飛び出してきた影に、余裕を持って棍棒をスイング!
涎まみれの牙を剥きだした草原狼は、顔面に棍棒がクリティカルヒット。
首が折れ曲がり、片目が飛び出る。
そのまま、痙攣しながら横へ吹き飛んだ。
街道を逸れて進む事、二時間くらい。
昼食の残りを骨棍棒に吊るして歩いていると、すぐに草原狼の群れに襲われた、
依頼には数量の指定はなく、持ってくれば持ってきただけ買い取るって書いてあったから望むところだ!
「えぇ~い!」「――ッギ!?」
上空を飛び回るアカが、遠巻きにこちらを窺っていた1匹に魔法。
一瞬で全身を痙攣させ、草原狼が立ったまま横倒しになった。
「ギュルウ!」「ガアアアッ!!」
「ぬうぅう……!!どっせい!!!!」
そしてロロン。
土の鎧を着込んだ彼女は、わざと両腕を噛みつかせて――そのまま頭どうしをゴッツンコ!!
あああ!頭が半分砕けながらほとんど融合しちゃった!?
……凄い力だ。
「ミンナ、オツカレ」
「おちかれ!おちかれぇ!」
ふう、草原狼くらいなら苦戦せずに倒せるようになってきたね。
今までがボスラッシュすぎたんだよ、まったくもう。
ま、油断はしないけどねえ。
「早速皮を剥ぎやんす」
体から鎧を落としつつ、ロロンが解体用のナイフを取り出した。
魔力を抜いたらただの土になるんだよね、その魔法。
体が土まみれになるのはちょっと不便そう。
「たべゆ?たべゆ?」
アカが目をキラキラさせてるけど……美味しくないんだよなあ、コレ。
前からまずいまずいとは思ってたけど、街の人たちはみんな食べてないんだもん。
「ハイ、干シリンゴ」
「あむあむ」
ふふふ、ポーチの中にはあと5キロの干しリンゴがあるんだ。
アカの為に買い込みました!
『親バカ……いいえ、おやびんバカですね……』
かわいいし!いい子だから!なんにも問題ないでしょ!!
「ア、ボクモ手伝ウ……ヨ‥‥‥?」
「じゃじゃじゃ?」
手伝おうと思ったらもう全部皮になってる……なんていう早業……
仕方ないからクルクル丸めて……紐で縛ってロールにして……背嚢に入れるっと。
これくらいならそのまま担げるから大丈夫だね。
ポーチの容量はまだまだあるけど、トラブルの元になるといけないからね。
筋トレになるかもしんないし!
「ムーク様、ワダスが背負いやんす……」
「ノウ!ボクハ親分ナノデ!」
ロロンも力持ちだけど、見た目が児童虐待になっちゃうから!
でっかいボクが手ぶらなんて、他から見られたらなんて思われるかわからんからね!
「サア、行コ……ム?」
草むらの奥から気配がする!気がする!!
ロロンが槍を構えたから間違いない!
『来ますよ、草原狼ではありませんね』
「敵!来やんす!」
ボクが棍棒を構えたころ、草が揺れて――クッサ!?!?
なんだこの生臭い激臭は!?今まで嗅いだことがないぞ!?
「んぐぅう……こ、こりは……!」
涙目のロロンが後ろへ下がる。
魔力を溜めながら準備していると……草が揺れて、影が、立ち上がった!!
『トライ・ペントという魔物です!魔法攻撃に気を付けて!!』
そこには、三つ首のでっかい大蛇がいた!
ほほーう、新顔!
かかってこいやーッ!!!!
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